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しおりを挟むそういえば、面接会場にユズカとあと2人しかいなかったのには驚かされた。
(この3人だけってことはないわよね? 時間をずらしたのかな?)
気弱そうな女性が一番最初に面接していたが、面接官たちのハロウィンの仮装を見ただけで物凄く怖かったのか。はたまた予想もされないことを聞かれたのかはわからないが、可哀想なくらい怯えて出て来た。
「だ、大丈夫ですか?」
「っ、」
お化けの類が大の苦手な人なのかもしれない。彼女は、ユズカと同じく何の仮装をしていなかったのだ。
(こんなに怯えて、そんなに怖い仮装をしてるのかな?)
ユズカは最後だったから落ち着くまで、その女性の側にいた。
2番目の男性もまた仮装をしていなかったと思う。これまで受けた面接では、仮装をしていない者はほとんどいなかった。人間っぽいが、よくよく見ると人間ではない部分があるのだ。
2人のことをユズカは、よく観察したが仮装をしていなかった……と思う。
(面接官が仮装してるんだから、こっちもするところなのかも知れないけど。無理することないって、おばあちゃんも言ってたし。何より、今はこれが私らしいから、これで受からなかったら諦めるしかないよね)
その男性は、面接で仮装しているのが気に触ったのか。面接するのに呼ばれて部屋に入ろうとするなり、“失礼しました!”と言うや否や物凄い速さでどこかに行ってしまっていた。
(速っ!?)
そんな速さで走れる?!というような速さだったのは確かだ。怖さで震え上がる女性と異なり一刻も早く遠くへと離れたいという本能が物語っているかのような見事な走りだった。
「……そうなるわよね」
「え?」
ポツリと呟いたのは、1番目の女性だった。それを不思議そうにユズカは見ていたが、「面接、頑張ってね」と言い残して顔色が悪いまま、ふらふらと帰って行くのを呆然と見送るしかできなかった。
(なんだろう。物凄く、この部屋に入ってみたいような。入りたくないような。……いや、気になるから、入ってみたいかも。入るだけなら、大丈夫なはず。別にお化け屋敷に入るわけではないんだし)
ユズカは、2人の反応を見て好奇心が勝ったのはすぐだった。それこそ、世間で言う。怖いもの見たさというのもあったのかも知れない。
のちに知ることになるのだが、ユズカが魔王さんと勝手に心の中で呼んでいた方が会社の社長で、ドラキュラさんが営業のトップセールスマンで、その業界では超のつく有名人で、魔女さんはユズカのおばぁちゃんの知り合いというか。マブダチだった。
つまり、とんでもないお偉いさんたちが面接官だとわかって、ユズカの前の人たちはそれを見ただけて察知してパニックになったようだ。
そんなことを一切、知らなかったユズカは恐れ多くも年季の入った仮装などと心の中で称賛して、格好いいなどと呑気なことを言ってしまっていたのだが、そこら辺が全て口には出していなくとも筒抜けになっていて、彼らに気に入られることになったとは思いもしなかった。
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