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第1章
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しおりを挟む「僕が無礼だとしても、母は関係あるんですか? つまり、こういうことですか? あなた方が無礼だと親も悪いってことになるってことですか? 子供だけが、どうして親を引き合いにだされるんでしょうね」
「子供の無礼を親が責任とることになるからだろうな」
「そうですか。でも、無理ですよ。僕の両親は、2人とももう亡くなってますから」
「……なんだと?」
だが、琉斗はため息をついて、瞬きをするうちに赤さが引き始めた。その速さにも魔王は驚いていたが、琉斗はそんなこと気にする余裕もなく頭を下げた。
「無礼がすぎるなら、もう帰ります。シネルさん、ごめんなさい。お父さんと喧嘩させるようなことまでさせて」
「は? そんなの気にするな。俺が勝手にしたんだし。いや、待てよ。帰るのか?」
「うん。両親を馬鹿にする言葉は、もう聞きたくない。ここは、僕には辛すぎる」
琉斗は、初めて涙した。両親が亡くなって、数ヶ月経つが、それまで一度も泣いていなかった。亡くなったばかりの頃、みんな両親のことをいい人たちだったと言ってくれていた。引っ越してきたばかりでも、よく知りもしなくとも。
前のところの人たちは会いに来てはくれずとも、いい人たちのままでよかったのだ。
(この人たちだって、2人のことを駆け落ちしてからのことなんて何一つとして知らないのに。僕が両親を一番よく知ってるだけでいいや。もう、聞きたくない)
琉斗は、怒りではなくて悲しみが強くなりすぎていた。
「もう、いないのに。何で、馬鹿にされるのかを聞かなきゃならないんだ。僕には、最高の両親なのに」
悔しくて悔しくて琉斗は泣いていた。泣いたことで、瞳の赤さが変化していることに本人は気づいていない。色が変化しただけでなくて、瞳の中に芒星が現れていた。片目だけだが。
そして、深い悲しみは城全体だけでなく、魔界全土に広がった。それほどまでに深い悲しみを琉斗は有していたのだ。
それにシネルは一番に共鳴したように泣いていて、他の者も泣いていたり、涙を堪えていた。
魔王は、そんな者たちと違い、無表情のままで琉斗を見つめているだけだった。
「……悪かった」
「ま、魔王様」
「そうか。あいつら、死んだのか。人間界で、死ぬこともあるんだな」
「……」
琉斗は、目をパチクリさせた。謝罪されるとは思ってなかったのだ。その驚きからか、瞳の中の芒星が揺らめいて消えていた。それを見ていたのも、魔王だけだった。
「俺は、エデュアルド・ライヒェンシュタイン。坊主の名前は?」
名乗られたことで、琉斗は涙を拭ってから姿勢を正して答えた。
「初めまして、三廻部琉斗と言います」
それを見てエデュアルドは、ニッと笑った。つられるように琉斗も笑った。その顔は、幼い頃のエデュアルドに似ていることに古株は気付いた。まだ、あどけなさが残る幼少期は、琉斗のような無邪気な少年だったのだ。
幼くして、母を亡くしたエデュアルドが、一度悲しみに暮れて同じようなことをしたことがあった。そんなこと、覚えている者は魔界でも少ないが。
「琉斗。いくつだ? あー、俺は、いくつだったか。4桁の後半よりはいってるはずだが、あいにく数えてなくてな」
「4桁の後半。お元気ですね。僕は、10歳です」
「10歳か。そうか。しっかりしてるな」
そう言いながら、エデュアルドは話しづらいと思ったのか。より首をあげすぎてひっくり返りそうになってる琉斗を抱き上げていた。
「っ!?」
「それで、どうして、ここに琉斗がいるんだ? そもそも、転がって寄越すくらいだ。きちんと説明してくれるんだろうな?」
エデュアルドに睨まれた魔族たちは顔色を悪くしていたが、琉斗は祖父に抱き上げられて驚いて固まっていた。
惺真ですら、琉斗を抱き上げはしなかったのだ。母の使い魔なこともあり、それが無礼になるのかも知れないが、琉斗は父親に抱き上げられた記憶がなかった。
先ほどのシネルが姫抱きしたのは別として。あれは、もう琉斗は忘れようとしていた。
(そういえば、抱っこなんていつぶりだろう?)
「まぁ、話は広間で聞く。琉斗、身体は平気か?」
「?」
「派手に転がって来たろ?」
まさか、忘れてないよな?と言わんばかりに言われて、ハッとした。
「あ、はい。怪我は、すぐ治るので」
「そうか。流石は、俺の孫だ。お前の父親も、怪我の回復は早かったが、その歳でとなると父親よりも上かもな」
「っ、」
どうやら褒めてくれているようだ。自分のみならず、息子であり、琉斗の父親のことも話してくれる辺り、琉斗を気にかけてくれているようだ。
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