上 下
45 / 46

45

しおりを挟む

ユズカは、頼まれた仕事をこなしていた。それが、誰からの仕事だろうとも、手を抜くことは一切なかったし、特別扱いすることもなかった。

どんなに頑張っても、間に合わないと思う仕事は誰からの依頼であろうとも、絶対に引き受けることはなかった。

だが、社長はそれを見越してユズカのところに頼みに来ていたため、断る理由が現れたことは一度としてなかった。

それに気づいたユズカは、こんなことを思っていた。


(流石って思うところなのかな)


ユズカは、それこそ奥さんを最高に喜ばせて、着飾る美しい姿を見たいと思っている社長の想いもわかっていた。

それこそ、ユズカたちより先に結婚していたが、子供に恵まれずに奥さんがそのことで長らく悩んでいたのも、ユズカは色々と相談されていた。ジュラルから、奥さんを紹介されてからは、それは仲良くさせてもらっていた。

そのため、手助けできることなら、ユズカが協力を惜しむことは決してなかった。

そんな社長夫妻が、ユズカの作ったドレス1枚から着飾る妻の美しさに夜は盛り上がり、新しい生命を身籠ることになったのだ。そんなつもりで、作ったわけではなかった。元より、奥さんは物凄く美人なのだ。ユズカのデザインしたドレスがあろうとなかろうとも、関係はない気がしてならなかったが、夫妻はユズカのドレスのおかげだと信じて疑うことはなかった。

妊娠したことを報告されて、ユズカは素直に喜んだがデザインした物によって、そうなったと感謝されることには首を傾げたくなってしまった。


(絶対にドレスは、関係ない気がするは)


そんなことをユズカは何度も思ったが、社長夫妻のみならず、社長の父親である魔王からも、ユズカは感謝されてしまったのだ。それには、驚くなんて言葉では語り尽くせないものがあった。


(あの時は流石に腰が抜けたわ。魔王が、人間の私に礼を言うなんて、あり得ないことだもの)


危うくジュラルの父親が息子が脅威になったと思って全面戦争を仕掛けにきたのではないかと憶測が飛び交ってしまうほどユズカも驚いたが、その世界の者たちも肝を冷やした。

驚いていなかったのは、ジュラルと数名だけだった。ジュラルの妻とユーフォルとモルセラとユズカのおばあちゃんだ。

モルセラとおばあちゃんは、師弟関係だったようだ。


(モルセラさんの方が若くみえるけど、おばあちゃんの方が若いって未だに変な感じがするけど)


魔王のことで戦々恐々となるのを宥めるのが、大変だったかというとそうでもなかった。

魔王は孫が誕生することに上機嫌になっていて、ユズカは怖さで腰を抜かしたのではなかった。

何ともフレンドリーな魔王がいたものだと思ったのとアポ無しで、突然ユズカに話しかけてきたことに驚きすぎたのだが、それを知った社長は父親に物凄く怒ったようで、それすら取りなすことになったユズカは大変だった。


(あわや孫に会えなくなりそうで、半泣きになって縋られることになるとは思わなかったし)


魔王は、頼みの綱のようにユズカに孫に会えなくなるのは、困ると縋ってきたのだ。それにドン引きしたのは、ユズカではない。ユーフォルとおばあちゃんだ。


「あらあら、魔王も、孫は可愛いみたいだね」


モルセラは、楽しげに笑っていた。


(全然、笑えない)


ユズカは、縋られたのを無下にてまきるわけもなく大変だった。

まぁ、何はともあれ、魔王の息子夫妻のところは一人でも子供ができれば御の字だろうと周りから思われていたが、その後もユズカのドレスで盛り上がることに変わりはなかったようで、気づけばユズカの家より子沢山になっていて、社長一家は賑やかさを増す一方となった。

それだけではなくて、魔王である祖父大好きな孫たちもいて、両親と一緒に暮らすことより、祖父と暮らしたいと言い出す者も出ることになるとは思いもしなかったが。


(流石に我が子に泣きつかれたら、社長も駄目とは言えないわよね)


ジュラルは、父親に子供を取られた感じがしたのか。益々、魔王を嫌っているように思えてならないが、どちらの世界も滅ぶことにはなりそうはなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...