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しおりを挟む「や、やっと着きましたね」
「……そうね」
フェリーネは、港に着いたと知って元気になっていた。海の上がとこと合わなかったようだ。いや、合わないというか、陸を離れたことが不安で駄目だったのかも知れない。
薬を飲んでも寝ていなければ駄目なくらいだったのにそれが嘘のように元気になっていた。海ととことん相性が悪かったようだ。
それにまともに食べれなかったはずなのに。元気になれるのも、ローザンネ国で色々な目にあってきたからだろう。
それでも、フェリーネには休息が必要だとアンネリースは思っていた。それをどう伝えようかと思っていたのだが、アンネリースは陸に着いた途端……。
(なんか、気持ち悪い)
気分の悪さが思考を鈍らせた。快適だった船旅だったのに陸に降り立った途端、気持ち悪くなっていた。
「アンネリース様?」
「……気分、悪い」
「え?!」
侍女が陸に着くなり元気になったのに。今度はアンネリースが陸に着いた途端、気持ち悪くなってしまったていた。全くわけがわからない。
それには、アンネリースも頭の中で……。
(なんで!? 普通、逆でしょ?!)
アンネリースは、己に突っ込まずにはいられなかったが、それ以上の元気はなくなった。本当に気持ち悪すぎて辛かった。
(フェリーネは、こんな気持ち悪さと戦っていたのに。凄い元気だわ)
そんな時に声をかけられた。勘弁してほしいが、そうもいかない。頭を動かすのもしんどいが、そちらを見た。
「王宮より、お迎えにあがりました。王女様の護衛長を任されました。エデュアルド・コーレインと申します。これより、王宮まで姫君を……」
護衛長と名乗る男だけでなく、迎えに来た者たちは礼を尽くしていた。そんなことローザンネ国で、アンネリースにした者は1人もいない。
エデュアルドは、鍛え抜かれた身体をしていて、動きに一切の無駄がなかった。銀髪で、赤い目をしていて、さながらウサギのようなフェイル国では美形と呼ばれてご婦人たちやご令嬢に人気な男性なのだが、残念ながらアンネリースとフェリーネは、それどころではない。
いや、具合悪いのとそれを心配しているからではない。仮面を付けていない人の顔をまじまじと見れないのだ。
他の護衛たちも、中々の顔立ちをしていたが、それはフェイル国でのことだ。
ローザンネ国では、仮面を付けるレベルなのが多いがそれにも、この後、アンネリースたちが気づくことはしばらくない。
それより、この場で王女に大して当たり前の礼節を尽くしていたが、ローザンネ国ではマルへリートにも、国王や王妃にもした者はいない。そんな体勢になったら、保てないからだ。
できるのは仮面付きの面々しかいない。ギリギリ仮面をしないレベルの者もできる者は、それなりにいるだろう。でも、ローザンネ国で美しい分類に入る者は全滅なのは、間違いない。
それこそ、圧巻の光景だったはずだ。アンネリースが、仮面をしていなければ、いや、アンネリースが船酔いをしていなければ、壮観だと思っていただろうが、この時のアンネリースには気分の悪さが酷すぎて、見ている余裕はなかった。
港は、一目でもいい。美しい王女を見ようとしていたが、騒がしくしていたのも、静まり返っていた。侍女のフェリーネに支えられているアンネリースの具合がよくなさそうにしか見えなかったからだろう。
「姫君? いかがされましたか?」
「船酔いのようです。あの、すみません。どこかで休むことはできませんか?」
フェリーネは慌てて答えた。すると護衛長の脇にいた身なりの違う者が慌てて立ち上がった。
「やはり。エデュアルド殿、すぐに宿に知らせてください。姫君を休ませなくては」
「聞こえたな」
「はい」
エデュアルドは、移動するのは無理だとはじめから思っていたようだ。そんな無理をしてまで王宮に連れて行っては、元も子もない。
ただですら、厄介な海流なのだ。そこを箱入り娘であろう王女がピンピンして来れるはずがない。
だが、できる限り早く王宮に連れて来るようにと無茶を言ったのは、国王ではない。重臣たちだ。王太子が、噂のローザンネ国の姫君なんて本当に噂通りかもあてにならないと自分の好みの令嬢を婚約者にしたいと騒いでいたせいだ。
2、3ヶ月やそこらを待ったところで、大したことはないだろうと思うところだが、その婚約したい令嬢が王太子が一方的にライバル視している子息と婚約しそうだと知って慌てたにすぎない。
そんな息子より、留学して来る姫を丁重にお連れしろと護衛長に命じたのは、国王だ。もはや息子が言っても聞かないのを知っていて、諦めているようだ。
それよりも、他の王子と婚約させようと思っているようだが、周りの反発が大きくて重臣たちの好き勝手にするのにげんなりしていた。それを察した国王は侍医を連れて行かせた。
アンネリースにすぐさま駆け寄った者が侍医だ。アンネリースを気遣いながら王宮に行くことにした。それに護衛たちが従ったことにして、ゆっくりになろうとも、ローザンネ国の麗しの王女が元気に王宮にたどり着いてくれればいいと思っていた。
それこそ、それを民が見て国王が、あの国から見目の良い者を呼び出せるほどの力があることを知らしめたかったのだ。
だが、まさか、ついて早々に船酔いになるとまでは思っていなかったはずだ。
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