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第1章

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(凄いな。やっぱり、パパのパパだ。あ、聞いとかなきゃ)


ハッとした琉斗は、おずおずと声を発した。先ほどまで、しっかり受け答えしていたが、何やらもじもじとし始めたのだ。


「あ、あの、えっと……」
「ん? どうした?」


スタスタと歩きながら、エデュアルドは琉斗を見た。先ほどまでとうってかわって、言いづらそうにしているのを察知していた。受け答えがしっかりしていようとも、10歳という年齢は魔族からしたら赤子も同然にすぎない。

更にきっちりしている部分とインパクト大な挨拶をかましたのだ。琉斗は、全くそんなつもりはなかったが、がっちりと祖父の心を掴まえていることに気づいてはいなかった。

その掴まえているのが、祖父のみならず、結構な大勢になりかけていることにも琉斗は気づいてはいなかったが。

今度は何を言うつもりだと周りも思っていることにも、琉斗だけが気づいていない中で、チラチラと祖父を見ては、視線を彷徨わせたのだ。

足が長いからかなり歩いていても着かないほど、この城は広いようで、魔王の後ろをぞろぞろと歩いているようだが、抱っこされていて、祖父の心地の良い心臓の音しか聞こえない。

祖父は気が長い方ではない。むしろ、短い方だが、琉斗が何やら言いたいけど、言いにくいというか。言ってもいいのだろうかと悩んでいるのはわかった。

そこまでして、何を聞きたいんだろうかと思うが、大したことではないとエデュアルドは勝手に思っていた。そう、祖父と琉斗に度肝を抜かれることになるとは夢にも思ってはいなかったのだ。


「おじいちゃんって、呼んでもいいですか?」
「……」


琉斗は、父の言葉を思い出していたこともあり、本人に聞いてみろと言われたから聞いたのだ。色々とすっ飛ばして、意を決して聞いたのだが、前後の説明がなさすぎることに全く気づいていなかった。

どうしていきなり、おじいちゃんと呼んでもいいかとなるかなんて、父親が聞いてからにしろと言われたからだと言えば、何でそんな話になるんだとなるところだが、そこが抜けてしまっているため、足音すら掻き消えるほど一瞬にして静まり返ってしまったのだ。

琉斗の爆弾は思いの外、魔王にも絶大な効力を発したのは言うまでもない。

大したことないと思っていたのが、とんでもない威力を発揮したのだ。あの魔王ですら、固まるほどのものだったのだから、周りが微動だにできなくなるのも無理はなかった。

だが、周りなんて琉斗はどうでもよかった。というか、気にしている余裕などなかった。


「だ、駄目ですか? なら、えっと、じぃじ? おじじ様? えっと、グランパ? えっと、えっと……」


一生懸命にどう呼んだらいいかと聞いておきながら琉斗は悩んでいた呼び方を言葉にした。


(他は、何だっけ? ……呼ぶなって言われたら悲しいな)


そんなことを言われたら悲しすぎる。

琉斗は、じわぁ~と涙が浮かび始めていた。琉斗は、こんなに泣いたことはない。すぐに泣くなんてこともない。でも、色々と溜め込んでいたものが琉斗にもあったようだ。

ぐすっ、ぐすっと言いながら、おじいちゃんと呼びたいとぽつりと言うのが、魔王である祖父に届いていた。それは、もうしっかりと。


「あー、おじいちゃんでいい」
「っ、おじいちゃん!」
「おぅ」
「えへへ。僕、初めてです」


泣き笑いながら嬉しそうにそう言う孫にエデュアルドは柔らかな顔を返していた。


「そうか。俺もだ」


和やかだったのは、琉斗とエデュアルドだけだった。

周りは、そんな会話を聞いてぎょっとしていた。

ただ1人、シネルは琉斗を目を輝かせて見ていた。魔王にそんなことを言った孫は、琉斗が初めてだったのだ。しかも、抱きかかえられ楽しげに会話をしているのだ。普通なら、同じ孫として嫉妬しそうなところだが、シネルには琉斗に対して嫉妬という感情はなかったようだ。

シネルからしたら、初めてできた弟のように思えていたようだ。琉斗からも、弟のように見られていることに気づくこともないことが、救いかも知れない。

どちらも、自分が兄だと思っているところが面白くて、祖父はその辺りが面白くて仕方がないと思うのは、これからしばらく後のことだった。


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