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一方、加護を与え続けたクリティアが、婚約破棄されてから、何もかもを止めてしまった。今、本来の彼が顕になっていた。


数カ月が経ち、いつまでもアキントスの体調不良などと言う理由が通るほど甘くはない。騎士団に入りたいのなら、そんな自己管理の出来ない新人を欲しがる部隊はない。


彼の本当の実力など、騎士の下の下どころか。騎士にもなれるレベルではない。

成績も、下が居ない状況だ。補習を受けても酷いもので、先生たちもお手上げ状態となっていた。


筋肉もすっかりなくなり、反射神経もどこへやら。運動神経も皆無。訓練に出ても怪我ばかりで危なすぎると一緒にはさせてもらえなくなった。それどころか、すぐに息切れして走るのも辛い。


すぐに覚えられたことも、全く覚えられない。何度となく反復しても、覚えていられない。これまで覚えていたことも、まともに思い出せない。



「ヤブ医者共め! どこが病気じゃないだ! こんなに歩くだけで辛いのに」



だが、それを愚痴っても誰も同意してくれなくなっていた。


将来の有望株が、一変していた。


新しく婚約した令嬢のアンテリナには、すっかり見限られてしまい、破棄するにも外聞が悪いと彼女の両親からネチネチと言われている。


アンテリナは周りから、アキントスのことで馬鹿にされまくり、最初のうちは喧嘩する元気があった。誤魔化しきれないほどにまで、醜く太る彼に堪えられなくなり、すっかり引きこもりになっていた。



学園からは暴飲暴食を止めて、前のように真面目にやらないと留年もしかねないと両親に手紙がいっているようで説教された。

家族は元婚約者を気に入っていたこともあり、破棄したことをまだ許していない。



アキントスは、元婚約者が何かしたに違いないとアポなしで屋敷まで行こうとしたが、彼女は自国に帰っていて行くに行けなかった。

なぜなら、ひっそりと馬に乗って行こうにも、まともに馬にも乗れないのだ。馬車で行こうにも、酔いが酷い。学園に入る前までの自分を思い出して、愕然とした。



「そうだ。学園に入る前までの俺に戻っただけじゃないか」



なぜ、すっかり忘れていたんだ。クリティアが婚約者になるまで、女性に相手にされたことのない冴えない男だった。何をしても上手くいかなかったのに学園に入ってから、何もかも上手く出来るようになった。



「つまり、俺は彼女のおかげで何もかも出来ていただけだったのか……?」



だが、それを認めて後悔しても、もう遅い。……とは、アキントスは考えなかった。


あれだけ、ぞんざいにしても愛していたんだ。また、寄りを戻したいと言えば、上手くいくはずだと手紙を出すことにした。


常識的に考えたら、彼女の家名が何だったか思い出せず、名前のみの手紙が届くわけがない。配達員が家名を聞くも、意味不明なことを言う頭のおかしくなった男として有名になった。

そう言った苦情も周りから言われて、実家は取り繕うのに必死になっていた。


そんなこと知りもしないアキントスは、今の婚約者のアンテリナでは何の役にも立たないことがわかり、クリティアと婚約し直すにも邪魔でしかないとこれまた一方的に破棄する手紙を出したことで、今度こそ怒り心頭となった実家から勘当された。


アンテリナは、有望視されていた頃のアキントスに振られるならまだしも、今の彼に振られたことがショックで倒れた。勝手なことをして、家を追い出したとはいえ、格上の家を相手にきちんと対応しなくては、今後の存続に関わる。アキントスの実家も大変なことになっていた。


それでも、クリティアに手紙さえ届けば大丈夫だと信じて疑わなかった。

勘当されたアキントスは、学園を卒業出来ずに留年するにも授業料が支払えない。寮から出なくてはならず、行く宛もない平民として生きていかねばならなくなっても余裕があった。



クリティアは、故郷でのんびりと他の妖精たちと暮らしていた。彼女にとって、もう、アキントスとのことは終わったことになっていた。あと腐れないところが実に妖精らしい。


アキントスの出した手紙が届くわけもなかった。妖精の国に入って来れる人間など滅多にいない。もっとも、届いたところでクリティアの心は動きはしなかったが。


基本、妖精には悪気はない。気に入った人間に加護を与える。気に入らなくなったり、必要とないとなると止める。ただ、それだけのことだ。



愛しいあなたが、婚約破棄を望むなら、私は喜んで受け入れます。不幸せになっても、恨まないでくださいね?


もっとも、その頃には、私はあなたのことなんて、どうでもよくなってしまっているでしょうけど。



アキントスについて、その後、どうなったかを詳しく知っている者はいない。


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