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しおりを挟む社長が魔界の王子だと聞かされて、この世界が仮装している人たちばかりだと思っていたのにそうでなかったことがわかり、ユズカはこれまでの人生で出したこともない熱を出してぶっ倒れた。
人生で初めてできた恋人にこの世の終わりのような顔をさせたのも彼女だが、その顔を見ることはなかった。ずっと高熱で生死の境を彷徨っていたからだ。
(懐かしいな。あれは、旅行に行く前に住んでたところ)
いつも、中途半端な時期に引っ越しばかりしていたから、アパートやマンションにばかり住んでいた。
事故にあって帰りたくないと思ってしまった場所でもある。
(誰も住んでないの?)
何やら玄関の扉の前に花が供えられていた。
「ここを管理人が貸すのを諦めたって?」
「そうみたいよ。貸した人たちが、お化けばかり見るって」
「それって、ここを借りてた人が家族で事故にあったから?」
(っ!?)
それを聞いたユズカは、ドキッとした。
「違うわ。その家族が借りる前から、ここは幽霊ばかり見ていたのよ。幽霊っていうか。仮装したまま亡くなったのに気づいていない幽霊が出るって有名だったのよ」
それを聞いてユズカは、ん?という顔をした。
(仮装してる幽霊……?)
それに何やら物凄い近親感のようなものをユズカは感じずにはいられなかった。
部屋の中をユズカは苦も無くすり抜けて入ると見慣れた感じの面々が、そこから人間たちが楽しむハロウィンに紛れ込む話をしていた。
(ここって、行き来ができるところってこと?)
そういえば、ユズカが住んでいたところは、大体がそんな曰く付きだったような気がするとなった。
(もしかして、両親はそういうところを選んで引っ越ししていたってこと……?)
それまで住んだことのある場所から、色んな世界に住む者がハロウィンの時期に紛れ込んで遊んでいるのを知ることになったユズカは、絶句していた。
(ハロウィンに妙な拘りがあると思ったら、あの世界の住人は人間とのハロウィンが楽しくて仕方がなかったみたいね)
それを楽しいと教えたのは、社長だったようだ。あの会社ができてから、それが加速することになり、人間たちのたころに紛れ込む方向やそこにいる時の注意事項などを事細かに教えたことで、ツアーのようになっているようだ。
(あ、あれ、私の取り引き先の人だ。……あの会社は、そういうツアーを組んでるとこなんだ)
そんなことを知ったユズカは、あまり驚いていなかった。もう既に驚きすぎていて、驚くほどのことではなくなっていた。不思議なものだ。
さらに死んだのは両親だけでなくて、自分も本来存在していた世界では死んでいて、あの世界では両親が我が子を守りたい。生かしたいという想いによって守られたことで、存在することができたことを知った。
(パパ、ママ)
実際に死んだ時の光景をユズカは見ていたから、間違いはない。
生まれ育った世界で、両親が穴を安定させて回っていたことで危険分子とみなされたようだ。ただ、ハロウィンを楽しむためだけの面々が安全に行き来できる穴を作っていただけなのだが、それを勘違いされたようだ。
両親が亡くなり、穴を安定させられる者がいなくなって、繋がってはならないところに繋がるようになって、人間たちしかいない世界がかなり危険なことになってしまっているようだが、それは自業自得でしかない。
その穴のせいで、人間たちも神隠しのように次々と消えたりもしているようだ。消えた面々が、ユズカのように別の世界で暮らせているかというとそうはなっていないようだ。ただの人間が無傷でたどり着くことなど、滅多にない。滅多どころか、今のところユズカの後には1人もいなかった。
(パパとママのしていたことって、凄いことだったみたいね。あのまま生きていたら、私も同じことをして転々としていたのかな)
そんなことを思ってはみたが、想像できなかった。
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