僕は出来損ないで半端者のはずなのに無意識のうちに鍛えられていたようです。別に最強は目指してません

珠宮さくら

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第1章

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有紗のことを根暗と言うことを聞くことはなくなった。琉斗に言わなくなっただけではなくて、誰にも言わなくなったようだが、その男の子はやたらと機嫌が悪くなっていったように思える。言いたいことを言えなくなったにしては、その苛立ち方は妙な感じがしなくもなかったが、何があったのかを琉斗が彼にわざわざ聞くことはなかった。

その原因が、自分にあることにも気づいていなかった。琉斗が怒ったことで、彼の知らぬ間に強制的に彼が言いたいことを言えなくなっているせいで、その男の子の苛立ちが日に日に強まっていっていることがわからなかったのだ。

琉斗が、彼を怒った頃からだったようだが、呼ばれたくない名前で呼ぶと言ったのが効いたのだと思っていた。琉斗に怒鳴られたのが嫌だったのだろうと勝手に思っていた。

琉斗に何か言って来ることはなくなって、琉斗は元より名前も覚えていない程度のクラスメイトという認識を変えることはなかった。きっと覚えたくないほど、もとから彼のことが嫌いでならなかったのだろう。

琉斗は、誰とでも仲良くなっているように見えて、嫌な子とわざわざ仲良くしようとする気はなかった。そもそも、あちらは謝っていないのだ。悪いことをしていたという認識もない気がする。その辺りも相まって琉斗は嫌いなのだろう。

謝罪して来たら、今後のことをちょっとは考えることはしただろうが、それをしようとしないで距離を置こうとするなら、無視するのみだと思っても無理はないはずだ。

関わりがなくなったが、謝罪することのない男の子に腹が立ち続けていたのかも知れない。……いや、ずっと腹が立っていたのに気づかないふりしていたのだろう。

この頃になって、その異変にようやく両親も気づき始めたようだ。


「琉斗。学校で何かあった?」
「特にないよ」


母にそう聞かれ、父にも聞かれたりしたが、琉斗は本当に何もなかったため、そう返すばかりだった。

そう、琉斗の中では終わったことだと思いたかったことも相まって、何もないと答えていた。


(どうして、やたらと同じことを聞くんだろ?)


しきりに学校のことを聞く両親に琉斗はわけがわからなくて首を傾げていた。そんなに学校のことを聞きたがることなど、これまでなかったのだ。

両親から見て、琉斗の瞳の色が少し変化して見えていたなんて気づきもしなかった。目が変だと違和感がずっとあったが、赤く染まれば面倒になるとわかっていて、琉斗が無意識のうちにその瞳を隠そうとしていたなんて思いもしなかったのだ。

そんなことができるようになっていたことに琉斗は気づいていなかった。それを隠しきれなくなるほど、自分自身が苛立っていることにも。

もはや限界なんてとっくに超えてしまっていて、いつ大爆発をしてもおかしくない状態となっていることにも気づいてはいなかった。

琉斗としては、身体の不調などいつものことになってしまっていて、どこがボーダーラインなのかもわからなくなってしまっていたのだ。


「どうしてかしらね。胸騒ぎがするのよ」
「僕もだ」


両親は琉斗が寝てから、そんなことを話していることも知らなかった。

ようやく、両親が琉斗の異変に勘付き始めたのだが、2人も限界をとっくに超えた状態だとまでは気づいてはいなかった。


「あの子を留めておくのは、もう限界かも知れないわ」
「だが、僕ら2人で抑えようとしてるのにこんなに早く解けるなんて、あり得ないはずだ」
「そうね。私たちじゃ、到底隠しきれない子なのかも知れないわ」
「それは、つまり、僕らの半分づつを受け継いだのではないってことか?」
「……あの子、気づいてる気がするの。私たちがしていることに」
「っ!?」


この2人が、駆け落ちしてまで一緒になりたかったのは、お互いが運命の人だと信じて疑っていなかったからだ。

そして、生まれて来る子供が半端者として、出来損ないと呼ばれることになっても、2人で隠し続けて守り続けるつもりでいた。

それに子供の頃に力が暴走することはよくあることだった。それを隠すために小学生のままで暴走がおさまるのをひたすらに待つことにしたのだ。琉斗にそのことを話すことなく、時が来たら話すことにしてやり過ごすことにしていた。

でも、その暴走が年々増すばかりでおさまりどころを知らなかったことを彼らは知らなかったのだ。こんなに長くおさまらないことは珍しいことだったが、それを2人だけでなくて本人が一番抑え込もうと必死になって力を無意識のうちに使っていたのだ。

両親2人がかりでもおさまるどころか酷くなってしまう前に琉斗が、それを補うようになっていたのだ。

更にはそれに何も話していない琉斗が気づいていて、それでも何も言わないでいるような気がして、そのことに母は不安を抱き始めていたようだ。

それを聞いた父も、出来損ないではなく、半端者として生まれた我が子が、どちらの家系の血も色濃く生まれ先祖返りしていることに気づけていなかったのだ。

そう、全ての血が先祖返りしている状態の琉斗にとって、無意識のレベルで良く耐えていたことをこの2人は知らなかったのだ。2人だけでなくて、本人も。

両親たちが何をしようとしているかを薄々勘付きながら、両親にすら己の変化を隠そうと無意識でし始めた琉斗に両親が究極の選択を迫られることになるとは、琉斗は思いもしなかった。

その選択が、この世界の思惑に含まれていたのかはわからないが、琉斗をここで産んで育てようとしたことすら、謀の中ではなかったと思いたいところだった。

きっと両親も、それがとても早くに選択を迫られる日が来ることまでは想定してはいなかったはずだ。

この家族にとって、これが必然だったとは思いたくはなかったのだ。


(目が時折熱く感じるな。嫌だな。赤く染まるのは、困るんだよね。染まらないままなら、普通に暮らせる。僕は、普通がいいんだ。普通のままが一番いいんだから)


そんなことを思って、琉斗は己で瞳の色を必死に隠していたとは思いもしなかった。そんなことができるとは思っていなかったのだ。

それに琉斗がこれまでの間に力を何かと使っていたことにも、本人が気づいていなかった。そもそも、どんなことができるかを把握してはいなかったせいで、常に無意識に使い続けている状態だとは思わなかったのだ。

本人もだが、両親も、想像していた斜め上の力を琉斗は有していたのだ。

そのせいで、取り返しのつかない事態が起こるとは誰も、この家族は予測してはいなかった。


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