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野良さんの体調が悪くなってから、美穂はボロボロになっていた。何をしてもしなくとも、失敗するほど酷かった。寝ても覚めても、野良さんのことで頭がいっぱいになってしまっていた。


「美穂。交代する。少し休め」
「平気。側にいる」
「美穂」
「側にいたいの」
「わかった。なら、横になってろ。琥珀、美穂を頼むな」
「にぃ~」


浩一は、美穂の側に琥珀を居させて、野良さんの世話を美穂の家に泊まり込んでしてもくれた。彼も仕事で忙しいはずなのに。野良さんと美穂の面倒を見てくれたのだ。琥珀も、一生懸命に美穂を舐め、野良さんを舐めていた。

それは、野良さんが老衰で亡くなるまで続いた。

美穂は、野良さんとの別れで一生分泣いたと思う。それに寄り添ってくれたのは、浩一と琥珀だった。父猫代わりとなっていた野良さんが亡くなったのに琥珀は、気丈にも美穂を慰めるために奔走してくれていた。


「凄くいい猫だな。きっと野良さんに頼まれてたのかもな。美穂を頼むって」
「っ、野良さん」
「俺も、野良さんに美穂のことは任せてくれって言ったから、頼ってくれていいから」
「もう、ずっと頼りっぱなしだけど」
「もっとでも、大丈夫だ」
「それだと私が何もできなくなる。これ以上、ダメ人間にさせたないで」
「それでも、いいけど」
「絶対にそれは嫌よ」


美穂は、琥珀だけでなくて、彼氏の浩一が側にいてくれたから、立ち直ることができた。

浩一が、撮ってくれた写真は、それまで美穂が撮っていたものよりも何倍も野良さんの魅力を閉じ込めたものになっていた。

それを見るたび、涙が溢れそうになったし、伯父に野良さんの話をして、電話の向こうで号泣するのを聞いて、琥珀が必死になって美穂にしていたように泣いている伯父を慰めようと鳴いていた。

それに美穂も堪えきれずに泣いてしまい、琥珀がオロオロしてしまって大変だった。

琥珀には悪いが、そんなオロオロとしながらも、美穂の周りに気づけば玩具を並べていて、それに美穂は笑ってしまった。


「美穂? どうした?」
「琥珀がね」


電話越しで笑う姪っ子に伯父が尋ねたので、写真と共に実況中継したら、伯父も大笑いしていた。

伯父には浩一のことも紹介したが、美穂をそっちのけにして盛り上がる2人に美穂は……。


(なんか、野良さんと伯父さんを見てるみたい。伯父のところに野良さんが、しばらくいた時はこんなんだったのよね)


なぜか、懐かしいものを美穂は感じてしまった。母には懐かなかったが、伯父には懐いたのだ。それこそ前は伯父ばかり狡いと思ってしまっていたが、今はそう思わないことに大人になったなと思っていたが……。


(……ちょっと、盛り上がりすぎてない?)


段々と仲間外れにされているような感覚になった美穂は、ムスッとしていた。それに気づいた伯父が吹き出していた。


「美穂。大丈夫。今だけだ」
「……何も言ってない」
「でも、何を言いたいかはわかるぞ。美穂は、 顔に言いたいことが全部出るからな」
「そんなこと初めて言われた」


伯父は、野良さんの時と同じ顔をしているとまでは言わなかった。

浩一は、不思議そうな顔をしていたが、すぐに彼氏を交えて盛り上がっている話に加えて、泣き笑いをしていた。


(こういうところもそっくりだわ)


野良さんも、美穂をこうして取り持つように間に入れてくれたのだ。それが、懐かしくて仕方がなかった。

母が野良さんに嫌われまくって、猫カフェでも不人気だったのを伯父に話すと……。


「相変わらずだな。あいつ、昔から動物好きなんだが、動物に好かれないんだ」
「え? そうなの?」


美穂は、初めて知った母のことで、苦笑してしまっていた。どうやら、見栄を張りたがるところは、父方だけでなくて、母にもあったようだ。


(全然知らなかった)


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