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しおりを挟むデザイン部門の企画発表の日。
ユズカの面接官の1人だった魔王さん……じゃなかった。魔王っぽい格好の男性が、一番いい席に座っているのをユズカは見つけて、この会社の社長だと知るきっかけとなったのは、この企画発表に参加したからだった。
それにユズカは、物凄く動揺してしまった。
(え? まさか、あの人、社長さんなの!? だから、面接の時、みんなあんな風になったってこと?!)
今更ながら、とんでもないことをしてしまったことを知った。普通とは言えなくも、社長とまでは思っていなかったのだ。
ユズカは、面接を受けた時の過去の自分に何をしていたんだと言いたくなって、頭を抱えてしまった。
企画発表はアゲラタムが力説してくれたから何とかなったから良かったものの。上手く話せなくなってしまったことに終わるや否やすぐ様、アゲラタムにユズカは謝罪した。
「仕方ないわよ~。あの方の前で、まともに話すなんて新人のほとんどが出来ないことだもの。数年経っても、出来ないのもいるくらいだしね~」
「え? そうなんですか?」
「そうよ。気絶したり、逃げ出さないだけ、あなたは上等よ」
それを聞いて、ユズカは数ヶ月前の光景を思い出して妙な納得をしてしまった。
「あ、それで……」
「? どうかしたの?」
「実は……」
面接官だったという話をしたら、アゲラタムは物凄く驚いていた。
どうやら、社長自らが面接するなんて珍しいどころか。初めてのことだったらしい。
「そう。あなた、よっぽど期待されてるのね」
「え?」
「あなたみたいな人間、この会社には貴重だもの」
「そんな、私なんて、まだまだ未熟者です」
「でも、面接では話したのでしょう?」
「はい。知らなくて……」
「それが、そもそも凄いのよ。そう、あの方と最初から話せたのね。私の目に狂いはなかったんだわ!」
「……」
アゲラタムにその後も色々と教えてもらい、他の研修生たちとはかなり遅れて、次の研修先へと向かうことになった。
それこそ、新人は一通りの研修をこなさないと駄目らしく、アゲラタムは名残惜しそうにユズカを見送ってくれた。
その部門の人たちも、アゲラタムを取り押さえながらも、ユズカに手を振ってくれていた。中には、戻っておいでね~とアゲラタムが言うのに激しく同意している部署の人たちにユズカは苦笑せずにはいられなかった。
(アゲラタムさんを取り押さえるのにあの人数が必要なんだ。それが、そもそも凄いし、仲良いよね)
ユズカが、そんなことを思ってしまったのは内緒だ。
ユズカが新しい研修先についた頃には、同期の研修生は居なくなっていた。みんな、それぞれの配属先が決まって辞令がおりて働いていると聞いてびっくりして、日付を見て、研修期間の半年がすぎていることにそこでようやく気づいてしまい、ユズカは現実を突きつけられて凹んだ。
(こんなに経ってたんだ。全然、気づかなかった。新人の研修で寄り道しすぎだよね)
アゲラタムのところに数ヶ月もいたことに全く気づいていなかったことにも驚いてしまった。
しかも、他の研修生たちがとっくに配属されて働いていることにユズカは何とも言えない焦りを感じずにはいられなかった。
(これ以上、遅れるわけにいかないわ)
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