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しおりを挟むマルへリートと他のローザンネ国から来た者たちは、窶れていてアンネリースが覚えている姿とは異なっていた。
(薄汚れていて、前と全然違う)
「アンネリース! やっぱり、ここにいたのね! さっさと会いに来なさいよね!」
「……誰?」
アンネリースは、思わずそんなことを言ってしまった。本当に誰だかわからなかったのだ。
「はぁ?! 自分の双子の片割れを忘れたなんてありえないでしょ!」
「……」
声は確かにマルへリートのようだが、見た目が全然違っていた。アンネリースより、ほっそりしていて、声はガラガラ、目は血走っていて、肌はボロボロのアンネリースと同い年とは思えない娘が、牢屋にいた。
(覚えているのと違いすぎて、わからないわ)
「アンネリースだって!? おい、さっさとここから出せ!」
「そうよ! 何で私たちが、こんなところにいれられて、あなたみたいな不細工が自由にしてるのよ!」
「……」
父と母だろうか?なんか、窶れて別人のようになっているのが、騒いでいた。
他にも、仮面を付けているアンネリースに罵詈雑言を浴びせて来たが、みんな酷い格好をしていた。
そのせいで、アンネリースには誰が誰だかわからなかった。覚えているのと違いすぎる。
「アンネリース様の知り合いですか?」
「見覚えはありません」
「「「「「「っ、何言ってるんだ!!」」」」」」
フェイル国の国王は、リュドに弱味でも握られているのか。アンネリースに牢屋にいる連中をどうにかしてくれとは言わなかったのは、ローザンネ国から来たアンネリースの知り合いだと証明できなかったからもあるようだ。
いくら牢屋の中で喚こうとも、証明できなければ仕方がない。そんなことになるとは、思っていなかったのだろう。
アンネリースは、本当に誰だかわからなかったことに遠い目をしていた。
牢屋から、国王のところに行って帰国することにしたと伝えた後だった。あの牢屋にいるのを連れて行ってほしそうにしたが、ローザンネ国から来たと本人たちが言っているだけで、連れて行けとは言えないことに悔しそうにしていた。
もう、フェイル国には用はないと思っていたのだが……。
「フェリーネ殿」
「……」
エデュアルドが、初めてフェリーネの名前を呼んだ。
(こりないわね)
アンネリースは、そんなことを思わずにはいられなかった。そもそも、アンネリースに挨拶しないで、その侍女を呼び止めたのだ。もはや王宮勤めとしては、残念になっているとしか言いようがない。
「気安く呼ばないでください」
「そうですよ。俺らの婚約者なんです」
「俺ら……?」
ラウレンスとヒルベルトの言葉にエデュアルドが眉を顰めていた。アンネリースは、そんなやりとりを見物することにした。
「2人と婚約したと? ふざけるな! この国では、そんなこと許されないぞ!」
「そうみたいですね。でも、隣国では許される。あそこは、そういう国ですから。それにあなたに怒鳴られる筋合いはない」
「っ、」
エデュアルドは、よほど急いで来たようだ。アンネリースと一緒にフェリーネが来ているとわかって探していたのだ。
彼もまた、しばらく見ないうちに何やら老け込んだ気がする。
他の護衛たちも、同じようなものだった。アンネリースを見かけて、あわよくば護衛にしてもらおうとしていたが、それを相手にすることはなかった。
アンネリースは、ここを立つ。気安く話しかけられるいわれはない。アンネリースは王女で、王宮勤めの護衛でしかないのだ。
それがわからないようだ。
「何だよ。感じ悪くなったな」
「本当だな」
(ばっちり嫌味は聞こえてるわよ)
アンネリースは、それに構うことなく、ローザンネ国のことが気になって、それどころではなかった。
アンネリースのことを悪く言う者は、リュドが全部覚えていた。それとついでのようにフェリーネのことをアバズレと呼んだエデュアルドにアンネリースの専属護衛であり、フェリーネの婚約者の2人がブチギレるのを止めていた。
アンネリースも腹が立ったが、婚約者たちを見ることにした。
「アンネリース姫が困ることになる。それと婚約者が厄介なことになる。流石に僕でも、無事に出港させられなくなる」
「「っ」」
「任せろ。アンネリース姫と侍女さんにありえないこと言った奴に輝かしい未来なんて与えはしない」
リュドの言葉にラウレンスとヒルベルトは、頷きあった。それを見て、アンネリースは仮面の下で眉を顰めた。
「男の人って、妙なことで仲良くなるわよね」
「惚れた女のためなら、大概の奴と仲良くできますよ」
「俺らのプライドなんて、二の次です」
「2人共」
フェリーネは、それにどんな顔をしたら良いのかと困っているようだが、ベールで見えない。
「やっぱり、2人は素敵ね。安心して、フェリーネを任せられるわ」
それを聞いて、リュドは羨ましそうにした。アンネリースは、雰囲気でわかったがスルーした。それにリュドは、あからさまにしょげた。
「あー、姫様。王子も、中々ですよ」
「そうですよ」
「そう? 褒めてほしくてしてるなら、まだまだだと思うけど」
「……」
「私、早く帰りたいの」
それにリュドは、何とも言えない顔をした。
「わかった。でも、早くし過ぎると身体に負担がかかるから、アンネリース姫と侍女さんにあわせることにしていい?」
「それは、嬉しい気遣いだわ。ありがとう、リュド」
「うん! 任せて! 船酔いに効くのも、手配しとくからね」
るんるんとリュドは、どこかに消えた。
「……使い方がわかってきたわ」
アンネリースの呟きにフェリーネたちは、遠い目をしていた。
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