29 / 42
第1章
29
しおりを挟むシネルは色々言う奴らが気に入らないらしく暴れまわっていたが、琉斗は相変わらずだった。その温度差に惺真の顔は凄かったが、彼が内心で何を思っていたかを琉斗も、周りも知りはしなかった。
特に琉斗は、呑気なことばかりだった。
「魔界って、毎日ハロウィンみたいなとこだね」
「琉斗様、それは他では言わないでください」
「?」
惺真は、ここに来てからやつれてきている気がするが、琉斗は疲れているのだと思っていた。何に疲れているかに全く気づいてはいなかったが。
琉斗はきょとんとした顔をして惺真を見た。
「ハロウィンって、ここで通じるの?」
「その時期に悪戯しに人間界に行く魔族もいると聞いたことがあります。母君も、魔女の格好で暴れておりした」
「……それ、もはや仮装じゃないよね?」
惺真の言葉に琉斗は、想像がしやすかった。琉斗の母親が、テーマパークのイベントで張り切る姿を覚えていて、それを思い出してしまったのだ。
(僕より、張り切ってたもんな。お陰で、僕も全力であたらないといけなくなって、パパに頑張れって他人事みたいに応援されたっけ。懐かしいな)
結局は、父は他人事にしていたのを母に咎められはしなかったが、ものの見事に巻き込まれていた。
そして、満足いった母とイベントから帰る頃には疲労困憊となった琉斗と父がぐったりとなってしまっていたが、母だけは元気が有り余っていた。
あの時の父は、イベントでこんなに疲れたことはないようなことを言っていた。
「そっか。それで、イベントを今更全力でやるはめになるとは思わなかったって言ってたのか」
「父君は、ハロウィンで人間の仮装をしたことがありますよ」
「……そっち?」
琉斗は、父のチョイスした仮装に何とも言えない顔をしていた。
惺真は懐かしそうにしていた。どうやら、琉斗が産まれる前のことのようだ。駆け落ちしたあとで人間界で過ごす初めてのハロウィンで、それをやったらしい。
「天然なところがおありでしたから。ですが、ウケ狙いで、ウケないことを不思議がられているのを見て母君は爆笑されてました」
「……ママらしいね」
ウケるはずもない。人間しかいないところで、人間の仮装って、発想されてもウケるわけがないのだが、父には理解できなかったのだろう。
それを見て母が爆笑したくなるのもわかる。そんなのと駆け落ちしてたのかと一気に恋心が冷めなくてよかったと琉斗は思わずにはいられなかった。
(僕なら、遠い目をしてたろうな。他人のふりをしない辺りがママだよね。そこで、愛が冷めないところが、駆け落ちするほどだったわけだよね)
わけがわからない顔をしている父と爆笑している母が、そこにいたら琉斗ならどうしていたかと思えば、行き着いたのは他人のふりだった。
そんなことを考えていると惺真が更に懐かしそうにこんなことを言い出した。
「琉斗様が、仮装なさる時は、何を着せるかで喧嘩なさった時もありましたよ」
「え? そうなの?」
「琉斗様は、まだ小さかったので。お二人が揉めている間にシーツを被ってお化けになっていましたけど」
それを聞いて、思い当たるところがあった。幼稚園の頃のことだ。
「あぁ、あの時の。何だっけ? 座敷わらしと雪男だっけ?」
両親が、息子にどんな仮装をさせるかで揉めていて、どっちも嫌だと思った琉斗はやりたいものをやることにしただけに過ぎない。
(大体、そのどっちかって選択肢が、究極すぎるよね)
「えぇ、どちらも本当に存在していると思っていたようですよ」
「え? いないの?」
「……」
「いや、だって、魔族とか、魔女とかいるから。そっか。いないのか」
「……」
琉斗は、なぜかしょんぼりとしていた。それは両親も、同じような反応をしていたらしく、惺真が益々懐かしそうにしていたのを見てはいなかった。
なんだかんだと言っても、血は確実に繋がっているのだ。
そんなことを話していたところにノックもなく入って来たのは、シネルだった。まぁ、ここに入って来るのは、シネルくらいしかいないが。
「琉斗!」
「はい? あれ、シネルさん、どうしたの?」
「魔王に会いに行くぞ」
「え? 許可でたの?」
「あんな堅物ども、どうでもいいんだよ」
おお揉めしたまま、解決はしてないようだ。シネルの言葉に琉斗は、とりあえず聞いてみた。
「えっと、それって大丈夫なの?」
「孫は、孫だ。親父だって、呼んで来いって言っといて、魔王に挨拶させられないなんて、おかしなこと言いやがって。そもそも、挨拶できてなきゃ、親族の集まりにも出席できねぇんだよ。呼んだ意味ねぇだろ」
「でも、具合がよくないんでしょ? 僕が会いに行って何かあったら……」
「何だよ。魔王に会いたくねぇのか?」
「会いたいよ。でも、それで迷惑かけたくないし、具合を悪化させたいわけじゃないんだ。それに親族の集まりにも、正直興味ないんだ。ただ、両親のこととか。直接話したいことがあるだけで、一方的なことだから」
「だぁー! まどろっこしいな!」
「っ!?」
シネルは、強行突破することにしたらしく、琉斗を抱えて魔王のところに向かった。
(何で、抱えるのさ?!)
しかも、お姫様抱っこされることになって琉斗は、そんな格好で城の中を駆け回るシネルに文句を言いたかったが、暴れっぷりが酷くて文句が口から出ることはなかった。
「シネル様! なりません!」
「うっせぇー!」
琉斗は荷物より大事に抱えられて、すぐに気持ち悪くなっていた。
10
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
転生したらついてましたァァァァァ!!!
夢追子
ファンタジー
「女子力なんてくそ喰らえ・・・・・。」
あざと女に恋人を奪われた沢崎直は、交通事故に遭い異世界へと転生を果たす。
だけど、ちょっと待って⁉何か、変なんですけど・・・・・。何かついてるんですけど⁉
消息不明となっていた辺境伯の三男坊として転生した会社員(♀)二十五歳。モブ女。
イケメンになって人生イージーモードかと思いきや苦難の連続にあっぷあっぷの日々。
そんな中、訪れる運命の出会い。
あれ?女性に食指が動かないって、これって最終的にBL!?
予測不能な異世界転生逆転ファンタジーラブコメディ。
「とりあえずがんばってはみます」
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
この称号、削除しますよ!?いいですね!!
布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。
ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。
注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません!
*不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。
*R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。
えっ? 平凡ですよ??
月雪 はな
ファンタジー
交通事故で命を落とした、女子高生のゆかり。目を覚ますと、異世界に伯爵令嬢として転生していた! なのに、待っていたのはまさかの貧乏生活……。だから私、第二の人生をもっと豊かにすべく、前世の記憶を活用させていただきます! シュウマイやパスタで食文化を発展させて、エプロンやお姫様ドレスは若い女性に大人気! その知識は、やがて世界を変えていき――? 幸せがたっぷりつまった、転生少女のほのぼのファンタジー開幕!
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる