上 下
28 / 42
第1章

28

しおりを挟む

魔界についたものの。琉斗が、本当に魔王の孫なのかで揉めに揉めてしまっていた。

琉斗は、初めて魔界に来て重苦しい空気になれず、与えられた部屋で惺真と過ごしていた。

そこは、十分に広い部屋だと思っていたが、シネルは……。


「こんな部屋に案内しやがって!」
「?」


琉斗は、シネルが何にそんなに怒っているのかがわからなかったが、あまり待遇のよろしくない扱いを受けているようだ。

その上、食事も酷いとわかり、シネルはそれを目にするなり、連日騒いで物申してくれていた。

琉斗としては……。


(豪華な物だされても、食べれそうにないから、これが丁度いいとは言いづらいな)


初めての魔界で、琉斗はダウン寸前となっていた。生粋の人間界育ちの琉斗には、きつ過ぎたようだ。もっとも、父の方の血を引いてはいるが、母の家系は魔族とは関係ないせいで、そうなっても無理はないようだが、琉斗がそれを知るはずもなかった。

普通のハーフというか。ここで言う半端者ならば、とっくに寝込んでいるレベルだったようだが、琉斗は寝込むこともなく、気怠げな感じを数日感じていたが、その後はすっかり慣れてみせた。

それに惺真は、物凄く驚いていたようだが、琉斗は気づいてはいなかった。

シネルも、半端者である琉斗が魔界で過ごすことがどれだけ大変なことかをわかってはいなかったが、一般的な半端者とはわけが違っていたようで琉斗は自力で順応してしまったのだ。

しかも、数日という短い期間で。そんなことが可能な半端者など、魔界広しと言えど見たことも聞いたこともないことだったが、別のことで騒ぎ立てているシネルはそれを知らず、他は琉斗に関わりたくないと会いに来ることもなかったため、部屋から出ずに大人しくしていたこともあり、その脅威に気づいていたのは、惺真だけとなっていた。

惺真は、それを誰かに言うこともなかった。言ったところで、信じてはもらえないことだったのと魔界に親しい知り合いがいなかったこともあり、誰も知らないままだった。

あくまでも、惺真は琉斗の母親の使い魔でしかないのだ。そして、今は亡き主の遺言を守っているだけにすぎない使い魔の発言など、大した効力はないこともあり、黙るしかなかった。

シネルに伝えたところで、更に誤解が生まれかねない。シネルもまた、ここでは子供でしかないのだ。大人たちが真剣に聞いてくれるだけの業績もない。ただ、学校を早く卒業しただけに過ぎない小童の言葉などで、動くような者などいないのが現状だ。

それでも、連日シネルは奮闘していた。それは、彼が一週間ほど人間界で世話になったことも影響していたようだ。

彼は、魔界で琉斗にしてもらったことが嬉しかったようだ。僅か10歳で、両親も亡くし、母親の使い魔と暮らす従弟を見て思うことがあったのだろう。

だが、そんなことになっていることを知らない琉斗は部屋から出れずとも、何とも思ってはいなかった。

持って来た夏休みの宿題をやりながら、人間界の暑い夏と比べて、過ごしやすい魔界にのほほんとしていた。

過ごしやすいと思っているが、それもすべて琉斗の身体が順応したからにすぎないことを本人は気づいていなかったが。


「魔界って、人間界より過ごしやすいんだね」
「……」
「惺真も、そう思わない?」


そんな風に話をすると惺真は、何とも言えない顔で頷いていた。


「?」


(何だろ。僕、変なこと言ったかな?)


琉斗はわけがわかるはずもなく、首を傾げるばかりだった。

今日も今日とて、琉斗のいる部屋は平和だった。魔界に来て、何日目になるか。琉斗は、呑気なものだった。

遠くの方で、シネルが大騒ぎしているのか物凄い音がしているが、それにも琉斗は慣れてしまっていて特に気にしてはいなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

ポニーテールの勇者様

相葉和
ファンタジー
※だいたい月/木更新。 会社を辞めて実家に帰る事にした私こと千登勢由里。 途中で立ち寄った温泉でゆっくり過ごすはずが、気がつけば異世界に召喚され、わたしは滅びに瀕しているこの星を救う勇者だと宣告されるが、そんなのは嘘っぱちだった。 利用されてポイなんてまっぴらごめんと逃げた先で出会った人達や精霊の協力を得て、何とか地球に戻る方法を探すが、この星、何故か地球によく似ていた。 科学よりも魔力が発達しているこの世界が地球なのか異世界なのか分からない。 しかしこの星の歴史と秘密、滅びの理由を知った私は、星を救うために頑張っている人達の力になりたいと考え始めた。 私は別に勇者でもなんでもなかったけど、そんな私を勇者だと本気で思ってくれる人達と一緒に、この星を救うために頑張ってみることにした。 ついでにこの星の人達は計算能力が残念なので、計算能力向上のためにそろばんを普及させてみようと画策してみたり・・・ そんなわけで私はこの星を救うため、いつのまにやら勇者の印になったポニーテールを揺らして、この世界を飛び回ります!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

最強の英雄は幼馴染を守りたい

なつめ猫
ファンタジー
 異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。  そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。

処理中です...