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見目も良く、どこからどう見ても格好いいドラキュラの格好を見事なまでに着こなしているユズカの上司のユーフォルは、仮装しているドラキュラと同じく、実際の彼も朝に滅法弱いらしく物凄い低血圧のようだ。

だからこそ、その仮装を長年しているのではないかとユズカは思って彼を見ずにはいられなかった。

アンニュイな感じで、色気が駄々漏れ状態の朝に会うと彼氏いない歴=年齢のユズカは、それだけでクラクラしてしまい、刺激が強すぎていけない。


(これ、私が耐性なさすぎるから駄目なのかな? それこそ、ここで働いているうちに慣れるものなのかな? ……慣れたら慣れたで、問題な気もするけど)


そう思いながら、上司に挨拶をした。


「おはようございます」
「……うん。おはよう」


太陽が苦手らしく、ユーフォルの部屋では窓のところが時間で風景が代わるスクリーンタイプになっていて、それか映像とは思えないほど鮮明で全く違和感がない作りになっていた。

しかも、全体的に上品で、おしゃれな部屋となっていて、着ている服は高級品のオーダーメイドなのだと本人ではなくて、イベリスが教えてくれた。ユズカが、聞きたそうにしていたからではない。イベリスが、部署のことをぺらぺらと話して聞かせてくれるのは、ユーフォルのことのみではない。流石だと思うほど、イベリスは男性のことをよく見ている女性だった。

かなり偏った見方をしていても、ユズカにとっては部署の先輩として学ぶところはたくさんあった。でも、それを活かした仕事がユズカにできたかは、また別の話だ。 

それよりも、今はユーフォルのことだ。


(大丈夫には見えないな)


「あの、コーヒーをお淹れしましょうか?」
「っ、あ、あぁ そうだね。お願いしようかな」
「はい。あ、ソカムさん。おはようございます。コーヒー飲みますか?」
「はよ。飲む」


狼男の格好をしているソカムは、月の満ち欠けで狼と人間の割合が違うのが、彼の拘りの仮装のようだ。

研修していた時から見ていることもあり、狼男の変化に最初は首を傾げていたが、それが月の満ち欠けと関係があるとわかって、ユズカはその拘りっぷりに拍手を送りたくなった。

流石に部署の先輩にそんなことできないため、こうして他のことで補おうともしていた。

彼はユズカの教育係になってくれていて、口数は少ないがわからないところは、きちんと教えてくれて、わかるまで何度でも教えてくれる。ユズカとしては、迷惑かけまくっていることに非常に申し訳なく思っていて、できることは何でもやろうと奮闘していた。


「ユーフォルさんは、ブラックでしたよね?」
「えぇ、ありがとう」
「ソカムさんは、今日は甘めですか?」
「ん、甘め」
「ミルクも多めですか?」
「ん、そう」


彼は時折、可愛い仕上がりになっている。狼男の子犬バージョンとでも言うべきか。そうなると味覚から、話し方までお子ちゃま風になるのだ。


(芸が細かいんだよね。そこまで、拘って仮装している人をあんまり見たことがないけど。……ここだけよね。徹底して拘り抜いているの)


まぁ、皆さん長年仮装しているのだから、板についていて当たり前なのかも知れないが、ユズカにはただの人間ですら手に余って仕方がない時もあるというのになりきり続けるなんて凄いとしか言いようがなかった。

ユズカの関心どころは、いつもどこかズレていた。本人は、そのことに未だに全く気づいてはいない。


「はい。どうぞ」
「ありがと」
「どういたしまして」


そんなやりとりをじっとユーフォルが見ていたとは気づかずにソカムと今日の仕事の話をしていた。

ユーフォルには、先にコーヒーを出していて、ユズカに用がなかったようで話しかけられなかったため、ユズカはソカムと話し始めただけに過ぎなかったのだが、見られていることに全く気づいてはいなかった。


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