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しおりを挟むお偉いさんが、他のところも紹介してくれるようになったのも、割とすぐのことだった。
ユズカが人間だからと偉そうに売り込むのではなくて、相手にとって利益になるものを売り込むのだ。そのために寝不足になってクマを作ってでも、ちょっとしたお試しで振った話に真剣に対応するものだから、すっかり毒気を抜かれてしまったようだ。
「お嬢さんは、営業に向いてないようで、向いているな」
「??」
「御社の社長が、躍起になって欲しがったわけだ」
(へ? 何の話??)
ユズカは、何を言われているのかがわからなかった。
「うちにも欲しかったが、そんなことをしたら一溜まりもないからな。お嬢さんが、営業に来てくれて良かった」
ユズカは、寝不足続きの頭できょとんとしてしまったが、取り引きがまとまりそうなことから、それを深く追求することはできなかった。
意地悪いことを散々していた面々は、ユズカに二度と会うことはなかった。
それに最初は首を傾げていたが、前の担当がどうなったかなんて聞ける余裕なんてユズカにはなかった。
そのうち、他のところを紹介してくれるようになり、相手の要望にとことん添えるようにと寝不足になりながらも考えに考え抜いてプレゼンするうちにそこまで真剣に考えたならと感激して、採用してもらえるようになり、着々と仕事を取れるようになった。
それこそ、そういう人たちはイベリスの誘いに全く靡くこともなく、電話対応もユズカに変わってくれと言う人たちばかりで、言葉巧みに営業を仕掛けるやり手の面々よりも、ユズカがいいと言ってもらえるまでになるのも、そんなに時間はかからなかった。
(これで、部署のお荷物にはならなくなれたかな? まぁ、ハロウィンが終われば、この忙しさも終わるんだろうけど……。それにしても、本当に忙しいところだな)
ユズカが部署に戻ると誰もいないことも多くなっていた。
新人というのもあり、ソカムがユズカに着いて回ろうとしてくれていたが、ソカムの仕事に補佐として着いて回っていた時も、じろじろと値踏みされているような嫌な視線を向けられることはよく合った。
その度、ソカムが威嚇するような仕草をしてくれたことがいたたまれなくなって、邪魔をしている気がしてならなかった。
そのため、ソカムに無理を言って頼み込んで1人で営業に回ることにした。
でも、ソカムがいない分、益々馬鹿にされることになったが、それもそんなに長くはなかった。
ユズカにとって、解決していないことがあったが、それを追求していては仕事にならない状況のせいで、なんか大事なことを忘れている気が時折していたが、その程度のままとなっていた。
営業部門の中でもユズカは、天候や気温で左右される種族ではない。相手が、この時間というのに臨機応変に合わせられるのも、取り引き先にはよかったようだ。
もっとも、ユズカはそれが当たり前だと思っていたが、種族によって調整が難しいことも全くわかっていなかった。
そんな忙しさにかまけすぎていて、上司がどうして目も合わせてくれなくなったのかを聞くことも、すっかり忘れてしまっていた。
(あれ? なんか、大事なこと忘れてるような気がする。……なんだっけ?)
時折、そんなことを思い出したが、完全に思い出す前に電話が入って大事なことを思い出すことはなかった。
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