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しおりを挟むコンスタンスは、オクレール子爵家の末っ子として生まれた。彼女には、一回り近く離れた兄のレアンドルと兄より2歳年下の姉のアルレットがいた。
兄には、婚約者がいた。ドゥニーズ・ドゥニーズという名前の令嬢だ。彼女は、とても美人なアルレットの幼なじみとして最初にコンスタンスは覚えていて、その後に兄の婚約者として覚えた。
姉の幼なじみなこともあり、彼女はレアンドルと婚約する前から、よくオクレール侯爵家に遊びに来ていた。コンスタンスにとっては、第2の姉のような存在が、彼女だった。別に姉は、アルレットだけで十分だったが。姉がよく連れて来てくれたから、そうなっていった。別にコンスタンスが懐いていたからではない。
そんなドゥニーズは、オクレール侯爵家に来てコンスタンスを見ると同じことをよく言っていた。
「コンスタンスのような妹が、私も欲しかったわ」
「あげないわよ」
ドゥニーズは、実の妹が気に入らないようで、そんなことをよく言っていた。あまりによく言っているため、ドゥニーズの妹がどんな令嬢なのかがコンスタンスは気になっていたが、それを尋ねたことはない。
ただ、聞いてもいないのに実の妹のことを色々言う時のドゥニーズのことは、コンスタンスは好きではなかった。それを聞いているとアルレットも他所で、コンスタンスの悪口を言っているのではないかと思えてしまったのだ。
そんなことを姉にされていたらと思うとコンスタンスなら、ショックで立ち直れない。
だが、ドゥニーズはそんなこと気にもとめていないようで、そこもあまり好きではなかった。アルレットが、そんなことをしているのをコンスタンスは少なくとも見たことがない。
オクレール侯爵家に来るたび、妹のことを悪く言うドゥニーズにこんな姉ならいらないと思っていた。あちらは、それを知らずにほしい、ほしいと言っていた。
そう言う時は冗談めかしにアルレットが、コンスタンスを抱きしめて、わざとらしくドゥニーズから遠ざけた。
それもいつものことだ。この手の話になるとコンスタンスを姉はドゥニーズから離していた。わざとらしくしていたが、案外本気だったのかも知れない。
コンスタンスは、姉にその辺のことを聞いたことはない。そして、なぜ、こんなのを幼なじみだからと我が家に連れて来るのかが疑問でもあった。
「あなたの妹だって、コンスタンスと大して変わらないでしょ?」
「そんなことないわ。あの子、わがままばかりなんだもの。両親は、そこまでじゃないけど祖父母が甘やかすから、手に負えなくなっていってるのよ」
そんなことを話していたのをコンスタンスは、今も覚えている。
アルレットは、コンスタンスの頭を撫でながら……。
「そんなこと言って、たまには連れてくればいいのよ。コンスタンスも、歳の近い子と友達になれるチャンスだもの」
「アルレット。私の話を聞いていた? あんなのを連れ回すなんて無理よ。というか、絶対に嫌よ」
あんなの。妹をそんな風に言うのにコンスタンスは、ムッとしてしまった。同じようにアルレットも、何とも言えない顔をしていたが、それにドゥニーズだけが気づくことはなかった。
この2人は、そんなことを話しながら、コンスタンスにはよくわからないことをあれこれと話し始めたが、その辺は何の話をしているかと質問攻めにすることは一度もなかった。
その辺のことをコンスタンスは別にとやかく追求する気はなかった。ただ、姉が遊んでくれていて、側にいてくれるだけでよかった。その幼なじみは、どうでもよかった。
難しいことはわからないから、おままごとやら絵本を読んでくれるなら、それでよかった。何なら、ドゥニーズが嫌がっていても、アルレットが連れて来ればいいと言っていた彼女の妹の方が気になっていた。
でも、一緒に遊びたいから連れて来てとは言わなかった。コンスタンスが、ドゥニーズに彼女の妹のことをアルレットがいない時に聞いた時が怖かったのだ。
それ以来、ドゥニーズが来ても彼女の妹のことを聞くことはなかったし、彼女にコンスタンスが自分からわざわざ話しかけることもなかった。
それなのにドゥニーズは、コンスタンスには好かれていると思っているようで、ちょっとすつげんなりしていた。
姉なら、他にも友達がいそうだが、侯爵家に遊びに連れて来ていたのは、ドゥニーズだけだった。
兄がドゥニーズと婚約してから、数ヶ月。兄と婚約したなら、2人で出かけたりして忙しいと思っていて、そのことにコンスタンスはホッとしていたが、そんなことはなかった。
相変わらず、他に遊べる友達がいないのか。ドゥニーズは、変わらずオクレール侯爵家に来ていて、コンスタンスの相手をしているようで、逆にドゥニーズの相手をしている状況にうんざりしていた。
それでも、アルレットにもうオクレール侯爵家に連れて来ないでとコンスタンスが言うことはなかった。そんなことをすれば、姉が自分と遊んでくれなくなりそうで怖くて言えなかった。
それなのにドゥニーズは、何やら勘違いしていて、コンスタンスはアルレットよりも自分に懐いているかのようにしてえばり出していた。それもこれも、レアンドルと自分が婚約したからアルレットを超えたかのようにして、オクレール侯爵家で好き勝手なことをするようになっていて、それも嫌で仕方がなかった。
「お帰りなさい。レアンドル様」
「あぁ、ただいま」
ドゥニーズは、自分の家にいるかのようにしていて、婚約者を出迎えるようになっていた。
さも、当然のようにしていてコンスタンスは、ドゥニーズに抱っこされていた。本来なら、アルレットに抱っこされて兄を迎えていたが、いつの間にやらそれをドゥニーズが当たり前のようにやっていた。
レアンドルは婚約者だが、入り浸っているのに不思議そうにすることはなかった。元から、幼なじみ同士でアルレットが家に呼んでいたから、気にしていないようだった。
その頃になるとアルレットも、ため息が増えていた。それに気づいていたのは、コンスタンスと使用人くらいだった。それこそ、ドゥニーズと侯爵夫人以外の女性陣はため息をつきたくなっていたり、元気がなくなったりしていたが、それに兄もオクレール侯爵も気づいていなかった。
使用人の男性陣は、ドゥニーズが苦手なのか。彼女が来ても近くに姿を見せなかった。それをコンスタンスは不思議に思っていた。
兄が帰って来るとコンスタンスは、抱っこをねだるようになった。兄は甘えてくれていると思っていて、すぐに抱っこしようとしてくれていたが、ドゥニーズは……。
「お兄様は、着替えなきゃ。コンスタンスは、私で我慢してね」
「……」
そんなことを言うようになり、それにレアンドルは……。
「君は子供の扱いが上手いんだな」
「妹がいますから」
ドゥニーズは、嫌いだとよく言っている妹のことを言い、さもよく世話をしているかのようにレアンドルに話すのも嫌だった。
そのうち、そんなダシに使われるのを嫌がってドゥニーズが抱っこしようとするのをコンスタンスは暴れるようにして、アルレットにしがみついて兄を迎えるようになっても、あまり気にしていないレアンドルにげんなりしてしまった。
その頃には、アルレットが遊ぶ約束をしていなくとも勝手にお仕掛けて来ていて、それに困り果ててコンスタンスを連れて出かけたりするようになったが、アルレットたちがいなくとも勝手にオクレール侯爵家に入り浸ろうとしたが、そんなことをしているのをオクレール侯爵夫人に怪訝な顔をされて色々と言われたらしく、その話でドゥニーズはアルレットを怒っていた。
「出かけるなら、私も誘ってよ」
「……誘ったけど、忙しいって言ってたわよね?」
「え? そ、そうだった? でも、暇になったのよ」
それこそ、入り浸っていたかと思えば、そのうち飽きたのか。オクレール侯爵家に来なくなっていた。
ようやく、婚約したからと言って距離感を勘違いしていたことに気づいたのか。ドゥニーズが、侯爵家に来なくなってコンスタンスはホッとしていた。
でも、アルレットは浮かない顔をよくしていた。
「おねえさま、どうしたの?」
「……何でもないわ」
「?」
そんな顔をコンスタンスの前でもするようになっていた。オクレール侯爵家にあまり来なくなっても、レアンドルはあまり気にしていなかった。
なぜなら、その頃にはドゥニーズと2人っきりでよく出かけるようになっていたからのようだ。
それに気づいて、幼なじみを兄に取られたのか。はたまたその逆かで、アルレットは取られたことを寂しいと思っているのかと思った。
少なくとも、コンスタンスは兄を取られた気がして寂しかったが、その分、元気のないアルレットを励ますかのように奮闘していた。
でも、この時のコンスタンスは気づいていなかった。姉が何を気にして浮かない顔をしてばかりいたのかを。
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