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しおりを挟む内定をもらえたユズカは、おばぁちゃんに早速、報告した。
(ここを利用するの何気に初めてだわ)
初めて使う緊急用の連絡手段だったため、ユズカは物珍しくてきょろきょろしていた。交換台に繋いでほしい人と自分の名前を伝えると繋がる仕組みになっていて、知ってる名前でないと相手側がでないこともあるようだ。
(凄く便利ね。……番号ではないのね。ん? 番号って何だっけ??)
ユズカは、その時も奇妙な感覚がしたが、思い出せそうもないのと相手が出たことに思考を停止させた。
「それは、よかったじゃないか。おめでとう、ユズカ」
「ありがとう。ところで、おばぁちゃん、卒業式には来てくれるの?」
「そりゃ、行くよ。お前の晴れ舞台だからね」
「そっか。じゃあ、久しぶりに会えるんだね」
おばぁちゃんに会えるのが嬉しくて、ユズカはにこにことしていた。
大学生になってから、おばあちゃんとは一度も会っていないが、変わってないのだろう。10歳で初めておばあちゃんに出会ってから、見た目が全く変わっていないのだ。たった4年で劇的に変わるなんてことはないとユズカは思っていた。
そもそも、ここの住人は子供の頃に急成長する者が多く、大人になるとそんなに変わることがないようだ。
だが、そんな世界に迷い込んだと知らないユズカは10歳で、ここに来たせいか。それが、すっかり当たり前になってしまっていた。
ユズカの感覚も普通ではなくなっていたのだろうが、比べるものを少しずつ忘れていっていて、覚えていないことで、おかしいとは思わなくもなっていた。
この世界に上手くといえるのも変だが、迷い込んで何ともない人間は非常に珍しいものがあった。
それこそ、祖父母から両親とわざわざこちら側に旅行に来ていたこともあり、それに慣れて生まれたユズカもまた特殊だったようだ。
ユズカのように両親が不慮の事故で堺を過ぎて元の世界で亡くなり、肉体は亡くなっても両親の想いがユズカを旅行先に残すという強運も相まってか、ユズカは普通の人間よりも長い寿命を有することになった。
年を取るスピードも、ユズカはその時に変化していたようだが、それにも気づいてはいなかった。
見た目だけが人間のままのようだが、その容姿はこの世界に来る前よりも見目麗しくなっていて、元の世界に帰ることになっていれば、その美しさに見る者全てを魅了してやまないものがあったはずだ。
ユズカが残ることになった世界では、その程度の魅力でメロメロになる者は滅多にいないこともあり、ユズカは自分が人間離れした存在になっていることに欠片も気づいていなかった。
ただ、仮装を一切しない者たちの中で、度胸も桁外れにあって、この世界の古くからの住人たちにすら怯えることも、怖がることもなかった。
平然としていられる人間は、ユズカくらいしかいなかったが、もう既にユズカを人間のかずにいれたままでよいのかもわからなくなっていた。見た目だけが、人間っぽいというだけで、多くはユズカの素性や半生を知らないため、迷い込んだ人間だと思われていた。
その辺りのことに関しては、おばあちゃんこと老女が教えの賜物と思う者が多かったが、老女は全く何もしてはいなかった。
そもそも、ユズカがこの世界のことで勘違いしていることに薄々気づいてはいたが、それを正したこともなければ、正そうとする気持ちも老女にはなかったのだ。
全てはユズカが大人になれば否応なしに気づいて、どうにかすると放置していたのだが、残念ながらユズカの鈍さまでは計算にいれてなかった。
そのうち、気づいた時にどう反応するのかを楽しみにされてしまっていたようだが、ユズカはユズカのままで変わることはなかったのは、確かだ。
それこそ、黙っていたおばあちゃんに怒鳴ることもなければ、元いたところに帰りたいと思うこともなかった。
ただ、長らく全く気づかずにいた自分に呆れるくらいでしかなかったが、この時のユズカはまだまだ気づくまで間があった。
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