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しおりを挟むユズカは周りが思っているほどの危機感は全くなかったが、別のことが気になっていた。全部を勘違いせずに把握していたら、こんな悠長になってしてはいなかったろうが、よく知りもしないことが功を奏しているかはわからないが、無闇矢鱈に怖がることには繋がってはいなかった。
元より社長を怖がったり、気絶することもない人間だ。度胸が違うといえば、違うのだろう。
社内にいると誰かしらがユズカの側にいてくれるのだが、側に近寄って来ることがない人もいた。
社内のみならず、他でもユズカが大変な目にあっていると知って、仕事先のお偉いさんたちにまで心配されたりもして、どこにいても気遣われていた。
外から帰って来て、ユズカが挨拶をしてもユーフォルから応答はなかった。応答は何もないが、時折ばっちり目があっていた。
「っ、」
「……」
ユズカと目が合うとなぜか、あからさまにそらされてしまうことを繰り返していて、もう何度目になるかすら、ユズカは数えていない。
(目も合わせたくないってこと、だよね?? でも、目が合う前にこっちを見ているのは、ユーフォルさんだよね? じゃないと目が合うはずがないのに)
ユーフォルのように見目麗しい男性の恋人候補なのか。恋人に自分みたいなのが何かしちゃったから、みんなに迷惑かけてしまっているんだとユズカが思うようになるのも、すぐだった。
それもこれも、あからさまな態度を取り続けているユーフォルを見ていてユズカは、そう思っていた。
何か言いたげにしながらも、目が合うと逸らすのは察しろという意味に他ならないと思い始めたのも、割とすぐだった。
(それに絶対にみんなに迷惑しかかけてないよね。特に上司に。何やってるんだろ)
ユーパトの時のように設定がいまいちわかっていないせいで、こんなことになっているに違いないと思いたかったが、それをユズカは今更聞けずにいた。
当たり前になりすぎているのに社会人になってまで知らないのは自分の無知をさらけ出すことだ。それは、物凄く恥ずかしすぎる。
(私に構ってたら、みんな仕事にならないよね。この忙しい時期にこれ以上、迷惑かけたくないのに)
やっと営業部に配属されて、それなりに仕事ができるようになったと思っていたのに上司や先輩たちの仕事を増やしている状況に落ち込んでいた。
しょんぼりとして元気なく、1人にならないように仕事をこなしていたユズカを営業部のメンバーは、ベジタリアンの食屍鬼とはいえ、怖がっているのだと思ったようで、色んな勘違いがそこかしこで起こっていた。
モルセラやユーフォルは、人間であるユズカの心など簡単に読めるのだが、無闇に読まないようにと配慮していて、あの面接の日以来、あまり使わないようにしていた。
そのせいで、とんでもない誤解が何度も起こっていることに誰も気づいてはいなかった。
それこそ、誤解に誤解をしている本人は何が誤解だったのかすらわからないほど、誤解まみれになっていることにすら、全く気づいていなかった。
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