僕は出来損ないで半端者のはずなのに無意識のうちに鍛えられていたようです。別に最強は目指してません

珠宮さくら

文字の大きさ
上 下
36 / 42
第1章

36

しおりを挟む

魔界のことを勉強しとくのも悪くないだろうとエデュアルドに言われて、それもそうかと琉斗が、この年を堺にして夏休みになるたび城に滞在することになった。

勉強と従兄であるシネルと遊ぶことを満喫する日程が組まれていて、その年以降はやたらと琉斗と仲良くなろうとする伯父たちや他の親族たちや、取り入ろうとする面々に琉斗は気づかないふりをして無邪気にあしらい続けた。

それを魔王は耳にするたび、大笑いしていた。大概なことで琉斗は、魔王である祖父に困ったことになったと話すことはなかったのだ。

エデュアルドだけではない。シネルにすら、それを琉斗はあまりしなかったのだ。

琉斗が高校生となってから、中々大学生となるわけにいかなかったのは、両親の加護が作用してのことだった。抑えられ続けられるのなら、加護を壊すことなく、そのままにしたかったのだ。

人間としての年齢と魔族や魔法族としての年齢の誤差のせいで、高校生活が延長に延長し続けることになってもいた。

そのため、次は魔族の者が通う学校にシネルのように早めに通わせるものと魔界では思われていた。

でも、魔王である祖父は、それではつまらないと内心では思っていた。つまらないとは琉斗が既に大人たちですら翻弄してしまっているからだ。もっと年齢があがってからならまだしも、シネルよりも、さらに幼いというのにそんな才に溢れているのが、魔界の学校に若者と通えば、行き着く先は次の魔王に琉斗を推挙しようとする者が、こぞって現れて琉斗の邪魔をしてしまうことだ。

ただですら、共鳴したことで琉斗という存在は隠し通せずにいるのだ。魔王が、かつて誰よりも息子の中で目をかけていた息子の子供であり、その息子の忘れ形見であり、魔王の末の孫であり、どの孫よりもお気に入りとなっている。

何食わぬ顔で、孫のもとに行っていたが、限界が近いことを察して悩んでいる琉斗にとっては、そんな選択肢もあるのかと目を輝かせることになったかというとそうでもなかった。

人間界にやたらと長く居続けようとしていたのは、両親との思い出深いところだったからではなかったようだ。

そこに琉斗と同じ出来損ないであり、半端者となった有紗がいたことも大きく影響していたようだ。彼女には頼れる相手が母親しかいないのだ。

それに祖母の成すべきことを琉斗が無意識のうちに肩代わりしていることまで知りようもなかったのだ。人間界を守ることこそ、祖母がやるべきことだったが、それをやる前に追放処分になってしまっていることを琉斗は知らなかったのだ。

そして、そんな血を引いている琉斗が人間界で生まれ育ったことで、その世界を守護する者として勝手に位置づけられてしまっていたことを誰も知らなかったのだ。

何気にエデュアルドは、琉斗のその目を間近で見るのがたまらなく好きだった。その瞳の煌めきは、琉斗の父親である朔斗の母親と同じだったのだ。エデュアルドが、一番好きだった女と全く一緒だった。もう二度と見ることは叶わないと思っていた瞳を琉斗は持っていた。

あの年にエデュアルドが、愛してやまない人を近くに感じたのも、それが影響していたようだが、そんなことで気づけるわけもなかった。いくら魔王でも、そちら方面までは知らないこともあったのだ。

厄介な力も持っていることに気づいてもしまっていても、祖母の血がそこまで琉斗に代わりをやらせているとは思わなかったのだ。

魔族のみならず、魔法族の血も濃く受け継いでいるようだ。芒星のみならず、魔法陣をその瞳に宿していたのだ。それに赤い瞳も、魔族にとっても、魔法族にとっても、力の強さを示していた。

その色合いを安定させられないというか。変化させ続けることに日々の生活で、かなり無理をしているのではないかとエデュアルドは気が気ではない部分があったが、生まれも育ちも人間界なこともあり、その辺は逞しく成長したようだ。

琉斗をこの上なく可愛がることを知る者は、その瞳を見ただけで理由がわかりそうなものだが、もう魔王の側近くにはすぐにわかる苦楽をともにした者はいないようなものだった。そのため、エデュアルドは満たされることのない気持ちを常に持っていた。

死んで愛してやまない妻に再び出会うまでは、それが満たされることはないと思っていたが琉斗を見て、考えを改めたのは割とすぐのことだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

常識的に考えて

章槻雅希
ファンタジー
アッヘンヴァル王国に聖女が現れた。王国の第一王子とその側近は彼女の世話係に選ばれた。女神教正教会の依頼を国王が了承したためだ。 しかし、これに第一王女が異を唱えた。なぜ未婚の少女の世話係を同年代の異性が行うのかと。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。

王子が元聖女と離縁したら城が傾いた。

七辻ゆゆ
ファンタジー
王子は庶民の聖女と結婚してやったが、関係はいつまで経っても清いまま。何度寝室に入り込もうとしても、強力な結界に阻まれた。 妻の務めを果たさない彼女にもはや我慢も限界。王子は愛する人を妻に差し替えるべく、元聖女の妻に離縁を言い渡した。

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

蓮華

釜瑪 秋摩
ファンタジー
小さな島国。 荒廃した大陸の四国はその豊かさを欲して幾度となく侵略を試みて来る。 国の平和を守るために戦う戦士たち、その一人は古より語られている伝承の血筋を受け継いだ一人だった。 守る思いの強さと迷い、悩み。揺れる感情の向かう先に待っていたのは――

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

処理中です...