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国一番。世界を探し回っても、アキントスにまさる殿方は居ない。
全てが完璧で将来も王直属の第1騎士団に入り、はては最年少の将軍まであっという間にのぼりつめるだろうと周りも、本人も信じて疑っていなかった。
それが、全て妖精王の孫娘である婚約者のクリティアが与えている過剰な加護の賜物だと知りもしない。
クリティアは、自分が妖精だと人間たちに教えてはならない決まりがあり、彼女は人間の娘として紛れていた。
(あぁ、今日も、なんて格好いいのかしら)
うっとりとした目で、騎士の訓練にまじって鍛錬している婚約者の姿をクリティアは特等席で見とれていた。まさに恋に恋する乙女の目で。
隣には彼のために作ったお手製の特製ドリンクとふかふかのタオル。それに怪我の治療が、すぐに出来る救急箱や包帯も完備済みだ。
騎士たちは、それをいつも羨ましくも妬ましく思っていた。彼女が来る日には、いつにも増して、張り切って訓練する。やはり、女性がいると気合いが入ってしまうのは、男の性というもの。だが、どんなにアピールしても、クリティアの目はアキントスにしか見ていない。
そこがいいと既婚者や娘を持つ騎士たちは見ていた。
独身の令息たちは、羨ましくて仕方がなかった。なのに肝心のアキントスは、婚約者を蔑ろにしているだけでなく、ちやほやされて色んな令嬢に愛想を振りまいている。クリティアは、それを全く気にしていないかのようにしている。何とも健気すぎる令嬢だ。
休日になるとこうしてアキントスは、騎士たちにまじっていた。
普段は学園の勉強や生徒会の仕事におわれていて、まとまった筋トレどころか、全くしていない。週1で日々、訓練に勤しむ騎士たちに勝るとも劣らない動きをしていた。
誰しもがアキントスの謙遜で、毎日何かしらしていると思っていた。じゃなければ、この厳しい訓練についてこれるはずがなかった。
だが、本当にアキントスは、この週1の鍛錬以外何もしていなかった。むしろ、昔は運動神経もなく、反射神経もなかった。
そんな話を今しても、誰も信じないほどだ。
世の女性が格好いいと見惚れる美しい顔立ちも、婚約者が中々出来ないほどだったとは思えない。
クリティアと婚約したのは、学園に入る前だった。寮生活をして、長期休暇で帰るたび、彼の家族は驚いていた。今やすっかり自慢の息子となっていたが、かつては期待など全くされていなかった。
婚約者のクリティアの贔屓目を除いても、アキントスは素晴らしい青年に成長していた。彼が婚約破棄を言い出すまでは、この世で一番の美青年は、彼だった。
突然のことだった。アキントスに呼ばれた。
「お前との婚約を破棄したい」
「え?」
クリティアは何かの冗談かと思っていた。じっとアキントスを見つめているとそれが冗談ではないのだとわかる。
(そう。あなたも、私を捨てるのね。こんなにも、愛しているのに)
「彼女に運命を感じたんだ。俺のような出世を約束された男の妻に相応しいのは、アンテリナのような家柄の令嬢だ。お前にも、そのくらいはわかるだろ?」
彼は、運命と言いながら、クリティアの身分がよくないから、相応しい相手と婚約したいと言うわけだ。
隣に立つアンテリナは、殊勝にしながらも、勝ち誇ったように口元が笑んでいるのを隠しきれていない。いや、隠す気がなかった。
いつも相応しくないと罵詈雑言あびせる令嬢の中心にアンテリナがいた。
「……えぇ、そうね。2人はお似合いだと思うわ」
クリティアは怒ることも、悲しむこともなかった。むしろ、喜んで破棄をした。それが、彼の望みだから。
いつものように受け入れた。今までも、そうしてきたように。
彼女にとって、婚約破棄は初めてではない。もう、何度も経験している。
(今回も、駄目だったわ)
婚約している間は、留学生として学園に通っていたが、破棄されたことでクリティアは、荷物を執事やメイドたちにまとめさせるとさっさと自国へと戻ってしまった。
全てが完璧で将来も王直属の第1騎士団に入り、はては最年少の将軍まであっという間にのぼりつめるだろうと周りも、本人も信じて疑っていなかった。
それが、全て妖精王の孫娘である婚約者のクリティアが与えている過剰な加護の賜物だと知りもしない。
クリティアは、自分が妖精だと人間たちに教えてはならない決まりがあり、彼女は人間の娘として紛れていた。
(あぁ、今日も、なんて格好いいのかしら)
うっとりとした目で、騎士の訓練にまじって鍛錬している婚約者の姿をクリティアは特等席で見とれていた。まさに恋に恋する乙女の目で。
隣には彼のために作ったお手製の特製ドリンクとふかふかのタオル。それに怪我の治療が、すぐに出来る救急箱や包帯も完備済みだ。
騎士たちは、それをいつも羨ましくも妬ましく思っていた。彼女が来る日には、いつにも増して、張り切って訓練する。やはり、女性がいると気合いが入ってしまうのは、男の性というもの。だが、どんなにアピールしても、クリティアの目はアキントスにしか見ていない。
そこがいいと既婚者や娘を持つ騎士たちは見ていた。
独身の令息たちは、羨ましくて仕方がなかった。なのに肝心のアキントスは、婚約者を蔑ろにしているだけでなく、ちやほやされて色んな令嬢に愛想を振りまいている。クリティアは、それを全く気にしていないかのようにしている。何とも健気すぎる令嬢だ。
休日になるとこうしてアキントスは、騎士たちにまじっていた。
普段は学園の勉強や生徒会の仕事におわれていて、まとまった筋トレどころか、全くしていない。週1で日々、訓練に勤しむ騎士たちに勝るとも劣らない動きをしていた。
誰しもがアキントスの謙遜で、毎日何かしらしていると思っていた。じゃなければ、この厳しい訓練についてこれるはずがなかった。
だが、本当にアキントスは、この週1の鍛錬以外何もしていなかった。むしろ、昔は運動神経もなく、反射神経もなかった。
そんな話を今しても、誰も信じないほどだ。
世の女性が格好いいと見惚れる美しい顔立ちも、婚約者が中々出来ないほどだったとは思えない。
クリティアと婚約したのは、学園に入る前だった。寮生活をして、長期休暇で帰るたび、彼の家族は驚いていた。今やすっかり自慢の息子となっていたが、かつては期待など全くされていなかった。
婚約者のクリティアの贔屓目を除いても、アキントスは素晴らしい青年に成長していた。彼が婚約破棄を言い出すまでは、この世で一番の美青年は、彼だった。
突然のことだった。アキントスに呼ばれた。
「お前との婚約を破棄したい」
「え?」
クリティアは何かの冗談かと思っていた。じっとアキントスを見つめているとそれが冗談ではないのだとわかる。
(そう。あなたも、私を捨てるのね。こんなにも、愛しているのに)
「彼女に運命を感じたんだ。俺のような出世を約束された男の妻に相応しいのは、アンテリナのような家柄の令嬢だ。お前にも、そのくらいはわかるだろ?」
彼は、運命と言いながら、クリティアの身分がよくないから、相応しい相手と婚約したいと言うわけだ。
隣に立つアンテリナは、殊勝にしながらも、勝ち誇ったように口元が笑んでいるのを隠しきれていない。いや、隠す気がなかった。
いつも相応しくないと罵詈雑言あびせる令嬢の中心にアンテリナがいた。
「……えぇ、そうね。2人はお似合いだと思うわ」
クリティアは怒ることも、悲しむこともなかった。むしろ、喜んで破棄をした。それが、彼の望みだから。
いつものように受け入れた。今までも、そうしてきたように。
彼女にとって、婚約破棄は初めてではない。もう、何度も経験している。
(今回も、駄目だったわ)
婚約している間は、留学生として学園に通っていたが、破棄されたことでクリティアは、荷物を執事やメイドたちにまとめさせるとさっさと自国へと戻ってしまった。
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