私は途中で仮装をやめましたが、周りはハロウィンが好きで毎日仮装を続けていると思ったら……?

珠宮さくら

文字の大きさ
上 下
29 / 46

29

しおりを挟む

お偉いさんが、他のところも紹介してくれるようになったのも、割とすぐのことだった。

ユズカが人間だからと偉そうに売り込むのではなくて、相手にとって利益になるものを売り込むのだ。そのために寝不足になってクマを作ってでも、ちょっとしたお試しで振った話に真剣に対応するものだから、すっかり毒気を抜かれてしまったようだ。


「お嬢さんは、営業に向いてないようで、向いているな」
「??」
「御社の社長が、躍起になって欲しがったわけだ」


(へ? 何の話??)


ユズカは、何を言われているのかがわからなかった。


「うちにも欲しかったが、そんなことをしたら一溜まりもないからな。お嬢さんが、営業に来てくれて良かった」


ユズカは、寝不足続きの頭できょとんとしてしまったが、取り引きがまとまりそうなことから、それを深く追求することはできなかった。

意地悪いことを散々していた面々は、ユズカに二度と会うことはなかった。

それに最初は首を傾げていたが、前の担当がどうなったかなんて聞ける余裕なんてユズカにはなかった。

そのうち、他のところを紹介してくれるようになり、相手の要望にとことん添えるようにと寝不足になりながらも考えに考え抜いてプレゼンするうちにそこまで真剣に考えたならと感激して、採用してもらえるようになり、着々と仕事を取れるようになった。

それこそ、そういう人たちはイベリスの誘いに全く靡くこともなく、電話対応もユズカに変わってくれと言う人たちばかりで、言葉巧みに営業を仕掛けるやり手の面々よりも、ユズカがいいと言ってもらえるまでになるのも、そんなに時間はかからなかった。


(これで、部署のお荷物にはならなくなれたかな? まぁ、ハロウィンが終われば、この忙しさも終わるんだろうけど……。それにしても、本当に忙しいところだな)


ユズカが部署に戻ると誰もいないことも多くなっていた。

新人というのもあり、ソカムがユズカに着いて回ろうとしてくれていたが、ソカムの仕事に補佐として着いて回っていた時も、じろじろと値踏みされているような嫌な視線を向けられることはよく合った。

その度、ソカムが威嚇するような仕草をしてくれたことがいたたまれなくなって、邪魔をしている気がしてならなかった。

そのため、ソカムに無理を言って頼み込んで1人で営業に回ることにした。

でも、ソカムがいない分、益々馬鹿にされることになったが、それもそんなに長くはなかった。

ユズカにとって、解決していないことがあったが、それを追求していては仕事にならない状況のせいで、なんか大事なことを忘れている気が時折していたが、その程度のままとなっていた。

営業部門の中でもユズカは、天候や気温で左右される種族ではない。相手が、この時間というのに臨機応変に合わせられるのも、取り引き先にはよかったようだ。

もっとも、ユズカはそれが当たり前だと思っていたが、種族によって調整が難しいことも全くわかっていなかった。

そんな忙しさにかまけすぎていて、上司がどうして目も合わせてくれなくなったのかを聞くことも、すっかり忘れてしまっていた。


(あれ? なんか、大事なこと忘れてるような気がする。……なんだっけ?)


時折、そんなことを思い出したが、完全に思い出す前に電話が入って大事なことを思い出すことはなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~

八重
恋愛
【全32話+番外編】 「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」  伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。  ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。  しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。  そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。  マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。 ※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!

菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...