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第1章

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琉斗は割れたガラスで怪我をしたということもあり、すぐさま惺真が学校に呼ばれることになったのだが……。


「琉斗!」
「惺真さん、僕なら大丈夫だよ」


まずは保護者を落ち着けるのが、大変だった。見たことないほど取り乱した惺真を宥める方が、こんなに大変だとは思わなかった。


(こんなに取り乱すなんて……。なんか、ママに似てるというより、パパに似てるかも。不思議だな。……こうなると僕は誰に似てるんだろ?)


大変なことになっているはずなのに琉斗は懐かしさを覚えていた。両親が生きていたら、取り乱す父と殺気立つ母が見られた気がしてならない。

先生たちも手伝ってくれて、惺真と一緒に病院に向かうことになり、そこで何針か縫ってもらうことになった。琉斗は、疲れきった顔をしている惺真に申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまうのも、すぐのことだった。

結構な血が出ていたはずだが、琉斗本人はピンピンしていた。


(両親が亡くなった時に会った時は、僕より悲痛な顔をしてたっけ。……まぁ、僕は自分がどんな顔してたか見てないからわからないけど。惺真さんのあの顔を見たら、冷静になった気がするんだよな。今みたいに。それと現実を見ることにしたのも、そのおかげで早かった気もする)


そんなことがあって、惺真はより過保護になって琉斗は大変だった。まぁ、無理はないのかも知れない。惺真からしたら妹夫妻を亡くして、残された忘れ形見を世話することになったのに怪我をしたのだ。血だらけな琉斗を見て、色々と思い出したのかも知れない。

何とか家に帰って、夕食を食べる時のことだ。


「琉斗。食べれるか? 食べさせようか?」
「惺真さん、僕、右利きだよ? 怪我したのは左だからね。大丈夫だよ」


安心させようと琉斗が、そんなことを言うと惺真はこう言ったのだ。


「でも、琉斗は元は左利きだから。左の方を怪我するのは大変だろ?」
「え……?」


琉斗は、そんなことを言われて目をパチクリとしてしまった。


(なんで、そのこと、知ってるんだろ?)


琉斗が幼稚園の頃に利き手を変えたのだ。それは、両親や周りに言われたからではない。そっちの方が便利に思えたからだ。

それを知らないはずの惺真が、知っていることに琉斗は首を傾げたくなっていた。

だが、惺真は琉斗が怪我したことでいっぱいいっぱいとなっていて、そのことに気づいていないようだ。


(もしかして、ずっとママと連絡取ってたのかな? 葬儀の時はすぐに来てくれてたし)


だが、それが正解なのかがわからなかった。連絡してくれと母が職場の人に頼んでいたのかも知れない。

だが、母の職場の人たちで惺真という兄がいることを知っているような人を琉斗は見た記憶がなかった。みんな琉斗と同じく伯父という存在がいたことを初めて知ったかのようにしていたのだ。

そんな風に思い返しながら、惺真を見た。


(惺真さんは、分かりづらいだよな。……ん? あれ? 分かりづらいって、なんだ? 他の人のことだって、わからないのは当たり前のはずなのに)


そんなことを思いながら、琉斗は疲れているせいだと思って食事を続けることにした。とりあえず、食べなければ惺真が食べさせようとしてきそうで、琉斗は箸を動かし始めた。


(それにあの男の子も、急にどうしてあんなことしたんだろ? イライラしてるみたいだったけど、女の子ばかり壊すって弱い者いじめしてまで、何がしたかったんだろ? 自分もああいうのが欲しかったとか? まぁ、何で暴れたかなんて僕が考えこむことではないか)


琉斗は、よく知りもしない名前も覚えられない男の子のことで考えこむことはないと思っていたが、考えこんでしまっていたようで、その手は食べるのをやめていた。


「琉斗」
「?」
「食欲ないのか?」
「え? あ、えっと」
「食べたくないなら、他のものを……」
「あ、食べる! 大丈夫だから!」


ぼんやりとし過ぎたせいで、惺真が他のものを用意しようと席を立とうとしたのを全力で止めた。

ただですら、2人しかいないのにテーブルの上は、いつも以上にたくさんのおかずが並んでいるのだ。それも、琉斗の好物ばかりが並んでいた。


(短時間で、これだけ作れるって、凄いよね。そもそも、僕の好物なんて、良く知ってるな)


琉斗は、惺真がテンパりながらも怪我を心配してくれて、好きなものを作ってくれたことが嬉しかった。嬉しいけれど、同時に困ってもいた。


(そういえば、ママもテンパると好物ばかりを買って来てくれてたっけ)


そういうところは、そっくりなようだ。もっとも、母親は台所で料理なんてしても食べれる物を作れたことはなかったが。


(惺真さんが、家事ができる人で良かったな。そこも似てたら、本当に余裕なかったとこだよ)


琉斗は、そんなことを思いつつ、自分もそこは母に似なくて良かったと本気で思っていた。


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