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高熱で魘されてから、美穂は色んな人に心配されたが、結婚式を無事に終えたかというとそうでもなかった。

無事なんて言えない状況は、結婚式の前に突然やって来た。


「母さん……?」
「やっぱり、私に似たのね。凄く似合ってるわ」
「……何、してるの?」
「何って、娘の結婚式に出るために来たに決まってるじゃない」


さも当たり前のように母がいて、美穂は絶句してしまった。

母が何食わぬ顔をして結婚式に参加しようとして、控室に何食わぬ顔をして現れたことに美穂は頭を抱えたくなった。


「母さん。招待してない」
「私に謝りたくなかったんでしょ? 仕方がないから、許してあげるわ」


伯父や叔母たちが、母を見て色々言っていたが、母は娘の結婚式に追い出すのかと怒鳴り返していた。


「だから、招待してない!」
「っ、」
「母さんは、私に土下座して謝れって言ったけど、私はそれを姉さんにしてほしいだけよ。私には謝れなんて言わないし、絶縁したままでいい。もう、関わりたくないのよ!」


母は、美穂の言葉に頭に来たようで、祖父の葬儀の時の由美のように平手打ちをして来ようとしたのを伯父が止めてくれた。


「いい加減にしろ! 娘の晴れ舞台まで台無しにする気か!!」
「その晴れ舞台に母親を招待しないようなのが娘なもんですか!」


式が始まる前から散々だった。母は喚き散らしていて、浩一の両親やあちらの親族や美穂の母をよく知らない面々に何とも言えない顔をされてしまった。


(最悪すぎる。でも、喚き散らして暴れてたから、精神的におかしくなってると思われたみたいね。それは、よかったと思うところなのかな)


母は、怒鳴り散らして物を壊して出て行った。その後に何事もなかったように結婚式をするのは、大変だったかというと美穂は、思っていたよりもスッキリした表情をしていた。







あの後、美穂の結婚式に出れたかったことに憤慨した母は、由美の方の結婚式に出たようだ。

由美が会いに行った時には門前払いにしていたが、その後、連絡を取っていたようだ。どっちも謝ってはいないようだが、それでもよかったのかも知れない。それか、お互い忘れていたのかも知れない。

母が出席してくれるとわかって美穂と違って、由美は喜んだようだ。それに母は満更ではなかったようで、余計なことも言ったようだ。


「やっぱり、由美はいい娘ね。それに比べて、美穂は駄目ね」
「……どういうこと?」
「あの子も、今日、結婚式をしてるのよ」
「は?」


ついさっき、出席しようと行ったら、招待してないと追い出された話を母は由美にしたのだ。

それを聞いて、自分のところより先にそっち行ったのかと言いそうだが、姉は違った。


「同じ日に結婚式しようとしてるの?! 信じられない!!」


別に姉の結婚の日取りを聞いて決めたわけでない。その前に決まっていたことなのに母は、その辺の話をしなかったようだ。

そのせいで、この後、新郎が由美との結婚式に現れず、前日に本命の女性と結婚してハネムーンに出ていると知った由美は、婚約者の男性への怒りを美穂に向けたのだ。

母と一緒になって、披露宴に現れたかと思えば、2人で美穂の晴れの日をぶち壊しにかかったのだ。


(母さんが、姉さんを連れて戻って来た。最悪すぎる。姉さんに謝罪しろなんて言うんじゃなかった。そんなの全然気にしてなかったみたいだわ。というか、姉さんの結婚式は……?)


「姉さん、結婚式をやってるんじゃないの?」
「そんなのあんたに関係ないでしょ!!」
「相手は、本命と昨日結婚して、ハネムーンに行ってるらしいわ」
「母さん! 余計なこと言わないでよ!」
「あら、本当のことでしょ?」


母が本当のことを言ったことが不満らしく、姉はギャーギャーと騒いでいて美穂はげんなりしてしまった。


(予定がなくなったからって、2人でこっちに来なくてもいいのに)


そんなことで意気投合しなくてよかったのにと思うばかりだった。


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