私は途中で仮装をやめましたが、周りはハロウィンが好きで毎日仮装を続けていると思ったら……?

珠宮さくら

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(ユーパト視点)

営業部に新人が入ってくることは、非常に珍しいことだった。色んな部署で、素質があるとわかって中々営業まで回って来るまでに他の部署に素質を見出されてしまっていて、最後に回って来る営業部の魅力が伝えられずにいつも取られてしまうのだ。

今回は、営業部の研修にまわって来るまでに期待の新人のユズカは1年半近くかかっていた。そこまで営業部に来ないのは、初めてだった。あまりに営業部に来ないから、とっくに部署が決まっているものと思ったほどで、まだ研修期間を終えていなかったことにも驚かされた。

しかも、社長自らが面接した人間だと噂が飛び交い驚かされたが、どんな人物が来るのかと身構えていたのが馬鹿馬鹿しいほど、普通の女性だった。

営業部に来るまでに色んな部署で素質を見出されて引く手あまただったようなのに天狗になってやって来るかと思ったが、ユズカはそんなことは全くなかった。

どの種族にも変わりなく応対していて、贔屓する素振りもなかったのにユーパトは密かに感激していた。

それは、ソカムも同じだったはずだ。なにせ、ここにはユーフォルがいるのだ。彼と同じ空間にいるのに同じように対応できる女性は、この部署にいるイベリスとモルセラくらいだ。

それ以上にびっくりしたのは、ユズカが怪我の手当をして包帯を巻いてくれたことだ。

それにユーパトは、ユズカは自分に気があるのだと思ってしまったのだが、それは仕方がないことだった。

でも、その誤解は長くは続かなかった。これは、良かった。誤解したままでは、お互いが大変なことになっていた。それは、間違いない。

だが、土下座する勢いで謝罪されるのを見ることになったユーパトは、何とも言えないものがあった。

何より、残念だと思う自分がいることにユーパトは、益々複雑な思いをせずにはいられなかった。そんなことを思うまでになっていたようだ。

まだ会って間もないというのにだ。


「大変だったな」
「ソカム」
「まぁ、あんま落ち込むなよ」
「落ち込む……?」
「違うのか?」
「……」
「モテる奴らには、わかんないよな」


ソカムは、ポンとユーパトの肩に手を置いた。自分も、モテないからよくわかるとそれだけで物語っていた。

ユーパトは、その手をはねのける元気もなかった。それに気づいたソカムは、思案した。これは、思っているより、傷ついているとわかったようだ。


「あー、ユーパト。たまには、飲みに行くか?」
「……」


ソカムは、そこまで言ってヤバいと言う顔をした。包帯男は、酒は飲めないのだ。かくいうユーパトも、飲みに行くとは酒ではなくて、ミルクなのだ。


「……いいですね。ソカムのおすすめなら、美味しでしょうね」
「っ、おう。奢ってやる」


ユーパトは、嬉しそうににこっと笑ったが、包帯だらけでわかりづらかったが、ソカムにはよくわかった。

このことがあって、この2人は何気に仲良くなっていくことになるとは、ユーパトとソカムですら思いもしなかった。


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