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(馬鹿になんて、わざわざしてない。私としては、関わりたくないから回避したかっただけだもの。……いや、でも、通知表のやつは回を重ねるたび、馬鹿にしてたかも知れないけど。でも、あれに気づかない方が、どうかしてるわよね。通知表の中身は改ざんしてないんだし)


流石に言えずに美穂は内心でそんなことを思ってしまった。言葉にしないで、瞬間的にあれこれ思うのは、いつものことだ。

親族には美穂に謝れと言われることになって、由美の味方は誰もいなくなっていた。相変わらず、敵を作るのは上手い。

それに我慢できなくなったのが、由美だ。もっとも、我慢ならないことは由美は人より多い。多すぎるくらいだ。


「美穂に頭を下げるなんて、死んでも嫌よ!」


(今、それを言うの?)


祖父が亡くなったばかりで、その言葉を聞いたせいか。怒鳴り散らす由美に母や親戚が何か言う前に声を荒げたのは、美穂の方が先だった。


「いい加減にしてよ! 頭下げろなんて言わないし、これまでのことで謝れとも言わない。今日のことでも謝罪なんていらないから、もう比べるのやめて。姉さんが、どこで嘘をつこうと見栄をはろうと、どうでもいい。ただ、私を持ち出して比べないで」
「は? 私が、いつそんなことしたって……」
「高校が一緒だったから、散々先生たちにも、在校生にも姉さんのこと言われた。姉さんが、やたらと気にしてた高校の成績も、あれは私のじゃない。姉さんのよ。名前を私のにしただけ。姉さんが、ボロクソに言って笑ってたのは、私じゃない。姉さんは、自分をボロクソに言ってただけ」
「っ!?」


それを聞いて、他の親戚があり得ないと笑ったのが聞こえた。

美穂の言葉に由美はよっぽど頭に来たのか。それとも、笑われたのが頭に来たのかはわからない。多分、どっちもではなかろうか。美穂は姉から平手打ちされていた。姉からでなくとも、美穂から平手打ちされるのは、人生で生まれて初めてだった。


「サイテー」
「っ、それは、お互い様よ!」


(もう、我慢しない。してやらない。言いたいことも、やりたいことも、全部やってやる。言っても伝わらなくとも、この痛みを耐えるなんてしない!)


美穂は、ぶち撒けたことと平手打ちされた痛みにイラッとして、由美の頬を同じように平手打ち仕返していた。若干、美穂の威力の方が強かったかも知れないが、人生で初めて平手打ちをしたのだ。加減なんてわかるはずもない。


「っ、いったぁ~い! 何、するのよ!!」
「そっちに謝らなくていいって言ったんだから、私も謝らない。でも、やられたら、やり返す。もう、我慢しない」
「っ、あんた、生意気なのよ!」


それから、人生初の姉妹喧嘩をした。ずっと、姉の一方的な言い分を聞いていたばかりの美穂が、言い返すことにしたのだ。由美は、それに物凄く驚いていたが、意外にすんなりと美穂は言い返せていた。


(言葉にしないだけで、内心では色々言ってたから)


祖父の葬儀を終えた後で大喧嘩したせいで、告別式の時の美穂たちは酷い顔をしていたが、美穂はスッキリした顔をしていた。

何があったかを知らない人たちには、ぎょっとされてしまったが。何があったかを知っている人には、色々言われたりもした。

そんな中で、説教するでもなく、こんなことを美穂は言われた。


「お前らの父親の時の告別式を思い出すな」
「え?」


母の兄がポツリと美穂に教えてくれたのだが、亡くなった祖父と父方の祖父は、美穂たちの父の葬儀の時に揉めに揉めたようだ。


「あぁ、それで、おじいちゃんたちの顔、怪我してたんだ」
「……覚えてるのか?」
「ほぼ、ばっちり。大人たちが話してたの覚えてます。前にお会いした時は、髭がなくて、腕を怪我してましたよね? 確か、酔っ払って転びそうになった人を助けようとして怪我したって言ってましたけど、本当は自分が酔っ払って足がもつれて階段で転んだって言ってたのを聞いた覚えはあります」
「ほぼ、確かにそうだな。記憶力が、そこまでよかったなら、あの時の葬儀も最悪だったろ?」
「そうですね。おかげで、父に変な期待を持たなくなりました」


それを言うと伯父は、大笑いをしていた。美穂も、面白くなって笑っていた。

姉とは、これがきっかけでろくに話すことはなくなった。話すというか。あちらが、美穂に話しかけて来ることはなくなった。もとより話すというより、今までも一方的なものばかりで、姉妹らしい会話をした記憶が美穂にはなかったが。

でも、美穂は母が通知表を偽造していたことを由美に話すことはしなかった。自分がしたとも言わなかったが、由美は美穂がしていたと思っていたに違いないと思いながら、それでも話せなかったのは、一体誰のためにしたかったのかが美穂にも、わからなかった。


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