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第1章
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しおりを挟む魔界のことを勉強しとくのも悪くないだろうとエデュアルドに言われて、それもそうかと琉斗が、この年を堺にして夏休みになるたび城に滞在することになった。
勉強と従兄であるシネルと遊ぶことを満喫する日程が組まれていて、その年以降はやたらと琉斗と仲良くなろうとする伯父たちや他の親族たちや、取り入ろうとする面々に琉斗は気づかないふりをして無邪気にあしらい続けた。
それを魔王は耳にするたび、大笑いしていた。大概なことで琉斗は、魔王である祖父に困ったことになったと話すことはなかったのだ。
エデュアルドだけではない。シネルにすら、それを琉斗はあまりしなかったのだ。
琉斗が高校生となってから、中々大学生となるわけにいかなかったのは、両親の加護が作用してのことだった。抑えられ続けられるのなら、加護を壊すことなく、そのままにしたかったのだ。
人間としての年齢と魔族や魔法族としての年齢の誤差のせいで、高校生活が延長に延長し続けることになってもいた。
そのため、次は魔族の者が通う学校にシネルのように早めに通わせるものと魔界では思われていた。
でも、魔王である祖父は、それではつまらないと内心では思っていた。つまらないとは琉斗が既に大人たちですら翻弄してしまっているからだ。もっと年齢があがってからならまだしも、シネルよりも、さらに幼いというのにそんな才に溢れているのが、魔界の学校に若者と通えば、行き着く先は次の魔王に琉斗を推挙しようとする者が、こぞって現れて琉斗の邪魔をしてしまうことだ。
ただですら、共鳴したことで琉斗という存在は隠し通せずにいるのだ。魔王が、かつて誰よりも息子の中で目をかけていた息子の子供であり、その息子の忘れ形見であり、魔王の末の孫であり、どの孫よりもお気に入りとなっている。
何食わぬ顔で、孫のもとに行っていたが、限界が近いことを察して悩んでいる琉斗にとっては、そんな選択肢もあるのかと目を輝かせることになったかというとそうでもなかった。
人間界にやたらと長く居続けようとしていたのは、両親との思い出深いところだったからではなかったようだ。
そこに琉斗と同じ出来損ないであり、半端者となった有紗がいたことも大きく影響していたようだ。彼女には頼れる相手が母親しかいないのだ。
それに祖母の成すべきことを琉斗が無意識のうちに肩代わりしていることまで知りようもなかったのだ。人間界を守ることこそ、祖母がやるべきことだったが、それをやる前に追放処分になってしまっていることを琉斗は知らなかったのだ。
そして、そんな血を引いている琉斗が人間界で生まれ育ったことで、その世界を守護する者として勝手に位置づけられてしまっていたことを誰も知らなかったのだ。
何気にエデュアルドは、琉斗のその目を間近で見るのがたまらなく好きだった。その瞳の煌めきは、琉斗の父親である朔斗の母親と同じだったのだ。エデュアルドが、一番好きだった女と全く一緒だった。もう二度と見ることは叶わないと思っていた瞳を琉斗は持っていた。
あの年にエデュアルドが、愛してやまない人を近くに感じたのも、それが影響していたようだが、そんなことで気づけるわけもなかった。いくら魔王でも、そちら方面までは知らないこともあったのだ。
厄介な力も持っていることに気づいてもしまっていても、祖母の血がそこまで琉斗に代わりをやらせているとは思わなかったのだ。
魔族のみならず、魔法族の血も濃く受け継いでいるようだ。芒星のみならず、魔法陣をその瞳に宿していたのだ。それに赤い瞳も、魔族にとっても、魔法族にとっても、力の強さを示していた。
その色合いを安定させられないというか。変化させ続けることに日々の生活で、かなり無理をしているのではないかとエデュアルドは気が気ではない部分があったが、生まれも育ちも人間界なこともあり、その辺は逞しく成長したようだ。
琉斗をこの上なく可愛がることを知る者は、その瞳を見ただけで理由がわかりそうなものだが、もう魔王の側近くにはすぐにわかる苦楽をともにした者はいないようなものだった。そのため、エデュアルドは満たされることのない気持ちを常に持っていた。
死んで愛してやまない妻に再び出会うまでは、それが満たされることはないと思っていたが琉斗を見て、考えを改めたのは割とすぐのことだった。
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