20 / 46
20
しおりを挟む(シレネの婚約者視点)
大学を卒業してから、もう数ヶ月もすれば2年になる。
大学を卒業する少し前に婚約した彼との結婚式の準備に追われていた。
シレネは、結婚式へ出席してもらうために数日前に招待状を出したが、早速戻って来ていた。それは、どれもこれもシレネにはどうでもいい連中ばかりのもので、やっとお目当ての人物のが目について、それがちゃんと出席にはなっているが、そこに思いもしていない言葉が書かれていて、眉を顰めると同時に腹の底からわけがわからない声が出た。そんな感じだった。
「は?」
「どうした?」
「ユズカから、返事が来たんだけど……」
「? それが、どうした? まさか、欠席するのか?」
「ううん。出席はしてくれるつもりだけど、まだ研修期間が終わってないから、どうなるかわからないから欠席するかもって」
「は?」
婚約者の男性も、シレネの言葉に同じ声が出た。腹の底から訳が分からないという声だ。
「まだ、研修期間が終わっていない? もう、入社して1年半はすぎるだろ?」
「そうなのよ。……まさか、人間だからって意地悪されてるとか?」
「まさか、あの方がおられる会社だ。それはないだろ」
「だよね。でも、こんなのあんまりだわ」
シレネは親友が邪険に扱われているのではないかと思ってならなかった。
それは、シレネだけではなかった。婚約者も、大学の時にシレネを通じて会ったが、その辺の奴らよりもよっぽどいい。シレネが、目にかけて親友だと言わしめるのが、よくわかるほどだった。
それは、2年足らずで変わりようがないと思っていた。変わらないどころか。また、面倒なことに巻き込まれているようだ。
「シレネ」
「……結婚式にユズカが来れなかったら、私、暴れてしまいそうだわ」
ボソッと呟かれた言葉は物騒なものだったが、それを耳にした婚約者はそれに慌てふためくことはなかった。
そんなことを言わずにシレネが暴れまわるのを見たこともあるし、耳にしたことがあった。シレネが、そうしている時の殆どが、自分のためでなくて、シレネにとって大事な者のためだ。
でも、婚約者となってからも、恋人の時からも男は、シレネが自分のために暴れ回るのを見たことはなかった。恋人となる前に暴れていたのを見て、恋に落ちたのだ。
人間の娘を親友だと言い、ユズカのために大暴れして、そして誤解されているユズカのために泣いていた。その姿に目を奪われて、恋に落ちたのだ。
「シレネ。それはわからなくはないが、ユズカが自分の欠席のせいで、結婚式が台無しになったと知ったら、悲しむんじゃないか?」
「……そうよね。これも、よほど疲れてなきゃ、研修期間が終わっていないなんて書いてないだろうし……」
心配でならない顔をシレネはして、戻ってきた手紙を撫でていた。それを見て、シレネとそしてユズカの心配を婚約者はせずにはいられなかった。
結婚式で、久々にユズカに会えるとシレネは浮かれていた。何なら付き添いを頼もうとまでしていた。
でも、この分、難しそうだと落ち込んでもいた。
「……ねぇ、結婚式を延期にしたら怒るわよね?」
「……」
婚約者は、何となくだがシレネがそう言い出しそうな気がしていた。
怒り出すのは、目に見えている。特に男の母親は、嫁になるシレネを気に入ってはいないのだ。毛嫌いしているとしか言えない。
「怒るだろうな」
「……そうよね」
しょんぼりとするシレネにため息をつきたくなった。
「だが、怒りたいのは怒らせておけばいい」
「っ、」
「花嫁の大事な付き添い人が、大丈夫な時にすべきだ。そうでなければ、花嫁が心から笑ってはくれないだろ?」
「……いいの?」
「いいに決まってる」
シレネは、大輪の花を思わせる笑顔を婚約者に見せて抱きついてきた。それを難なく抱きとめた。
案の定、男の母親はシレネがわがままを言って、結婚式を急に延期したと周りに喚き散らし、その原因が人間の娘を付き添い人にして、来れなさそうだからと延期したと知って、散々なまでに嫁になるシレネのことも、ユズカのことも馬鹿にしていたが、その後でユズカがとんでもない人物になったことで、大恥をかくことになるとは思ってもみたさなかったようだ。
それは、結婚式を延期にした2人も、そこまでなことになるとは思ってもみなかったが、結果からすると延期したことでシレネが周りにあれこれ言われることがなくなったことが大きかった。
それこそ、ユズカが親友だと知って、近づいて来る者が増えるほど激変するとは思いもしなかったが。
20
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】魔女を求めて今日も彼らはやって来る。
まるねこ
ファンタジー
私の名前はエイシャ。私の腰から下は滑らかな青緑の鱗に覆われた蛇のような形をしており、人間たちの目には化け物のように映るようだ。神話に出てくるエキドナは私の祖母だ。
私が住むのは魔女エキドナが住む森と呼ばれている森の中。
昼間でも薄暗い森には多くの魔物が闊歩している。細い一本道を辿って歩いていくと、森の中心は小高い丘になっており、小さな木の家を見つけることが出来る。
魔女に会いたいと思わない限り森に入ることが出来ないし、無理にでも入ってしまえば、道は消え、迷いの森と化してしまう素敵な仕様になっている。
そんな危険を犯してまで森にやって来る人たちは魔女に頼り、願いを抱いてやってくる。
見目麗しい化け物に逢いに来るほどの願いを持つ人間たち。
さて、今回はどんな人間がくるのかしら?
※グロ表現も含まれています。読む方はご注意ください。
ダークファンタジーかも知れません…。
10/30ファンタジーにカテゴリ移動しました。
今流行りAIアプリで絵を作ってみました。
なろう小説、カクヨムにも投稿しています。
Copyright©︎2021-まるねこ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
やめてよ、お姉ちゃん!
日和崎よしな
キャラ文芸
―あらすじ―
姉・染紅華絵は才色兼備で誰からも憧憬の的の女子高生。
だが実は、弟にだけはとんでもない傍若無人を働く怪物的存在だった。
彼女がキレる頭脳を駆使して弟に非道の限りを尽くす!?
そんな日常を描いた物語。
―作品について―
全32話、約12万字。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる