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しおりを挟むアンジェリーカはというと忙しなく働いていた。
「次は、これを頼む」
「……また、ですか?」
「またも何も、ここの仕事なんてこんなもんだろ」
「……そうですね」
アンジェリーカは、美しい花々が季節感なく咲き続ける場所に居続けていた。彼女は、そこから天国にも、地獄にも行ってはいない。
前の世界では、ここに来ると束の間、神様と話して即行で生まれ変わるということを何十回と繰り返していたが、今回はそれをすることなく、とどまって仕事をこなすことになったのは、あの世界での行いと子供に殺意をむけられるようなことになって回避できなかったことが大きかったようだ。
(まさか、ここで無給で働くことになるとは思わなかったな。まぁ、神様からもらった選別やらを使いこなせずに丁度いいってエルフに全部丸投げしちゃったんだもの仕方がないわよね。……それにエルフをちっとも見かけないってことは、私が来る前にみんな亡くなったからだよね。これじゃ、待てど暮らせど会えるわけがなかったのに何やってたんだか)
アンジェリーカは、そこでほんの少し働いていた気がする。同じような仕事ばかりで飽きたなと思うくらいの月日だったはずだが、見知った人たちが天国行きか。地獄行きかで判定されるのをアンジェリーカはひたすら、ぼんやりと見ていた。
アンジェリーカがしている仕事は、案内だ。今のところ、天国行きの面々に滅多なことでは会ってはいない。みんな、散々なことばかりしていて、これでどうやって天国行きにできるんだと言うような人たちばかりだった。
祝福と魔力がある世界なはずなのに。前の世界よりも、天国に行ける人がいないことにアンジェリーカは考え深いものがあった。
そんな中で、見覚えがあるような人物を見つけた。
(どっかで見たような……。誰だっけ?)
アンジェリーカが小首を傾げて誰だったかと悩んだ相手は、かつてのアンジェリーカの、ユヴェーレンでの実の両親だった。祝福と魔力の凄さばかりを見ていて、娘のことを欠片も見ていなかった人たちがやって来たが、あちらもアンジェリーカのことを綺麗さっぱり忘れていたことで、アンジェリーカを見ても誰だったかを追求することはなかった。
あちらも、自分たちが死んだという認識が全くなくて、これまでのように不平不満やら、自慢に思っていることやらを口にするばかりだった。
(私ですら、天国行きは難しいのに。天国に行けるとなぜ思うんだろ)
その後、アンジェリーカが勘当されるまでの親戚やらが来たが、顔も名前も全く誰が誰やらわからないままだった。それほどまでにアンジェリーカにとっては、追放処分にまでされたことで、どうでもいい人間として認識されていたようだ。
自分がいようがいまいが、祝福と魔力さえあれば幸せなのだろうと思っていたが、生きている間が幸せだったとしても死んでから地獄行きにまっしぐらになる人生をあの世界の人たちがしていたとなると存在し続ける意味があるのだろうかとアンジェリーカは思い始めていた。
アンジェリーカの元婚約者の王子もやって来たりもしたが、これまたすっかり彼女は忘れていて、人間よりもエルフたちのことが気になって仕方がなかった。
そんな中で、シルヴィオやアリーチェたちがここに来た時はアンジェリーカはようやく知り合いに会えたことを密かに喜んでいた。
(どうして……?)
なのにあちらはアンジェリーカを見ても、何の反応も示さなかったのだ。
これまでの人たちも、どこかで見た気がすると思っていても、何のリアクションもなかった。自分たちのことで忙しそうなのは見ていたが、明らかに知り合いのはずの人たちですら、アンジェリーカは知らない人として扱われることになったのだ。アンジェリーカは、困惑してしまった。
ここに来たら、アンジェリーカはいつも全てを思い出していた。これまで何があったかを。でも、誰も何があったかを思い出すことがなかったのだ。
綺麗さっぱりと忘れ去ったまま、なくても問題ないかのようにされていて、いたたまれない気持ちになってしまった。
(これも、エルフたちが、あの世界にいなくなったからかな?)
アンジェリーカはすっかりエルフたちが全滅したと思いこんでいて、そんな結論に至ってアンジェリーカはしょげていた。
神様は、そんな勘違いをしているのをわかっていながら、面白がってアンジェリーカに本当は何があったかを話をしてはいなかったことで、更にアンジェリーカは思い悩むことになる一方だったが、それについてアンジェリーカがその答えをどうだすかを神様は見てみたいと思っていることをアンジェリーカは知りもしなかった。
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