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しおりを挟む家猫うんねんの話を野良さんにしていたのは、数年前のことだが、覚えていたようだ。しかも、オス猫が血の繋がりがなさそうな子猫の世話をしていたことに驚きつつ、子煩悩な野良さんに感動してすらいた。
「育メンだな」
「そうみたい。明日、病院に連れて行きます」
「明日なんて言わずにこれから連れて行こう。前に犬を飼ってたから、いい動物病院を知ってる。……この子猫、具合が良くないように見えるし、早い方がいいだろ」
「確かに。わかった。お願いします」
知らないところに行くのだ。それに怯えて怖がっているのかと思っていたが、違っていたようだ。
「なぁ~ぅ」
「お医者様に診てもらうのよ」
野良さんは、子猫の具合が良くないのをわかっていて美穂の誘いに乗って家猫になってくれたのかも知れない。
(なのに私ったら、浮かれすぎて具合の悪いのを見過ごすところだった)
子猫は2匹とも猫風邪を引いていた。片方だけだと思っていたが、両方だったようだ。しかも、酷い方は一晩経ってからでは危なかったことを聞かされて、早く連れて来れてよかったと思いながらも、猫3匹の治療費にショックを受けてしまった。
(うげっ、動物の治療費って、こんなにかかるものなの?! 野良さんだけでなくて、子猫たちもだもの。こうなるわよね)
目玉が飛び出そうな金額に美穂は狼狽えたが、それを見ていた伯父がこんなことを言ってくれた。
「俺が半分出す」
「いえ、私が飼うって決めたんです。私が何とかします」
(姉さんの愚痴も散々聞いてくれて、世話になったんだし。母さんのことでも、色々気づかせてくれた。野良さんが家族を増やすなら、私にとっても家族だわ)
そう思っていた。母に喜んでもらおうと大学を卒業したら、旅行にでも誘おうかと思って貯めていた分も、猫に貢ぐことにすれば3匹を養う余裕ができる。
(今更、1人で旅行に行く気にもなれないだろうし)
「そんなこと言うな。これから猫を飼うのに必要なものをあれこれと買うことになるんだぞ? スポンサーにならせてくれ。その代わり、写真を送ってくれ。俺も、癒されたい」
「そういうことなら。……ありがとうございます」
「どういたしまして。でも、いきなり3匹も飼えるのか?」
「育メンがいるから、大丈夫だと思います」
そう、この時は3匹飼う気でいた。でも、猫風邪が酷かった方は身体がもともと強くなかったようだ。美穂が飼い始めて、半年もせずに虹の橋を渡ってしまって、野良さんと残った猫を琥珀と名付けて飼うことになった。
琥珀は、妹猫が虹の橋を渡ってしまって、しばらく大変だったが、その辺は野良さんが寄り添い続けてくれていて、落ち着くのも早かった。
母たちとは絶縁しても、伯父夫妻や祖母とは良好な関係のままだった。
(流石だわ。これが、私だけだけだったら、琥珀にどう接していいかがわからなかったわ)
そんなことを思って、寄り添う2匹を見つめていた。野良さんも、高齢になっていたが、それでも琥珀を心配してなのか。野良猫の生活は長かったはずなのにそんなこと感じさせないほど、家猫生活を満喫していて、琥珀にも教えていた。
(本当に育メンだわ)
そんなこともありながら、大学を卒業して無事に就職できたが、美穂は愛猫たちに癒されつつ、伯父たちの応援とサポートがあったからこそ、頑張ることができた。
猫たちの癒しは絶大だが、社会人になってからの美穂にとって、母にしていたようにギリギリまで頼らずに頑張ることがクセのようになっていたが、そんなクセを見抜いてくれたように絶妙なタイミングでサポートしてくれたことで、新社会人になってからも余裕がなくなって気がおかしくなりすぎることはなかった。
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