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おばあちゃんが、ユズカのために両親のお墓をきちんと建ててくれていたこともあり、そこに埋葬されたのだと信じて疑わなかったことも大きかった。

おばあちゃんと会ってから、ユズカの記憶は所々あやふやなところがあった。気づいたら、両親の葬儀は終わっていて、お墓が建っていたのだ。


(退院したら、衣食住が確保されたことに喜んでしまったのと、葬儀やら火葬やらがあって両親の死をちゃんと受け入れられなかったからなのか。受け入れようとして、記憶があやふやになったのかはわからないけど、そこだけが思い出せないのよね。でも、お墓もあるし、お葬儀もしたのなら、両親の会社の人やらお世話になった人たちが来てたはずだけど、それすら全く覚えてないのよね。……よっぽど、ショックだったのね)


その時のことを振り返ってユズカは、そんなことを思っていた。

そんなことがあり、10歳からは新しいおばあちゃんとの暮らしが始まったが、どこか奇妙に思うことは最初の頃は多々あった。

多々どころか。奇妙なことだらけとなっていた気もするが、旅行先もかなり変わっていたこともあり、別の世界に自分が迷い込んでいるとはユズカは思っておらず、旅行先がそこだったことも知らず、そこにとどまるしかなくなったこともわかっていなかったこともあり、慣れるしかなかった。

本当はユズカにとって異世界で、両親との最後の旅行先がそのパラレルワールドのようなところで、そのせいでユズカがこれまで住んでいた世界と似ているところがあるにはあったが、新しく住み続けることになった世界は、ユズカにとって毎日がハロウィンのような世界だった。

そして、ユズカが本来いた世界には、本物の人間しかいないところだった。

住み続けることになった世界では、本物の人間が稀少しかいないことにも、ユズカは長らく気づくことなく、成長していくことになるとは誰も思うまい。

ユズカが奇妙に思うのも無理はなかったが、それでも周りのみんなの頭がおかしいと思うことはなかった。

それこそ、おばあちゃんと呼ぶようになった老女を見て魔女のようだが、いい魔女には見えないと言い切ることなく、悪い魔女のようだと口にすることもなかった。ましてやそんなことを思いもしなかったことが、この世界で上手くやっていける秘訣でもあったことも、ユズカ自身は知りもしなかったし、気づくこともなかった。

この世界のことをよく知らずに前のところと違っていても、いい世界なのか。悪い世界なのかが、そもそもユズカには判別がつかなかったことで、いつの間にやら当たり前が増えていくことになっただけだった。

もっともユズカでなければ、とっくに気がおかしくなっていただろうが、そんなことに気をおかしくするようなユズカでもなかった。

中学、高校と周りは毎日が仮装しているかのようにしている者たちばかりの中で、ユズカもそれが楽しくなっていた。周りにあわせて、仮装を毎日考えるのも大変になってしまい、おばあちゃんにならって魔女の格好をすることにしたのは、すぐのことだった。


(たまには、普通の格好のままでいたいとか思わないのかな?)


そんなことを思ったことはあったが、おばあちゃんはそんなユズカの言葉を聞いて、おかしそうによく笑っていた。


「面白いことを言うね。ユズカ、みんな、あれが普通なんだよ」
「え? そうなの??」


(普通なほど、好きってこと?? まぁ、確かに年中ハロウィンを満喫している人たちばかりだけど)


普通が、ユズカにはわからなくなってきていた。ハロウィンが、どんなものだったかも次第にこんな感じだった気がするというものに変わり始めていた。

残り始めたのは、両親が満喫していたことが楽しいハロウィンの楽しみ方みたいにはなり始めていた。

それが無理をしていることになり始めているとは考えもしなかった。


「そうさ。ユズカも、普通でいいんだよ。無理なことはするもんじゃないよ」
「……」
「それじゃ、長続きしやしないからね。やりたいようにおやり。人生、これからなんだ。この先、ずっとやれることをやるといい」
「ずっと……」


(無理なくやれるって、ちょっと難しい感じもするな)


ユズカが、そんなことをおばあちゃんに言われて、仮装を頑張るのをきっぱりやめたのは高校を卒業した辺りだったと思う。

ユズカが仮装をやめたところで、何か言って来る者はほとんどいなかった。もとより、ユズカに特段仲の良い友達がいなかったからかも知れないが、大学生となってユズカのように何の仮装もしてない者もちらほらいたこともあり、それまで無理をして周りに溶け込もうとしていた自分がいたことに気づいて、苦笑せずにはいられなかった。


(おばあちゃんの言う通りだな、無理なんてするものじゃないわね。私は、私だもの。仮装したって、本物になれるわけじゃないんだし。本物になりたいわけでもないもの。このままでいいや。私は、私。他の誰も私にはなれない)


そんなことを思って吹っ切ることになり、両親とのことも最後の旅行は楽しかったと思い出して、家族みんなでハロウィンを満喫したのも、最初で最後のようになっても、楽しくて仕方がなかったなと思って笑うようになったのも、その頃から段々と増えていった。


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