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第1章

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「さて、食べよっか」
「そうだな」


切り分けたのをテーブルに並べて対面して座りながら、祖父はコーヒーを。琉斗は紅茶を淹れた。

魔王が自らコーヒーをたてて淹れる姿なんて、城でやったら大変な騒ぎになるだろうが、ここでは琉斗が紅茶を飲むことが多いため、エデュアルドは自分の飲む分を淹れることもよくあった。

何気にエデュアルドは豆を自分で挽いてから淹れるのだが、淹れ方を琉斗が教えたことはない。むしろ、エデュアルドに教わっているがコーヒーはいまいち美味く淹れられたことがない。

逆に紅茶は、琉斗は誰に教わったわけではないが美味く淹れることができた。それを両親は、よく褒めてくれていた。褒められるままに琉斗が淹れる回数が増えていた気もする。


(あれって、自分たちが淹れるのが面倒くさいから、僕にさせてたってわけじゃないよね?)


2人とも、琉斗が淹れたくない時はティーパックか、インスタントのコーヒーを飲んでいた。あの2人が本格的に淹れて何かを飲んでいた記憶が琉斗にはほとんどない。

もっとも、母に本格的な飲み物を自力で淹れられるなんて思ったことはなかったが。

まぁ、それに比べて飲み物に関してはコーヒーは祖父が淹れるため、琉斗は紅茶を準備するだけで済むから助かっている。

そんなことより、今はタルトのことだ。見た目も完璧に切り分けても、中も完璧にしか見えないが、久しぶりに作ったことに変わりはない。


(これで、美味しくなかったら最悪だな)


そんなことを思ったが、琉斗の杞憂に終わった。それどころか。嬉しい驚きがあった。


「……今までで一番美味しいかも」
「そんなにか? こんな味だったぞ?」
「……父さんの焼き加減は、まだ完璧じゃなかったのかも」


琉斗は、そんなことを思って祖父とタルトを完食した。今までで一番和やかな一時となった。

そう、和んでいると琉斗はちょっとした違和感に気づいた。


「……あれ?」
「どうした?」
「いや、なんか、変な気分」
「あ? 食いすぎたか?」
「いや、お腹じゃなくて、目が……、スッキリして見える」
「は? ……眼鏡、外してみろ」


言われるままに琉斗は眼鏡を外すことにした。もう癖のようになっていたが、家の中で祖父といる時に必要なものではないのだ。

外せというから外したが、祖父はじっと琉斗を見たまま無言だった。


(なんだ? どうなってるんだ? また、おかしなことになってるのかな? やっぱり、そろそろ、ここでの生活は難しいんだよな)


そんなことを思っていたが、祖父が何か言ってくることはなかった。


「……」
「どうなってる?」
「あー、鏡で確かめろ」
「?」


祖父に言われて、洗面所に向かった。見たいような、見たくないような気分だったが、痛みはないのだから悪くなってはいないと思いたいところだ。


(こんなに目に違和感がないのは何年ぶりだろ? また、おかしなことになってなきゃいいけど)


そんなことを思いながら、琉斗は意を決して鏡を見た。


(あれ?)


琉斗は、赤みがかった瞳ばかり見ていたから、すっかり元の瞳の色を忘れかけていた。


「どっちの目も、普通だ」


それをポカンとした顔で、琉斗は見ていた。いくら見ても、どこも何ともない。琉斗は、祖父のところに戻ることにした。


「おじいちゃん、これって……」
「琉斗、この菓子の名前を知ってるか?」
「へ? 名前? ううん。聞いたことないよ」
「“魔封じ”」
「は?」


(なんか、凄い名前を聞いたような……? え? それ、おばあちゃんの得意料理って言ってたよね? それが得意料理って、どういうこと??)


琉斗は、何とも言えない顔を祖父にして見ていた。祖父は、無表情だった。


「お前の祖母が、そう名前をつけたんだ。とんでもねぇ名前をつけたと思っていたが、俺へのあてつけではなかったみてぇだ」
「えっと、よく、わからないんだけど」
「あー、その、お前の祖母だが、そもそも魔族じゃねぇ」
「え? 違うの?!」
「あいつは、人間だ」
「へ?」
「しかも、この人間界に別の世界から追放処分になった元聖女だ」
「追放処分……? 元聖女??」


琉斗は、魔族だと思っていた父方の祖母は、どうやら人間だったようだ。


(別の世界って、なんか、壮大になってきたな)


まずいと最初にそんなことを思ってしまった琉斗も、中々ズレている。祖父も、そんなズレたことを思っているとは思っていなかったことだろう。


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