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第1章

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「……つまり、俺の具合が悪いのを理由に親族会議しようとして、集めたってわけか。それなのに俺に挨拶させるかで揉めてるとは、おかしな話だな」
「それは、魔王様のお加減がよろしくないと伺っていたので……」
「加減が悪かろうと親族の集まりに出席するには、俺に挨拶しねぇと駄目だろ。それをシネルは強行突破しようとしたと?」
「は、はい。琉斗が、帰ろうとしたので、せめて会ってからがいいかと……」


シネルの言葉にエデュアルドは、眉を顰めた。


「会わずに帰ろうとしたのか?」
「だって、おじいちゃんが具合が悪いのに無理させたらいけないと思って。会わせられないくらい悪かったんでしょう?」
「……」


おじいちゃんと言う単語に慣れない者たちは、その単語だけでも、何度聞こうともぎょっとしていた。あり得ないことが起こっているのだ。魔王に対してこんなにまで祖父と孫にしか見えない構図は、見たことがなかった。


「僕、ご挨拶しても、そもそも親族の集まりの方に出る気はなかったんです。ただ、おじいちゃんに会って両親のこと話したら帰るつもりで来てたので。それが、揉めてる原因が僕だってわかってシネルさんも、僕のせいで親子喧嘩してたから、申し訳なくて……」
「そうか。琉斗は、気遣って帰ろうとしてたんだな」
「でも、おじいちゃんが元気そうで安心しました。もう、どこも苦しくない? 痛くない?」
「あぁ、大事ないから安心しろ」
「よかったぁ~」


へにゃあ~と安堵する琉斗の頭を魔王は定位置の玉座に座りながら、その膝に琉斗を乗せて思わず孫の可愛さに負けて撫でていた。

撫でられたことにきょとんとしながら、嬉しそうに琉斗は笑った。

そんな姿は周りの誰もが見たことはなかった。息子にも、他の孫にもしたことはないことだった。

更におじいちゃんと呼ばれても怒りもしない魔王にみんなは顎が外れそうなほど、ポカンと間抜けな驚き方をしている者もいた。


「シネル。お前が、琉斗を呼びに行ったのか?」
「あ、はい。父上に頼まれたので」
「そうか。お前の叔父も連れて来いとは言われなかったんだな?」
「そうです。でも、亡くなっていたとは知らなくて」
「そうだろうな。俺も知らなかったんだ。なぁ、ギーゲル。どうして、琉斗だけを呼びに行かせたりしたんだ?」


ギーゲルとは、シネルの父親の名前のようだ。


(ちょっと、パパに似てるな。ちょっとだけだけど。シネルさんの方が格好いいな。シネルさんは、おじいちゃんに似たんだな)


「そ、それは、魔王様のお加減がよろしくないと聞いたので、親族の集まりを開こうとしてのことです」
「なら、親子を呼ぶべきだろ? なのにお前は、琉斗だけを息子に呼びに行かせた。なぁ、俺でも知らなかったのに。なんで、琉斗だけと言ったんだ? まるで、呼べる奴が、琉斗しかいないのを知ってる見てぇじゃねぇか?」
「っ、」


そこまで言われてシネルは、ハッとした顔をした。


「親父……?」
「あ、いや、駆け落ちして、勘当したので、呼び出しには応じないと思っただけです」


そんなことを言っているが、ギーゲルは魔王に会わせる気はなかったのは明らかだ。その矛盾にエデュアルドは眉を顰めずにはいられなかった。


「琉斗」
「はい」
「辛いことを聞くが、両親はどうして亡くなったんだ?」
「え? えっと、事故死したと聞いてます」
「あ?」
「?」


事故死と聞いて、ざわついたのを琉斗は不思議そうにしていた。


(なんか、まずかったかな?)


「申し訳ありません! 琉斗様にそう伝えたのは、私です」
「使い魔。どういうことだ?」
「お二人は、その、他の者の追っ手をかわすためと琉斗様の今後のために身をていして守ろうとして亡くなったのです」
「え?」


琉斗は、惺真の言葉に俯いていた。そんなことは初耳だったのだが、何やら胸が痛んでならなかった。


(他の者の追っ手……? 身をていした理由は、僕のせいでもある……?)


「完璧じゃなきゃ」
「ん?」


琉斗は、無意識のうちにそこでも、記憶の上書きをしていた。それに上書きされなかったのは、魔王である祖父のみだった。

使い魔の惺真は、前の時の上書きが上手くいってはいなかったようだ。無意識で琉斗は力を使おうとしていた。


「……とんでもねぇな」
「?」
「ま、魔王様……?」


魔王は、末の孫がしたことを綺麗に隠してやることにした。

その瞳が真っ赤に染まり、芒星と魔法陣をそれぞれに宿すのを見て、思わずエデュアルドはそんなことを口にしていた。

この孫は規格外することに気づいてしまったのだが、それを孫にも誰にも気づかれることなく、魔王は己の力で隠すことにした。

ぼんやりと琉斗までもして、他の者たちも何が起こったのかときょろきょろしていた。


「悪かったな。俺が、具合悪いとデマ流して、お前を探させようとしたんだ」
「へ? そうなの?」
「だが、あいつが死んでるとは思わなくてな」


この時から、琉斗が両親の血でありながら、魔族の血が先祖返りしていることを魔王だけが見抜いていることに他の誰も気づいていなかった。

だが、その魔王も、琉斗の母親の魔女の血までご丁寧に先祖返りしていて、魔界にとっても、魔法族にとっても脅威になる存在だとは思ってもいなかった。

そして、琉斗の父親の母の家系の血までも色濃く出ているなど知りもしなかったのだ。それこそ、エデュアルドだけが琉斗の祖母にあたる女性の出自を知っていた。彼女を低級の魔族だと思われていることも知っていたが、それを肯定も否定もしたことはなかったが、本当は琉斗の父である朔斗はハーフだったのだ。

だが、そのことを琉斗に伝えるかで悩むことになるとは思っていなかった。そもそも、魔王は伝えるつもりはなかったのだ。一生、誰にも話さず墓場まで持っていくつもりでいたことだったのだから。

それこそ、息子夫妻はとんでもない忘れ形見を残したもんだとエデュアルドは思うことになったが、肝心の琉斗はきょとんとしたままだった。


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