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しおりを挟む「アンジェリーカ! アンジェリーカ、ちょっと来てくれ!」
「は~い? どうしました?」
アンジェリーカ・ジェルメッティは、ユヴェーレンの世界にいた。彼女は、公爵家の令嬢でもなければ、祝福が数多くあるわけでもなく、魔力も桁違いにあるわけでもなかった。
ただ、人よりも癒す力が強い、強すぎることを除けば、極々普通の女の子だった。若干、見た目とことなってお淑やかに欠けるところがあったが、基本的には心優しい女の子で、学園がない日の週末は神殿でボランティアに勤しんでいることで有名だった。
その日も、例に漏れずボランティアをしていて名指しで呼ばれて入り口付近まで移動していた。
「君がアンジェリーカ嬢か?」
「そうですけど」
「私は、シルヴィオ・カンナヴァーロ。護衛騎士をしているんだが、妹が具合を悪くしていて、医者にも何の病気なのかがわからずに弱っていく一方なんだ。本来は、ここでしか診てもらえないとは聞いているんだが、どうにも動かせる状態ではないんだ」
「神官様、急患のようなので出ます」
「は? 待て! これから貴族の方が診察を受けに来るんだぞ!」
「ここに来れない患者と水虫の治療なんかを一緒にできません!」
「水虫じゃない! 通風だ! あ、いや」
アンジェリーカの言葉に神官はつい本当のことを言ったようだ。治療を受けに来ていた面々が白けた目を向けていた。
アンジェリーカも、その中の1人だった。
「通風の治療は、両手に数えられないくらいしてますよ。お酒や食事に気をつけるように言ってもやめないし、もう私は見きれません。すみません。お待ちいただいている皆さんは、他の神官様やボランティアの方が診てくださいますから。治療が終わり次第、戻って来る予定ではいますが」
「アンジェリーカちゃん。わかってるよ」
「そうだ。早く行ってやれ」
護衛騎士は、アンジェリーカのみならず、早く診てやれと言う面々に頭を下げていた。
「騎士様。アンジェリーカちゃんの治療はよく効きますよ」
「そうだぞ。他の神官の治療じゃ、毎週通ってるが、アンジェリーカちゃんの治療なら数ヶ月おきになるくらいだ。きっと、妹さんもよくなるさ」
その護衛騎士は、こんなにあっさりと家に来てくれるとは思っていなかったが、色々と尋ねた神官が貴族に金をもらっていた人物だったせいだと知ることになったのは、だいぶ後になってからだった。
その神官は金になるか。どうかだけで、判断していたようだ。そんな神官だけではなかったが、彼はそれを鵜呑みにしてしまったようだ。
その騎士の名前は、シルヴィオ。彼の妹のビアンカの病気は、もう少し遅ければアンジェリーカでも治療で癒すのが難しいものとなっているほど深刻なものだった。
(ここまで、我慢していたなんて、物凄く辛かっただろうに)
「あなたは、天使様?」
「え?」
「私のこと、迎えに来たの?」
ビアンカの方は、アンジェリーカを天に召される前に迎えに来た御使いだと思ったようだ。そんなことを言うほどに自分の死期が近づいていることを知っているかのようでアンジェリーカは泣きそうになってしまった。
「いいえ。違うわ。あなたの病気を治しに来たのよ」
「……治るの?」
「すぐには難しいけど、私が絶対に治すわ」
シルヴィオや家族を心配させまいとして、ずっと辛いのを隠していたようだ。ビアンカは、治ると言われて嬉しそうにしながら、本当に迎えじゃないのかと何度も聞いてきて、アンジェリーカはその度、根気強く違うと否定し続けた。
神様から与えられた最初の贈り物は千差万別あるが、それを上手く使いこなして、魔力すら世のため人のために使える者はそれなりにいた。
それでも、貴族や金持ちは権力を振りかざして好き勝手なことをする者も、それなりにいたがそういうことをしていると知られると信用と信頼をなくしていくことになり、そういう人が身内にいると知られると家族や周りまでもが、そういうのと仲良くしていて同じ穴のムジナのような見られ方をすることになり、それが恥ずかしくて仕方がないと思われるようになっていくのも、それからすぐのことだった。
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