2 / 15
2
しおりを挟むヨランダは、2年ほど前に最愛の母を亡くした。ひとりっ子で、他に兄弟はいない。
母親が亡くなる前から、ヨランダが隣国に留学したがっていたこともあり、姉妹のようにヴァランティーヌとヨランダの母が仲良くしていたこともあり、娘が留学することになったら頼むとお互いが嫁いだあとも変わらず手紙のやり取りをして、そんな話をしていた。
ヴァランティーヌは、その手紙が徐々に間があき始めたことに忙しくしているせいだと最初はあまり気にしていなかった。
でも、その手紙の文字が代筆されるようになった。代筆をしていたのが、ヨランダだ。
最初は、利き手を怪我して、しばらく娘に代筆を頼むことにしたような内容だった。
それが待てど暮らせども、怪我がよくならないようで代筆が続き、そのうち怪我ではなく病気が理由で字を書けなくなっているとわかり、その後、亡くなった。
夫妻では出席が難しく、ヴァランティーヌだけが葬儀に出たが、その頃は、子爵令嬢らしくしていた。母を亡くしたヨランダは気丈に振る舞っていた。
まさか、そのあとで1年も経たずに子爵であるヨランダの父親が再婚して、義母と義姉に虐げられる日々を送っているとは誰が思うだろうか。
アポリネール子爵は、外面が良くて再婚するまでにその2人を住まわせていたのも、上手く誤魔化していた。
妻を亡くしているのに早く再婚するとなっても、1人娘のヨランダを家に1人で置くのが心配だとか、何とか。思ってもいないことを口にして、周りの同情を誘って再婚した。
自分のためでなく、1人娘のヨランダのことを考えてのこととして、これまた外面のよい再婚相手と連れ子が上手く周りに溶け込んだことで、そちらを悪く言う者は、ほとんどいなかった。
それこそ、母方の親戚たちですら、仕方がないかのように思うほど巧妙だった。
「素敵なお父様ね」
「……」
「あそこまで、娘のことを考えてくれる方は、そういないわ」
親戚たちや周りにヨランダは、そんなことをよく言われた。
そう言う人たちは、母をよく思っていなかった人たちが多かった気がするが、言われすぎてヨランダは微妙な顔しかできなかった。
ヨランダにとって、素敵な父とはどうしても思えなかったのだ。それと再婚相手の義母となった人も、義姉もそうだ。ヨランダには、全く良さがわからなかった。
そんなこともあり、ヴァランティーヌは信じていた。母を亡くしても、あちらで幸せに暮らしていると。
ヨランダとは、ヴァランティーヌは手紙のやり取りを続けていたが、再婚したことも、使用人のように扱われていることも何も書かれてはいなかった。
ただ、留学できることになったとなり、ヴァランティーヌに会えるのが待ち遠しいとしか書かれていなかったのだ。
その待ち遠しい中に父親に無視され、義母と義姉に使用人のように扱われていることなど、どこにもそれを悟らせるものはなかった。
数週間前だ。手紙が届いて、留学が決まったと手紙が来て、ヴァランティーヌのみならず、クロードとエミリアン、何なら使用人たちも浮かれていた。
この時に迎えに行って驚かせようとしたかったが、仕事が忙しかったのとヴァランティーヌも予定があって行けなかったのだ。
それが、悔やまれてならない。仕事だとか、都合がつかないなんて言わずに夫妻のどちらかが、子爵家に行っていれば、嫌でも耳にしていたはずだ。
どんなに外面がよかろうとも、娘を勘当したのだ。
あちらで、留学生となった者が色々と言われていようとも、全ては妬みと嫉妬でしかない。頭の良い者を好まないのだ。特に女性が、婚約者よりも頭が良いが、気に入らない者が異様に多い。
アルカン国とは、真逆なことになっていて、何ならそこそこな子息よりも下の成績しかない令嬢を好む傾向が強いようで、そのせいで隣国との学力の差は開く一方になっているが、それを誤魔化すように留学したがる者を婚約者目当てだのと揶揄する者も多い。
そのせいで、ヨランダは学園でも誤解されていたのもあり、義姉がそこにつけ込んで味方を増やすことになるとは思いもしなかった。
そもそも、ヨランダが留学することを夢見ていたのと周りが留学生に抱くものに大きな食い違いがあることを知らなかった。
ヨランダは、純粋に勉強がしたかった。ガイエ国では受けられない授業があり、昔から家庭教師たちが教えることでは物足りなさを感じていたヨランダには、アルカン国はもっと難しい勉強ができる夢の国だった。
そこで勉強したいだけなのに。そんな夢を持つ令嬢などガイエ国では理解する者が少ないため、婚約者がいるのに男漁りに行きたがっているように一部の者からは思われていた。
そのため、友達と呼べる令嬢がヨランダには学園にいないようなところがあった。そこに義姉がつけ込んで、ヨランダのあることないことを吹き込んでやっぱりそうなのかと思われていったに過ぎないのだが、ヨランダは留学して勉強できることしか考えておらず、そのために勉強していてガイエ国では、そんな頭の良すぎる令嬢を息子の婚約者にするのに難色を示す者は少なくなかった。
息子が、より馬鹿に見えると思っているのだが、そうならないように息子にもっと頑張れというより、婚約者となった令嬢の方に色々言うのが普通になっていた。
そのため、ヨランダも婚約者や婚約者の母親から、色々言われていた。嫌味がほとんどだったが、その嫌味に全く気づいていなかった。
彼の父親は他とは違い、才女のヨランダを歓迎していた。それが気に入らないのだが、そこにも全く気づいていなかった。
101
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

身勝手の王子様の新しい婚約者が私ですって? 普通に嫌なので拒否します
こまの ととと
恋愛
長くて短い学園生活も終わり。卒業記念パーティーで思い出に花を咲かせる卒業生達。
そんな心温まる場面を破壊したのは、王子のある言葉からだった。
「この日をもってお前との婚約は破棄にする。そして!」
何故か肩を抱かれる私。私が新しい婚約者!?
冗談じゃない、もう相手が居るっての。
身勝手な言い分ばかり並べる王子は、果たしてどんな報いを受けるのか?

【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです
早奈恵
恋愛
ざまぁも有ります。
クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。
理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。
詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。
二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる