16 / 46
16
しおりを挟む次に新人たちが向かった研修先は、お菓子の開発部門だった。ユズカも、新人たちにまじってそこにいた。
(悪戯用とこれは別の部門なんだ。なんか、わかるような。わからないような。あ、他人に悪戯する用と自分が楽しむ用ってことかな?)
そう考えるとユズカでも納得できそうだった。
色んなパターンというか。種族別というか。それぞれのなりきっている仮装の好みにあうお菓子の開発をするところのようだ。ユズカからしたら、超のつく偏食の人用から、ちょっと偏食の人用という感じに思えるお菓子があった。
虫入りや血液入りのキャンディーやケーキ、クッキーなどをおどろおどろしくデコレーションしたりするのだ。中身はともかく、美味しそうなデザインにするのは楽しいが、気味悪くデコレーションするのにはユズカは抵抗が大きかった。
だから、素晴らしく気味悪いデザインではなくて、美味しそうなのに気味悪い感じが残るものばかりにとどめた。
(私は、食欲がわかなくなるけど。ハロウィンって、こういうお菓子が流行ってたんだっけ??)
幼い頃に仮装してお菓子を貰いに家々に行った時は、もっと普通のお菓子が貰えた気がするが、時代は変わったようだ。
ユズカは首を傾げつつ、企画案にイメージ画を描いたのを見てもらっていた。
前回の猫娘の状態が1ヶ月も続いたこともあり、ユズカはそこであれこれ試食をしろと言われなかったのだ。……というか。食べるなと言われて、喜んでいいところのはずが、貢献できないことに凹んでしまったのは内緒だ。
でも、それにホッとしているのも大きかった。ユズカの視線の先には……。
(流石に虫入りのは食べたいとは思わないけど)
そう。本物の虫が入ったお菓子を、食べたいとは思わなかった。虫のように見せるお菓子なら、まだ良かったが、でもお金を出してまで食べたいかと言うとユズカにはなかったが。
「君の作るのは、みんな可愛くなるな」
「……」
(可愛い……?)
ここの責任者のカラウ・スティパは、カリアの双子の片割れらしい。雰囲気も似ているが、カラウは頬が、ちょっとこけていて顔色もあまりよくない。寝る間も惜しんで仕事をしているようで、そんなに仕事が好きなのかと思いきや裏事情があったようだ。
ここに寝泊まりして開発しているらしいのだが、そうなったのは、ここ数ヶ月のことのようだ。どうやら、カラウの奥さんが子供たちを連れて出て行ってしまってから、家に帰らずに仕事に没頭しているようだ。
その辺はカリアからの情報だ。猫娘の期間が長くなりすぎて、聞いてもいない情報を色々聞かされてしまったユズカだけが、その辺にすっかり詳しくなってしまっていた。
(身内の話題をされても、リアクションに困るものばかりだったな。……かといって、誰かに言いふらせるような話ではなかったし)
それこそ、あそこの研修が長引いたのも、ユズカが戻らなくなったのも大きかったりする。
それについて、研修生たちはユズカを心配してくれる者の方が多かったが、中には嫌味を言う者もいた。ユズカは、そういうのに慣れっこになっていたが、そういう人たちは、悪戯お菓子のとんでもない試食品を食べることになってしまい、最後らへんはそんなことを言う者もいなくなっていた。
カリアや部署の人たちとしては、自分たちが食べさせたもので戻らなくなったことに思うところがあったからかも知れない。
ユズカのようなのは稀だったようで、そういう特殊なケースにも瞬時に対応できてこそだと思っているようだった。
「猫耳と尻尾のまま、ここに来てくれたら、もっと可愛かっただろうに」
「……」
カラウの言葉にユズカは、なんて言っても見ようもない顔をしてしまった。
新人なこともあり、下手なことを言えずに黙っていると思われたようだ。
「カラウさん、それ、セクハラっすよ。キモいっす」
「何だと!?」
「ユズカちゃん。あっちで、作業しましょ」
この部門の人たちは、カラウから研修中の女子を何かと遠ざけようとしてくれていた。その度にカラウが、しゃがみこんで、メソメソしていた。
特にユズカに何度となく、同じようなセクハラのようなことを口にして、カラウから遠ざけられたのは、一度や二度ではなかった。
何となくだが、こういうところが奥さんが出て行った原因な気がしなくもなかった。
その辺のことにユズカは、気づかないふりをしてやり過ごした。
ここでの研修は、前の研修よりも、とても楽しかった。まぁ、試食している面々はユズカとは真逆だったようだが。中にはタダで食べれると喜んでいたのもいたが、そんなにたくさんはいなかった。
カラウはやたらと可愛いのにどこか気持ち悪い物が好きらしく、ユズカがデザインしたお菓子を眺め続けて、試食が出来ないほどだった。
それこそ、デザインが気に入ったからであって、ユズカがデザインしたからではないと思っているのは、ユズカだけだったようだが、特にそれ以上の被害はなかったため、ユズカが困り果てることはなかった。
20
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
与えてもらった名前を名乗ることで未来が大きく変わるとしても、私は自分で名前も運命も選びたい
珠宮さくら
ファンタジー
森の中の草むらで、10歳くらいの女の子が1人で眠っていた。彼女は自分の名前がわからず、それまでの記憶もあやふやな状態だった。
そんな彼女が最初に出会ったのは、森の中で枝が折られてしまった若い木とそして時折、人間のように見えるツキノワグマのクリティアスだった。
そこから、彼女は森の中の色んな動物や木々と仲良くなっていくのだが、その森の主と呼ばれている木から、新しい名前であるアルテア・イフィジェニーという名前を与えられることになる。
彼女は様々な種族との出会いを経て、自分が何者なのかを思い出すことになり、自分が名乗る名前で揺れ動くことになるとは思いもしなかった。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】いわくつき氷の貴公子は妻を愛せない?
白雨 音
恋愛
婚約間近だった彼を親友に取られ、傷心していた男爵令嬢アリエルに、
新たな縁談が持ち上がった。
相手は伯爵子息のイレール。彼は妻から「白い結婚だった」と暴露され、
結婚を無効された事で、界隈で噂になっていた。
「結婚しても君を抱く事は無い」と宣言されるも、その距離感がアリエルには救いに思えた。
結婚式の日、招待されなかった自称魔女の大叔母が現れ、「この結婚は呪われるよ!」と言い放った。
時が経つ程に、アリエルはイレールとの関係を良いものにしようと思える様になるが、
肝心のイレールから拒否されてしまう。
気落ちするアリエルの元に、大叔母が現れ、取引を持ち掛けてきた___
異世界恋愛☆短編(全11話) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
当然だったのかもしれない~問わず語り~
章槻雅希
ファンタジー
学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。
そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇?
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
やめてよ、お姉ちゃん!
日和崎よしな
キャラ文芸
―あらすじ―
姉・染紅華絵は才色兼備で誰からも憧憬の的の女子高生。
だが実は、弟にだけはとんでもない傍若無人を働く怪物的存在だった。
彼女がキレる頭脳を駆使して弟に非道の限りを尽くす!?
そんな日常を描いた物語。
―作品について―
全32話、約12万字。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる