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しおりを挟む「シュリティ」
「……何か?」
王太子と婚約をしたシュリティは、学園でラムチャンドラに声をかけられて、眉を顰めた。この間は色々あって、呼び捨てにされたことに気づかなかったが、今回はお互い婚約したのだ。そんな風に呼ばれたくない。
不愉快そうにシュリティは、ラムチャンドラを見てしまったのは悪くないはずだ。
「あ、いや、その、見かけたから、声をかけただけなんだ」
「……」
何を言っているのかがシュリティには、わからなかった。見かけたから呼び止めたなんて、おかしなことをする。
「ちょっと、お兄様。シュリティ様を困らせるようなことはやめてよ。シュリティ様、兄が申し訳ありません」
「別にいいのよ」
レーシュミにお姉様と呼ばれなくなったことにシュリティは、寂しい気持ちになったが、それは仕方がないと割り切ることにした。
「それとシュリティ様、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとう。レーシュミ」
「おい、レーシュミ。なぜ、そんな他人行儀なんだ?」
「……お兄様、何を言っているの?」
レーシュミは、兄が何を言いたいのかがわからない顔をした。シュリティも似た顔をしていたはずだ。
「私と婚約したのに畏まることはないだろ」
「「は?」」
シュリティとレーシュミの声が重なったのは、その時だった。
「誰と誰が、婚約したって?」
「王太子殿下」
そこに王太子がやって来て、シュリティたちは慌てることなくカーテシーをした。ラムチャンドラも驚きながらも礼を尽くしていた。
王太子は、すぐにカーテシーをやめさせてシュリティを自分の横にこさせて、ラムチャンドラを見た。
「殿下。彼女は、私の婚約者です」
「っ、お兄様! 何を言っているんですか。お兄様の婚約者は、隣国の侯爵令嬢じゃないですか。兄が申し訳ありません」
レーシュミは、大慌てで王太子とシュリティに謝罪したが、ラムチャンドラは……。
「え? 隣国の侯爵令嬢??」
「お兄様、しっかりしてよ。シュリティ様とあんな風に解消になったのにやり直せるわけないでしょ。どんなおめでたい頭してるのよ。守るって豪語しておいて、面倒になったからって解消したのは、お兄様じゃない」
「っ!?」
「レーシュミ」
どうやら、レーシュミはラムチャンドラが何をしたかを知っていたようだ。それにシュリティの方が驚いていた。
だが、ラムチャンドラの方は……。
「レーシュミ!? 面倒になったなんて、人聞きの悪いこと言うな! あの時はシュリティのために身を引いたんだ」
「……」
「シュリティ。君は、わかってくれているよな?」
すがりつくように言われて、シュリティは眉を顰めずにはいられなかった。
「……いいえ。レーシュミと同じことを思っています。それと私の婚約者は、殿下です。呼び捨てにしないでもらえますか?」
「っ、シュリティ! 誤解だ。そんなことを思われていたなんて、あんまりだ!」
「いい加減にしろ」
「っ、」
「私の目の前で、婚約者を呼び捨てにするな」
「あ、いえ、これは……」
ラムチャンドラは、王太子を激怒させるには十分すぎることをした。
このことがきっかけとなって、ラムチャンドラの婚約は破棄されることになった。彼と婚約していた令嬢が一部始終を見ていたこともあり、言い逃れることはできなかった。
レーシュミは、どうにかしようと必死になったが庇いきれなかった。
「父上が、侯爵令嬢と婚約したと言ったから、シュリティと婚約したと思ったんです!」
「そこが、おかしいだろう。お前が、何があっても守ると言っていたのに解消する時には、それをすっかりなかったことにして、シュリティ嬢のためと解消したのにやり直せるなんて、どうして思うんだ」
「それは、誤解です! 私は、シュリティのためにしただけであって……」
レーシュミは、父と兄の言い争うのを聞いてげんなりした。ナーラに似たところが、この兄にもあったのだ。必死になって庇おうとした自分が馬鹿らしくなっていた。
そんなやり取りを数日見ていたが、シュリティのことを呼び捨てにするのを全くやめないのもあり、謝罪する気どころか。シュリティは、自分に気があると思っていて、それにレーシュミは……。
「気持ち悪い」
「レーシュミ! 兄に向かって、なんだ!!」
「いや、レーシュミの言う通りだ。お前とやり直したいとシュリティ嬢は欠片も思っていないぞ」
「そんなわけありません!」
相思相愛なのだと言わんばかりのラムチャンドラにトゥリベティ伯爵は、このままにしておいたら大変だと勘当することにした。
レーシュミは、ギャーギャーと騒ぎ立てて追い出される兄にげんなりしてしまった。
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