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第1章
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しおりを挟む「あー、なら、その叔母上は? 破壊の魔女に挨拶しないのも何だし、いや、別に怖いから挨拶しとこうとかじゃなぇからな? 一応、礼儀としてだな」
「破壊の魔女……?」
これまた、言いえて妙な名前を耳にして、琉斗はきょとんとした。
その顔を見て、シネルが目をパチクリさせた。
(その顔、反則でしょ。見た目、格好いいのに可愛いなんて。これは、女性にモテるな)
そんなことを琉斗は思ってしまっていた。
「あ? お前、お袋さんの異名を知らねぇのか?」
「知らない」
琉斗が惺真を見てみると彼は遠い目をしていた。
(あれは、聞いたことあるって顔してるな)
「マジかよ。歩く破壊魔で、恐れられてたんだぞ? 伯父上も、そこに一目惚れしたとかで駆け落ちしたのに」
「一目惚れの内容までは知らなかったけど、駆け落ちは知ってる。パパ、そこに一目惚れしたの?」
惺真を見ると苦笑していた。その通りなようだ。駆け落ちするまでに何があったかをそれだけで察する単語が物騒すぎる。
(破壊魔なのは、昔からってことか。そこに一目惚れって、パパらしいな)
何とも両親らしいなと琉斗は思わず苦笑してしまった。
「そっか。知らないことだらけだな。えっと、ママに挨拶してくれようとして、ありがとう。でも、ママも亡くなっていて、直接は無理かな」
「は?」
シネルは、それを知ってまた申し訳なさそうに謝ってくれた。あまりにも必死になってるのを見かねて、話題を変えたのは琉斗だった。
ようやくして、琉斗の方から祖父に会いに行くことになった。
「魔界に行くの?」
「おぅ、そうなるな」
「えっと、それって、すぐに行かないと駄目かな? あとちょっとで夏休みになるんだけど」
「ちょっとって、どのくらいだ?」
「一週間かな」
「あー、なら、ここで待たせてもらってもいいか?」
「泊まるってこと? えっと、僕は構わないけど……」
チラッと見ると惺真は困った顔をしていた。
シネルは、じっと惺真を見た。それを琉斗は不思議そうに見ていた。
「てかさ。お前、叔母上の使い魔だろ? 今の主人が、琉斗ってことなのか?」
「あ、いえ、それは……」
「え? 惺真さん、ママのお兄さんなんじゃないの?」
「え?」
「も、申し訳ありません!!」
惺真は、土下座する勢いで謝り出した。
(まぁ、この流れで何となくそんな感じかとは思っていたけど、シネルさんが聞いてくれてよかったな。僕からは聞きづらくなってたから)
彼は母の遺言で一人残された琉斗の世話をしていたようだ。
「……悪い。俺、もう黙っとく」
シネルは、失言ばかりだったことに気づいたらしく顔色を悪くしていた。
琉斗としては、そんなことはないのだが、彼は根が優しいようだ。
(彼を見て驚かないところを見れば、何となくそんなオチな気がしてたんだよね。つまり、魔女って本当に魔女だったってわけか。通りで壊れた物が、次の日には、直ってたわけだ)
琉斗は、何とも言えない顔をしていたが、怒ることはなかった。
シネルは、人間の世界を満喫していた。琉斗としては、手のかかる弟が増えたかのように思えたが、彼は見た目以上の年上だった。
「200歳近くでも、子供の分類なの?」
「まだまだだな」
「……僕、その1/20なんだけど」
10歳のままで、何度も10歳をやり直し続けていることをすっかり忘れている琉斗は、本気で自分の歳を10歳だと思っていた。
「へ? マジで?」
「うん。見たまんまだよ」
「いや、魔界じゃ、見たまんまじゃねぇぞ。琉斗みたいにしてて、4桁の後半みたいなばぁちゃんとか普通にいるし」
「4桁の後半って、見た目サギだね」
「若作りしすぎだよな」
シネルは、琉斗に素で話しているようだ。魔界では、自分より年下がほとんどいないようなものらしく、実年齢を聞いても従兄弟同士だからと気にしてないようだ。
それにこの年で人間界で使い魔と暮らしている時点で自立しているらしく、シネルはそれだけで尊敬の眼差しを向けてきた。
(人間界に僕を探しに1人で来てるのに。そっちの方が凄い気がするけど)
どうにも感覚にズレがあるようだ。
「学校なんて、その年で通うのか? お前、すげぇな。俺なんて、150すぎてから数十年かかって卒業したぞ」
「えっと、それ、凄いの?」
「魔族では、早い方ですよ。魔族の学校は、300歳までに卒業している方が、ほとんどですから」
「そっか。シネルさん、凄いね」
「んなことねぇよ」
シネルは、琉斗が褒めると照れながらも嬉しそうにしていた。
(わかりやすいな)
琉斗は、何やら自分の方がお兄さんになった気分すらし始めて苦笑していた。
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