僕は出来損ないで半端者のはずなのに無意識のうちに鍛えられていたようです。別に最強は目指してません

珠宮さくら

文字の大きさ
上 下
15 / 42
第1章

15

しおりを挟む

「有紗ちゃん、落ち着いて」


琉斗はできる限り優しい声で声をかけた。一番側にいたはずだが、琉斗はガラスで怪我したこと以外、琉斗はピンピンしていた。


「あ、ごめんなさい。こんな、こんなつもりじゃ、ないの」
「うん。わかってる。大丈夫だよ」


有紗は、泣きながら謝っていた。琉斗は、わざとではないことをわかっていた。それはもう痛いほどに。


(この子は、僕に似ているんだ。だから、こんなにも気になって、気になって、仕方がなかったんだ。ここで、僕に似ている唯一の子は、有紗ちゃんだけだから)


この学校を起点に大変なことになっていることも。怪我だけではなく、死人も出ているだろう。一番近くにいたはずの琉斗には、あの男の子のガラスが刺さっていたが、それ以外の傷はなかった。それどころか、琉斗の傷は既に治りかけていた。


(僕が、怪我してなければ、有紗ちゃんが暴走することはなかったんだ。僕が、あの時、有紗ちゃんだけを助けようとせずに僕も守ろうとしていれば、こんなことにはならなかったのに)


あの男の子のしたことで、ガラスで怪我をした生徒が出れば、もうここにはいらなくなるのではないかと琉斗は思ってしまったのだ。

怪我をするなら、大怪我をするのならば、自分だけがなればいいと思ってしまったのがいけなかったのだ。その程度で、傷跡に悩むことは自分ならないだろうと思ったせいで、こんなことになってしまったことを琉斗は、今更ながらに後悔していた。


「大丈夫だよ。戻すから」
「え? 戻す……?」
「うん。大丈夫。僕なら、できる」


有紗は、きょとんとした顔をして琉斗を見た。そして、驚愕した目をした。

きっと、その目は赤く染まっているはずだ。


「っ、琉斗くん、その目!?」
「うん。僕も、君と同じだと思う」
「え? でも、あなたの目は……」


そこで、有紗の言葉は途切れた。ハッとした顔をして琉斗たちは、そちらを見た。


「有紗!!」
「お、お母様!?」
「何てことしてるのよ! 力を暴走させて! これを修正するのが、どれだけ大変か……。え?」
「箒……?」


有紗の母親が箒で飛んで来たようで、琉斗はそれをポカンとした顔をして見ていた。


(本当に箒で空って飛べるんだな)


琉斗が、有紗の母を見た最初の感想は、それだった。


「な、何で、動いてるの?!」
「えっと」
「それにその目。赤い瞳に芒星と……魔法陣?! なんで、そんな、そんな方が……」


(聞き慣れない言葉だな。芒星と魔法陣??)


琉斗には何を言って慌てふためいているかがわからなかった。

そこに琉斗の両親も到着していた。母は箒で、父は翼を持って2人とも飛んで来たようだ。そう、文字通りすっ飛んで来たようで、すごい格好をしていたが、有紗の母親を見た後のせいか。その驚きは、そこまで琉斗を動揺させる威力はなかった。


(えっと、つまり、両親は魔女と悪魔……? いや、なんか、しっくりこないな)


琉斗は見たままだから、そんなことを思ってしまって首を傾げたくなっていた。今は、それどころではないというのにだ。


「「琉斗!!」」
「あ、はい」


思わず、そう返していた。琉斗も見た目以上に混乱していたのだろう。一番落ち着いているようで、違っていたようだ。

琉斗の両親を見た有紗の母親は、顔を青くして娘を抱き寄せて平伏していた。有紗も、同じように頭を下げていた。

どうやら、知り合いだったようだ。いや、両親は有名人だったようだ。


「それで、琉斗。どうして、そんな、血だらけなの?」
「え? あ、いや、えっと、もう治ってるはず」
「は? 怪我してたの?!」
「あー、うん。その、あそこにいる子が、ブロックを投げてガラスが割れたのが刺さったんだ。それで血が出たら、有紗ちゃんがびっくりしたみたいで……」
「ご、ごめんなさい。あ、あんな、たくさん、血が出たら、死んじゃうと思ったら、パニクってしまって……」
「死ぬも何も、この2人のご子息が、ガラスごときで死ぬわけないでしょ。逆にあんたの暴走で人間がたくさん死にそうなのよ!」
「っ、ご、ごめんなさい」


有紗は、謝り続けていた。それを見ていたたまれなくなってしまった。


(うん。やっぱり、僕らが余計なことしたせいだ)


「仕方がないわ。元に戻しましょう」
「ですが」
「琉斗。戻し方わかるわよね?」
「……うん」
「なら、ここは任せたわ。ママたち、嗅ぎつけてきた雑魚どもを片付けるから」
「雑魚……?」


両親が殺気立って見ている先に異形な者が見えた。琉斗は、それを見たことがなかった。


(なんだ。あれ)


琉斗は、それを見てぞわぞわとした。腹の底というか。琉斗の血肉が、それを見てざわついているような感覚がした。琉斗は知らなくとも、それが良からぬモノだと知っているかのようだった。

有紗たちは、それが何かを知っていたようだ。有紗は、震え上がって母親も震えながら、必死に我が子を抱きしめていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたぼっちはフェードアウトして農村に住み着く〜農耕神の手は救世主だった件〜

ルーシャオ
ファンタジー
林間学校の最中突然異世界に召喚された中学生の少年少女三十二人。沼間カツキもその一人だが、自分に与えられた祝福がまるで非戦闘職だと分かるとすみやかにフェードアウトした。『農耕神の手』でどうやって魔王を倒せと言うのか、クラスメイトの士気を挫く前に兵士の手引きで抜け出し、農村に匿われることに。 ところが、異世界について知っていくうちに、カツキは『農耕神の手』の力で目に見えない危機を発見して、対処せざるを得ないことに。一方でクラスメイトたちは意気揚々と魔王討伐に向かっていた。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

入れ替わりノート

廣瀬純一
ファンタジー
誰かと入れ替われるノートの話

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...