最愛の亡き母に父そっくりな子息と婚約させられ、実は嫌われていたのかも知れないと思うだけで気が変になりそうです

珠宮さくら

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周りの令嬢のみならず、アルカン国の者なら王太子が幽霊を見ようとして、色んなところに出向いているのを知っていた。

そんな変な趣味さえなければ、美青年なのにと誰もが残念がっているような王太子だったが、それがついに本物が見えるようになって、体調不良になっていると噂されるようになった。

それを言葉通りに信じている者は少なかったのだが、この出来事から気が変になったと思われることにもなった。留学して来るのを知って、あれこれ調べていたと思われることにもなったのだ。

暗黙のルールを王太子が無視したと言われるようになったのも、すぐだった。

養子になったとは言え、ヨランダは全く知らないのに会ったことがあるふりをしようとしてまで、前からの知り合いのようになりすましてでも、調べたのを誤魔化そうとしているとなったのだ。

だが、そんなことを噂されてまことしやかに言われているのなんて王太子は気にしていられなかった。


「ヨランダ! 頼む。どうにかしてくれ!!」
「っ、」


王太子は、見たくないものが見えるよう日々に疲れていた。そのため、ヨランダの肩を掴まえて必死に頼み込んでいた。

それに驚かないわけがない。いくら王太子でも、婚約者でもないのだ。突然、触られたら誰でも驚く。怒ってもいいところだが、ヨランダは戸惑う方が強かった。


「えっと、すみません。どう、とは?」
「幽霊だ! 君は見えるんだろ?」
「え? 見えませんけど」


だが、王太子はそんなわけないとヨランダにしつこくしてきたが、その時は令嬢や子息が、何やらやばいとなって引き離してくれた。

ヨランダは具合が悪いギリギリの時以外に幽霊が見えたことがなかった。しかも、それをすぎると綺麗サッパリ忘れるヨランダには身に覚えのないことでしかなかった。

それでも、王太子はしばらくするとヨランダのところにやって来た。身に覚えのないことをあれこれ言われても、ヨランダは困るばかりだった。


「兄上。そのくらいにして、部屋に戻りましょう」
「戻れない。あそこが一番いるんだ」
「あー、なら、他の部屋を用意させますから。ヨランダ嬢、すまない」
「いえ」


第2王子は、気をおかしくした王太子を回収する係をしていた。側近たちは、もう終わったとばかりに彼の側を離れてしまい、王太子の友人たちも気味悪がって話しかけなくなっていた。

そのため、第2王子が動くしかなかった。彼は、兄を見捨てられなかったようだ。

第2王子が迎えに来ると王太子は、仕方なさそうに戻って行った。

他の者では、あんなにすんなりと帰っては行けない。

そんな2人をヨランダは、どうしたものかと見送ったが、迷惑だからもう来ないでほしいと思うことはなかった。

ただ、どうにかしてほしいと来られても何もできないとしか言いようがないことにため息がこぼれた。


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