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第1章

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シネルは色々言う奴らが気に入らないらしく暴れまわっていたが、琉斗は相変わらずだった。その温度差に惺真の顔は凄かったが、彼が内心で何を思っていたかを琉斗も、周りも知りはしなかった。

特に琉斗は、呑気なことばかりだった。


「魔界って、毎日ハロウィンみたいなとこだね」
「琉斗様、それは他では言わないでください」
「?」


惺真は、ここに来てからやつれてきている気がするが、琉斗は疲れているのだと思っていた。何に疲れているかに全く気づいてはいなかったが。

琉斗はきょとんとした顔をして惺真を見た。


「ハロウィンって、ここで通じるの?」
「その時期に悪戯しに人間界に行く魔族もいると聞いたことがあります。母君も、魔女の格好で暴れておりした」
「……それ、もはや仮装じゃないよね?」


惺真の言葉に琉斗は、想像がしやすかった。琉斗の母親が、テーマパークのイベントで張り切る姿を覚えていて、それを思い出してしまったのだ。


(僕より、張り切ってたもんな。お陰で、僕も全力であたらないといけなくなって、パパに頑張れって他人事みたいに応援されたっけ。懐かしいな)


結局は、父は他人事にしていたのを母に咎められはしなかったが、ものの見事に巻き込まれていた。

そして、満足いった母とイベントから帰る頃には疲労困憊となった琉斗と父がぐったりとなってしまっていたが、母だけは元気が有り余っていた。

あの時の父は、イベントでこんなに疲れたことはないようなことを言っていた。


「そっか。それで、イベントを今更全力でやるはめになるとは思わなかったって言ってたのか」
「父君は、ハロウィンで人間の仮装をしたことがありますよ」
「……そっち?」


琉斗は、父のチョイスした仮装に何とも言えない顔をしていた。

惺真は懐かしそうにしていた。どうやら、琉斗が産まれる前のことのようだ。駆け落ちしたあとで人間界で過ごす初めてのハロウィンで、それをやったらしい。


「天然なところがおありでしたから。ですが、ウケ狙いで、ウケないことを不思議がられているのを見て母君は爆笑されてました」
「……ママらしいね」


ウケるはずもない。人間しかいないところで、人間の仮装って、発想されてもウケるわけがないのだが、父には理解できなかったのだろう。

それを見て母が爆笑したくなるのもわかる。そんなのと駆け落ちしてたのかと一気に恋心が冷めなくてよかったと琉斗は思わずにはいられなかった。


(僕なら、遠い目をしてたろうな。他人のふりをしない辺りがママだよね。そこで、愛が冷めないところが、駆け落ちするほどだったわけだよね)


わけがわからない顔をしている父と爆笑している母が、そこにいたら琉斗ならどうしていたかと思えば、行き着いたのは他人のふりだった。

そんなことを考えていると惺真が更に懐かしそうにこんなことを言い出した。


「琉斗様が、仮装なさる時は、何を着せるかで喧嘩なさった時もありましたよ」
「え? そうなの?」
「琉斗様は、まだ小さかったので。お二人が揉めている間にシーツを被ってお化けになっていましたけど」


それを聞いて、思い当たるところがあった。幼稚園の頃のことだ。


「あぁ、あの時の。何だっけ? 座敷わらしと雪男だっけ?」


両親が、息子にどんな仮装をさせるかで揉めていて、どっちも嫌だと思った琉斗はやりたいものをやることにしただけに過ぎない。


(大体、そのどっちかって選択肢が、究極すぎるよね)


「えぇ、どちらも本当に存在していると思っていたようですよ」
「え? いないの?」
「……」
「いや、だって、魔族とか、魔女とかいるから。そっか。いないのか」
「……」


琉斗は、なぜかしょんぼりとしていた。それは両親も、同じような反応をしていたらしく、惺真が益々懐かしそうにしていたのを見てはいなかった。

なんだかんだと言っても、血は確実に繋がっているのだ。

そんなことを話していたところにノックもなく入って来たのは、シネルだった。まぁ、ここに入って来るのは、シネルくらいしかいないが。


「琉斗!」
「はい? あれ、シネルさん、どうしたの?」
「魔王に会いに行くぞ」
「え? 許可でたの?」
「あんな堅物ども、どうでもいいんだよ」


おお揉めしたまま、解決はしてないようだ。シネルの言葉に琉斗は、とりあえず聞いてみた。


「えっと、それって大丈夫なの?」
「孫は、孫だ。親父だって、呼んで来いって言っといて、魔王に挨拶させられないなんて、おかしなこと言いやがって。そもそも、挨拶できてなきゃ、親族の集まりにも出席できねぇんだよ。呼んだ意味ねぇだろ」
「でも、具合がよくないんでしょ? 僕が会いに行って何かあったら……」
「何だよ。魔王に会いたくねぇのか?」
「会いたいよ。でも、それで迷惑かけたくないし、具合を悪化させたいわけじゃないんだ。それに親族の集まりにも、正直興味ないんだ。ただ、両親のこととか。直接話したいことがあるだけで、一方的なことだから」
「だぁー! まどろっこしいな!」
「っ!?」


シネルは、強行突破することにしたらしく、琉斗を抱えて魔王のところに向かった。


(何で、抱えるのさ?!)


しかも、お姫様抱っこされることになって琉斗は、そんな格好で城の中を駆け回るシネルに文句を言いたかったが、暴れっぷりが酷くて文句が口から出ることはなかった。


「シネル様! なりません!」
「うっせぇー!」


琉斗は荷物より大事に抱えられて、すぐに気持ち悪くなっていた。


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