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「シャーリー。無理することないからな」


ダレイオスは、すっかり過保護になっていた。それこそ、シャーリーでなければ熱中症でも危険な状態になっていたところのようだが、事前に熱中症になりそうだと塩分の多いものを食べてから王妃のところに行ったのがよかったようだ。

まさか、日傘もないところでお茶会をするとは思わなかったが。そうでなければ、後遺症に悩まされていたかも知れないのだ。直感を信じてよかった。


「無理はしていません」


そんなやり取りが定番となっていた。ダレイオスはシャーリーが倒れた姿を見るだけで、己の心臓が止まりそうだと言った。

それを聞いてシャーリーは、かつて自分が姉のことでそうだったことを思い出していた。今では、病弱だったのが嘘のように養子にした子供を養うために家庭教師をして、人気の教師になっている。

シャーリーの両親も、ロッドフォード公爵家のジェレマイアの両親も、エイプリルが元気になっていることを喜んでいて、養子を本当の孫のように溺愛していた。

シャーリーは、王太子妃となるべく奮闘していたが、それでまた倒れるのではないかとダレイオスがうろちょろしていて、教えてくれる方も苦笑していた。


「殿下があんな風になるとは、シャーリー様のことが本当に大事なのですね」


そんな風にしみじみと言われたが、シャーリーはやり返す気でいたなんて口が裂けても言えなかった。

姉は、シャーリーを見て幸せそうだと笑ってくれたのを見て輝かんばかりに微笑んだのは、シャーリーの結婚式の日だった。

エイプリルはすっかり一児の母になっていて、溺愛してくれる最愛の夫と将来を誓うこととなり、その笑顔が曇り続けることはなかった。

王太子妃となったシャーリーは、自力で嫌味な連中にやり返すようになり、出番のもらえないダレイオスが複雑な顔をよくしていたが、気づかないふりをした。

こうして、シャーリーは運命の人と出会うべくして出会うことになり、結ばれるべくして結ばれることになって、仲睦まじい姿を至るところで目撃され、幸せいっぱいの人生を謳歌することができたのだった。






ちなみにジェレマイアの両親は息子の死を色々乗り越えて、養子を迎えた。実の両親を病気で相次いで亡くしたらしく、最初は心を閉ざしていたが、ロッドフォード公爵夫妻はその子に寄り添い続けた。

シャーリーは、最初気が気ではなかった。でも、会うたび親子になっていっている姿に泣きそうになってしまった。





シャーリーの実家であるオールポート侯爵家では、エイプリルが跡継ぎとなり、養子が懐いた男性に父親になってほしいと強く熱望したらしく、姉はその人と結婚した。

その人をシャーリーは知っていた。アンゼリカが婚約破棄した子息だった。

アンゼリカとの婚約が破棄となって新しい婚約者とお似合いだと思っていたが、卒業してすぐに結婚して夫人は病気で亡くなっていたようだ。

突然、妻を亡くした彼は跡継ぎを弟にして仕事人間として生きようとしていたところで、懐いてくれた子供の父親になろうと思ったようだ。


「ジェレマイア様が助けたのは、お姉様とあの子だけでなかったみたいね」


そう思うとシャーリーは、ジェレマイアのことを義兄と呼べなかったことが残念でならなかったが、姉の家族が幸せそうにしているのを見て微笑ましい気持ちになった。



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