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しおりを挟む社長も、人間を社員にしたことがなかったこともあり、他の社員のように働かせたら大変なことになるとようやく気づいたようだ。
「人間が、とても繊細なのをすっかり失念していた」
ジュラルは、恋人となったユーフォルに部下でもあるのにちゃんと見ていなかったことを叱責するなわてせずに自分が見余ったことに申し訳なさそうにしていた。
それを社長に呼ばれて聞かされることになったユズカは、大慌てで否定した。
「そ、そんな、私の方こそ、期待していただいていたのにお役に立てずに申し訳ありません」
「役に立っていないなんてことはない。君のおかげで、これまで中々上手くまとめられなかったところからも買い付けの話が来ているし、色んな世界のお歴々からも君が、関わるものなら間違いないからとまで言っているところも多い。期待以上なのは間違いない。自分を卑下することはない」
「……」
ジュラルにそう言われても、ユズカにはよくわからなかった。
(なぜだか、相手の方々に物凄く好かれるのよね)
人間は、センスがいいと思われているようだ。
センスはよくわからないが、ユズカは今まで無知だったのを恥じて色んな種族のことをこっそりと猛勉強していた。
それによって、相手の求めているものにあったものを売り込めていて、自分たちのことをよくわかってくれているのがわかって、好かれていることにユズカは全く気づいていなかっただけだったりする。
社長は、そんなユズカを益々気に入り、人間用に新しく雇用内容をしっかりと決めることにした。ユズカに何かあれば会社の一大事になりかねないと察知してのことだ。
会社内だけでなくて、取り引き先やユズカを知る者たちが暴れることになるとよんでのことだ。
ユズカは益々働きやすい環境を与えてもらうことになったが、その分ユーフォルとは部署が違うことになり、めっきり会う機会が減っていくことになったかというとそうはならなかった。
そんなことになれば、ユーフォルがどうにかなるとジュラルはわかっていたようだ。
いや、そのくらいなら社長でなくともわかることだ。ユズカと会えなくなれば、ユーフォルは確実に干からびてしまう。
部署が変わってもユーフォルにできる限り会えるように社長のみならず、他の者たちもしてくれると聞いて、ユズカは首を傾げそうになった。
(なんで、そこで、ユーフォルさんが出て来るんだろ……? ……あ、れ? 私って、ユーフォルさんとまだ付き合ってるんだっけ??)
仕事にかまけてすぎてしまっていて、恋人同士になったのを思い出したが、まだ付き合っているのかがわからなくなってしまっていた。
そもそも、恋人同士になったことすら、綺麗さっぱりと忘れていたことにユズカは顔色を悪くさせた。
(ど、とうしよう?!)
顔色を悪くさせたユズカを見て、ジュラルは勘違いした。まさか、ユズカが恋人のことをすっかり忘れて仕事に没頭しすぎていて、今更になって思い出したなんて誰も思うまい。
社長や周りにユーフォルのことなら、大丈夫だと言われても大丈夫なことなどユズカにはなかった。
「ユズカ」
「ユーフォルさん」
彼は毎日、時間を作ってユズカに会いに来ていた。それこそ、吸血鬼の彼にとって天気の良い日が何より苦手だろうとも、朝は低血圧で気分が最悪だろうとも、その時間しか空いてなければ、その時間にユズカのもとに通い詰めることを実行し続けていた。
(嫌われてはなかったみたいだけど。無理させてる気がする)
ユズカは、毎日会いに来るユーフォルにそんなことを思っていた。
流石にすっかり恋人の存在を忘れていたとは言えずにいたユズカは、ユーフォルの方から毎日会いに来るようになったことに複雑な顔をしたりしていた。
(なんか、部署が代わってから過保護になった気がする)
それこそ、少しでもユズカの具合が悪いと耳にすれば駆けつけてくれるようにまでなっていた。
ユズカが喜んでいると聞けば我がことのように喜び、悲しんでいたり失敗したとわかれば励ますべく、花束やケーキを持ってユーフォルは現れた。
そんなアプローチをされ続けて、これで付き合っていないなんてことはないはずだとユズカは、思うばかりだった。
溺愛されているとは、欠片もユズカはわかっていなかったし、伝わってすらいなかった。
それが、ユズカという女性であり、この世界で唯一の人間であり、彼女は恋人のみならず周りすら魅了してやまない者だった。
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