僕は出来損ないで半端者のはずなのに無意識のうちに鍛えられていたようです。別に最強は目指してません

珠宮さくら

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第1章

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「有紗ちゃん、落ち着いて」


琉斗はできる限り優しい声で声をかけた。一番側にいたはずだが、琉斗はガラスで怪我したこと以外、琉斗はピンピンしていた。


「あ、ごめんなさい。こんな、こんなつもりじゃ、ないの」
「うん。わかってる。大丈夫だよ」


有紗は、泣きながら謝っていた。琉斗は、わざとではないことをわかっていた。それはもう痛いほどに。


(この子は、僕に似ているんだ。だから、こんなにも気になって、気になって、仕方がなかったんだ。ここで、僕に似ている唯一の子は、有紗ちゃんだけだから)


この学校を起点に大変なことになっていることも。怪我だけではなく、死人も出ているだろう。一番近くにいたはずの琉斗には、あの男の子のガラスが刺さっていたが、それ以外の傷はなかった。それどころか、琉斗の傷は既に治りかけていた。


(僕が、怪我してなければ、有紗ちゃんが暴走することはなかったんだ。僕が、あの時、有紗ちゃんだけを助けようとせずに僕も守ろうとしていれば、こんなことにはならなかったのに)


あの男の子のしたことで、ガラスで怪我をした生徒が出れば、もうここにはいらなくなるのではないかと琉斗は思ってしまったのだ。

怪我をするなら、大怪我をするのならば、自分だけがなればいいと思ってしまったのがいけなかったのだ。その程度で、傷跡に悩むことは自分ならないだろうと思ったせいで、こんなことになってしまったことを琉斗は、今更ながらに後悔していた。


「大丈夫だよ。戻すから」
「え? 戻す……?」
「うん。大丈夫。僕なら、できる」


有紗は、きょとんとした顔をして琉斗を見た。そして、驚愕した目をした。

きっと、その目は赤く染まっているはずだ。


「っ、琉斗くん、その目!?」
「うん。僕も、君と同じだと思う」
「え? でも、あなたの目は……」


そこで、有紗の言葉は途切れた。ハッとした顔をして琉斗たちは、そちらを見た。


「有紗!!」
「お、お母様!?」
「何てことしてるのよ! 力を暴走させて! これを修正するのが、どれだけ大変か……。え?」
「箒……?」


有紗の母親が箒で飛んで来たようで、琉斗はそれをポカンとした顔をして見ていた。


(本当に箒で空って飛べるんだな)


琉斗が、有紗の母を見た最初の感想は、それだった。


「な、何で、動いてるの?!」
「えっと」
「それにその目。赤い瞳に芒星と……魔法陣?! なんで、そんな、そんな方が……」


(聞き慣れない言葉だな。芒星と魔法陣??)


琉斗には何を言って慌てふためいているかがわからなかった。

そこに琉斗の両親も到着していた。母は箒で、父は翼を持って2人とも飛んで来たようだ。そう、文字通りすっ飛んで来たようで、すごい格好をしていたが、有紗の母親を見た後のせいか。その驚きは、そこまで琉斗を動揺させる威力はなかった。


(えっと、つまり、両親は魔女と悪魔……? いや、なんか、しっくりこないな)


琉斗は見たままだから、そんなことを思ってしまって首を傾げたくなっていた。今は、それどころではないというのにだ。


「「琉斗!!」」
「あ、はい」


思わず、そう返していた。琉斗も見た目以上に混乱していたのだろう。一番落ち着いているようで、違っていたようだ。

琉斗の両親を見た有紗の母親は、顔を青くして娘を抱き寄せて平伏していた。有紗も、同じように頭を下げていた。

どうやら、知り合いだったようだ。いや、両親は有名人だったようだ。


「それで、琉斗。どうして、そんな、血だらけなの?」
「え? あ、いや、えっと、もう治ってるはず」
「は? 怪我してたの?!」
「あー、うん。その、あそこにいる子が、ブロックを投げてガラスが割れたのが刺さったんだ。それで血が出たら、有紗ちゃんがびっくりしたみたいで……」
「ご、ごめんなさい。あ、あんな、たくさん、血が出たら、死んじゃうと思ったら、パニクってしまって……」
「死ぬも何も、この2人のご子息が、ガラスごときで死ぬわけないでしょ。逆にあんたの暴走で人間がたくさん死にそうなのよ!」
「っ、ご、ごめんなさい」


有紗は、謝り続けていた。それを見ていたたまれなくなってしまった。


(うん。やっぱり、僕らが余計なことしたせいだ)


「仕方がないわ。元に戻しましょう」
「ですが」
「琉斗。戻し方わかるわよね?」
「……うん」
「なら、ここは任せたわ。ママたち、嗅ぎつけてきた雑魚どもを片付けるから」
「雑魚……?」


両親が殺気立って見ている先に異形な者が見えた。琉斗は、それを見たことがなかった。


(なんだ。あれ)


琉斗は、それを見てぞわぞわとした。腹の底というか。琉斗の血肉が、それを見てざわついているような感覚がした。琉斗は知らなくとも、それが良からぬモノだと知っているかのようだった。

有紗たちは、それが何かを知っていたようだ。有紗は、震え上がって母親も震えながら、必死に我が子を抱きしめていた。


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