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第1章

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そんなこんなで、魔界に行くことになった。

もっとも、一週間くらい我が家に滞在していたこともあり、過ぎてしまえばあっという間だったが、シネルがいる間、色々とあった。だが、大した事件や事故は起こらなかった。そう、些細なことばかりだった。


(迎えに来てくれたのが、シネルさんでよかったな。僕の話をちゃんと聞いてくれないのが迎えだったら、人間界なんて簡単に混乱とパニック起こしてるとこだよね。きっと)


そんなことを思わずにはいられなかった。他には会ったことがないが、魔界の連中がこんなに素直ではやっていけないと琉斗は密かに思っていた。

シネルのような連中なら、両親が駆け落ちしてまで人間界に住み着いて生活し続けてはいないはずだとも思っていた。何となくだが、戻らなかった理由があるはずだ。そう深い理由が。


(……その理由が、僕にあるような気がするんだよね)


なぜか、そこに行き着いてしまい、この数日琉斗の中で、晴れ晴れとした気持ちにはなれなかった。どんよりとした雲ばかりのような気分だったが、現実は晴天続きだった。


(今年も暑くなりそうだな。魔界って、涼しいのかな?)


琉斗は、ふと気候について気になってしまい、そんなことを思ってしまったが、行ってみればわかるとそこをシネルに聞くことはなかった。

聞いてしまって、嫌だなと思ってしまえば行きたくなくなると思ったのもある。元より、行ってみたいとは思うが、そっちで暮らし続けたいとは思っていないのだ。見たら、いいところだからと気が変わるかも知れないが、できれば戻って来て人間界で暮らし続けたい。


(難しいんだろうけど。そもそも、僕は人間ではないわけだし)


人間のふりをし続けることになるのだ。琉斗は、その辺も複雑な気持ちになっていた。薄々、変だと思うことはあった気がするが、どうにも前までのことが曖昧になっていて思い出せない。


(これも、両親が亡くなったことで、ショックだったのかな。両親のことは、覚えてるんだけどな)


そんなことを思いつつ、近所の有紗とその母親は、シネルを見て物凄く驚いているのを見ることになった。


(あんなに驚くことかな?)


有紗とはクラスが一緒だが、あまり話したことはないため、会釈する程度で立ち止まって話すことはなかった。シネルが多分だが格好良すぎてびっくりしたのだろう。それ以外にあの親子が驚く理由などないはずだ。

変質者と間違われかねないからと爽やかイケメンに見えるように惺真と琉斗で、コーディネートしたのだ。悪い方にはとられていないはずだ。

そのせいか。ご近所の奥様方にモテまくっていた。もとより、お姉様にモテるようだ。


「惺真さんより、モテてるね」
「彼は魔界の王子ですから。人間を魅了することくらい簡単だと思いますよ」
「それ、僕にもできるってこと?」
「……」


惺真は琉斗の言葉に目をパチクリして、なぜか遠い目をした。


「大丈夫だよ。結婚詐欺師には将来なる気はないから」
「……全く安心できないんですが」


惺真は、余計に不安そうにしたが、琉斗はかなり本気だった。


「えっと、でも、パパはあんまり女性にはモテてなかったと思うけど」
「それは、理世様が嫌がられるので」
「あぁ、それで」
「異性にはモテないように細心の注意を払っておられましたが、どちらかと言うと朔斗様は同性に好かれるタイプでしたので、あまり必要はなかったかと思うのですが」
「……今の聞かなかったことにしとく」
「あ、そ、そうですね」


父親が同性にモテるエピソードなど、記憶に追加したくはなかったが、琉斗にはインパクトが強すぎたようだ。


(なんか、惺真さんはシネルさんが来てから、ポンコツって言ったら悪いけど、残念になってくな。今までよっぽど頑張ってたんだな)


無理をして、琉斗にとって理想の伯父を演じて頑張ってくれていたようだ。


「琉斗様。これからは、どうぞ、私のことを呼び捨てになさってください」
「え?」
「琉斗様の母君の使い魔にさん付けをしているだけで、なめられます」
「そういうものなの? 僕の使い魔でもないのに?」
「はい。そういうものです」
「……」


それが、琉斗は納得できなかった。珍しく子供らしくしかめっ面をしているとシネルが……。


「なめられるのは、琉斗だけじゃなくて、惺真もだ。納得いかないかも知れないが、世話になったと思ってるなら、呼び捨てにしとけ。恥かかせたくないだろ?」
「恥? うん、それは、やだ。僕のせいで、そんな風になるのは、嫌だ」
「琉斗様」


琉斗は、本気で嫌だと思っていた。それで、大きな失敗をしたことがあるかのようにたまらなく嫌だと思ってしまったのだ。


「シネルさん。他に気をつけた方がいいことある?」
「ん? そうだな。まぁ、年齢からしても、大概のことは許されるから、あんま気にすることないだろ」


まぁ、10歳なんて、向こうでは赤子も同然なのかも知れないが、その返答に琉斗はため息が出そうになったが飲み込んだ。


「じゃあ、挨拶の仕方は?」
「挨拶?」


シネルは、挨拶の仕方一つでも人間と違うことがあるとは思っていなかったようで、きょとんとしながらも、インパクトが大事だと言った。


「インパクト?」


琉斗は、それを何度か反芻しながら、首を傾げた。わけがわからなかったのだ。


「おぅ、インパクトだ」


シネルは、さも当たり前のように言うが、それでわかるはずがない。


(聞く相手を間違えたかな。たまに説明がアバウトになるんだよな。まぁ、僕も家電の使い方とか、大雑把に説明して逃げきったから人のこと言えないけど)


本気にはとっていなかった琉斗だが、それが的を得た説明だったことを後々知ることになるとは、この時の琉斗は知りもしなかった。

この時こそ、惺真を見ていれば、その通りだと頷いていたのを見れたはずだが、わけがわからず確認を取るために惺真を見ていなかったのだ。


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