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第1章

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魔王が具合を悪くしていたのは、本当にデマでしかなかった。ただ、この時期になると気怠くなる理由をもう周りの誰も気づいていないだけにすぎなかった。

何やら、こそこそと息子たちや周りの者がしているとわかり仕掛けたことだったが、それで思わぬ収穫があるとはエデュアルドも思ってはいなかった。

琉斗のことをエデュアルドですら探せなかったはずだが、シネルは従兄弟同士は相性が思いの外良かったようだ。そのせいで、思わぬことになったが、それはエデュアルドにとっては嬉しいことでしかなかった。

どうにも、人間界で生活するにも、遠くない未来に限界が来ることは目に見えていたが、生粋の人間界生まれの琉斗に両親との思い出深い人間界での暮らしも、成長しきってからでは難しくなってしまうことを伝えられずにいた。

でも、琉斗は察して限界が来るまでは人間界で暮らせるものなら暮らしていたいと言う琉斗の望みを魔王は叶えてやることにしたのは、それからすぐのことだった。

このままいけば魔界であろうと他の世界であろうとも、琉斗には住みにくいことになりかねないことをエデュアルドは、琉斗に伝えることはなかった。

現に魔界の住人ですら恐れおののく魔王の膝の上で、琉斗はケロッとしているような孫だ。魔族に殺気を向けられようとも、魔王に射殺さんばかりにそいつらが睨まれようとも、この至近距離で震え上がることもなかったのだ。

大物にならないわけがない。


「確かに。異常だな」
「?」


きょとんとした顔を琉斗はした。

つい先程、琉斗は記憶を無意識で上書きしたのだ。人間界でなら容易くできただろうが、魔界であれだけのことをやろうとしてケロッとしてられる者など、そうはいない。

魔王が手助けしたにしても異常でしかない。


「お前の両親は亡くなったことで、お前に加護を与えることになったようだな」
「加護……?」


どうやら、琉斗は規格外で色んな家系の血を色濃く受け継いでしまったようだ。エデュアルドとしては、魔族だけならいいが、魔女である母親の方の血まで色濃く受け継いでいたら、質が悪いことになりそうだとは思っていたが、魔族の血に勝ることはあり得ないと思って、すぐさまそちら方面をどうにかすることを除外した。

それに琉斗からみて、祖母にあたる血も濃く受け継いでいるとなれば、さらに話はややこしくなるが、それが一番厄介で脅威になることにはならないとこの時のエデュアルドは思っていた。

だが、魔王である祖父と平然と会話する琉斗が、想定内におさまるわけがないとこの時、思わなかったことで魔王ですら頭を抱えそうなことになるとまでは考えていなかった。

琉斗の祖母が何者で、彼女が成すべきことを中途半端にしたままとなったことで、琉斗が人間界を守護する側になっていることにまでは気づかなかったのだ。

今回の親族の集まりも、魔王の息子たちが虎視眈々と次の魔王になるために動いていたが、それが魔王に筒抜けになっていることまでは気づいていなかったようだ。

ギーゲルは、体面を保つために長兄として、慌てて息子に琉斗を呼びに行かせたが、すんねり息子が見つけて戻って来ることまでは想定していなかったのだ。

そのため、反発する親族との板挟みにあい、呼びに行かせておきながら、琉斗を会わせまいとして、親子喧嘩をすることになったのだ。全ては、自分が次の魔王に選ばれたいがゆえでしかなかった。

エデュアルドは、琉斗のことを城に来ているのを把握しきれなかったのは、最愛の人の死の時期に重なってしまい、今年は特にいつも以上に無性に寂しく感じてしまっていたせいで、孫が来ていることを感知できなかったようだ。

それこそ、最愛の人の存在を近くで感じることをエデュアルドは、気が弱っているせいだと思って振り払おうとしていたからのようだが、その話を誰かにすることはなかった。

結局のところ、ギーゲルはパフォーマンスだけで、琉斗のことを出来損ないの半端者でしかないと思っていたのだが、それがとんでもない逸材だとわかるも、すっかり息子が琉斗と仲良くしているのを見て、どうにかして琉斗に自分とも仲良くしてもらおうとするも、そんな思惑に全く靡くことはなかった。

こうして、琉斗は夏休み中の何日かを魔界で過ごすことが、いつものことになったのも、この時からだった。


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