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しおりを挟むもっとも、夕食まで一緒にする前にこんなこともあった。
和彦が慌てて出て行って、そこから猫の話題で盛り上がって、夕食にどこかで食べて行こうとなったのだが。
「あいつ、また、食い逃げしてったな」
「そんなによくやるの?」
美穂は、浩一の言葉に驚きつつ聞いてしまった。
「焦ることがあるとやる。大輔、どうする?」
「あー、あいつ呼んだの僕だから、ここのあいつの分は出すよ」
「なら、きっちり払ってもらえよ。勘違いさせてたとか色々言われて、出し渋るようなら、俺からも言ってやるから」
「……」
浩一たちの言葉に美穂は、遠い目をしていた。
(なんか、お近づきになりたくないタイプだったな。浩一さんが来てくれて助かった。じゃなきゃ、何を話していいかわからなかったわ)
そんなこんなで、美穂はその後、浩一に野良さんたちの写真をよく撮ってもらった。野良さんは、浩一にすぐ懐いた。琥珀も同じだった。
(なんか、いいな)
そんな光景を見ているうちに浩一と付き合うことになるのだが、付き合い始めたと和彦に言っても、中々信じてもらえずにこれまたデジャヴのようになって大変だった。
大輔は、そうなると思っていたようで、すんなりしたものだった。その差が、酷かった。
「あいつ、こういうので思い込むととことんなんだよな」
「従弟も、ここまでとはって頭を抱えてた」
(よく、小学生から友達として付き合いができるわ。私には無理だわ。私が誰と付き合っても、関係ないし、信じてくれなくても全然いい。もう、関わらないでくれれば、それでいい。それでいいだけなのに何で、とやかく言うのを私に聞かせようとするんだか)
なぜか、伝えたい側の真逆なことを汲み取ることしかできない人のようだ。従弟は、和彦が前々から美穂のことを理想そのものだと言っていたから紹介しようとしたようだが、あの調子で勘違いして浩一と出会えたのだから、その辺は美穂は感謝していた。
でも、あまりにも話が通じないのもあって、仕事でもトラブル続きになっているようだが、本人にその自覚が欠片もないようだ。
それを聞くたび、美穂は血の繋がった家族を思い出してしまった。会話をしているのに会話になっていないのを懐かしいと思うのも変だが、今はそれに欠片も我慢しなくなっている自分に苦笑してしまった。
(変われば変わるものよね。他人だから、我慢できないのか。身内にとんでもないのがいたから、もう我慢したくないだけなのか。変な気分。どこにでもいるのね)
美穂は、そんな和彦と程よい距離を保つことにしたが、浩一だけでなくて、大輔も同じようなことをしたようだ。
流石に美穂が本当に浩一と付き合い始めたのすら、自分が知らされてなかっただけで、紹介する前から付き合っていたかのように思ったのだ。
和彦は、あの時、浩一と一緒に美穂と初対面を話して出会ったことをなかったことにしたかったようだ。自分の方が先に会ってさえいれば、付き合っていたのは自分で間違いなかったと思いたかったのかも知れない。
そうだとしても、美穂たちには迷惑でしかない。特に美穂には迷惑なため、浩一は美穂が嫌な思いをしないようにしてくれた。
大輔も、美穂に紹介したこともあって、和彦で迷惑しないようにするのに必死になってくれたようだ。だが、扱いきれなくなって小学生からの友達付き合いもやめることにしたのも、間もないことだった。どうやら、年々酷くなっていたようだ。
それこそ、仕事でヘマばかりして、配属先が変わったことを気に引っ越したようで、浩一と大輔は早々会えないところに行ったことにホッとしているようだ。
でも、美穂は和彦がどこでどうしていようとも、どうでもよかった。それより、野良さんの体調が悪くなっていて、仕事でミスも増えてしまっていた。それでも何でもないかのように過ごすことに必死になっていた。
もし、和彦があのまま騒いでいたら、美穂も我慢せずに怒鳴り散らしていただろうが、そうはならなかった。
美穂は、浩一や大輔に当たり散らすことはなかったが、それでも見ている側には怒鳴り散らした方がマシに見えていたようだが、そんなことに気づくことはなかった。
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