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しおりを挟む母は、どこまで気づいているのかがわからないが触れずにいた。姉の方にあれこれ聞いて、愚痴愚痴と怒られるのだけは勘弁してほしいのだろう。
ただですら、長期休暇になる度、気を遣うのだ。美穂と同じく母も当たり障りのない話をするのが、本当に上手くなってしまっていた。
話したいことがあれば、美穂たちが聞いてもいないのに話し続けるのが由美だ。家族には何してもいいと思っているのだろう。特に美穂には、それもこれも美穂が……。
(妹だから。姉さんの中での妹って、そういう立ち位置ってことよね。前なら、そんな姉さんにげんなりしてたけど、今は母さんも同じような感じになってるから、嫌になるわ)
そんな姉に美穂は大学は、どこにしたのかとしつこく聞かれたが、美穂が答えることはなかった。そもそも通知表を母が偽造し続けていて、それが由美のものなのに美穂の名前が書かれているだけで、未だに誤解したままだった。それがバレることなく続いていたことで、大した大学には入れないと思っていたようだ。
それこそ、由美本人の通知表を見て、由美かボロクソに言っていたのだ。それを聞いていた美穂は遠い目をしながら、母ほお腹を抱えて笑いたくなっているのに耐えるのが、とにかく大変そうだった。
そんなことを続けていたことで、美穂から大学のことを聞き出せなくとも、そんなに気にならなかったようだ。
(ホッとしていいんだが、姉さんの頭の心配をした方がいいんだが、よくわからないわ。でも、こうなると頭よね。どういう思考回路してんだろ。母さんも、似たりよったりだけど。……どっちも理解できないわ)
そんな美穂が、無事に大学受験を終えることになった。姉が入るのは間違いないと豪語して触れ回っていた大学よりも、ワンランク上の大学に現役合格した。姉のように補欠合格ではない。首席での合格だ。
それを母は物凄く喜んでくれた。由美の時よりも、喜んでくれていたと思う。もっとも、姉が大学に合格した時は、酷かった。
まぁ、姉のことで酷くないことはあった試しがなかったが。
「は? 嫌味? 行きたかったとこじゃないの知ってるでしょ!」
「なら、一浪するってこと?」
「そんなことするわけないじゃない。そんなことしたら、笑い者にされるわ!」
そんな母と姉のやり取りを耳にした美穂は、こんなことを思った。
(もう既に笑い者にされてると思うけど)
そんなことをした姉と違い、母に祝福された美穂は、大学に合格したことを素直に喜んでいた。首席で合格したのだ。何の不満もあるわけがない。
「美穂。おめでとう」
「ありがとう」
「美穂。おめでたいのはわかるけど、お姉ちゃんには、どこの大学に受かったかは、伏せておきましょ」
母の提案に美穂は言わんとするところはわかっても、何とも言えない顔をした。絶対、面倒になるのが目に見えているからだ。
(まだ何かしたいみたいね)
「そんなことできると思う?」
「というか。どうせ、大したところに合格してるわけがないと勝手に思っていそうだし、あちらは就活で忙しくしてるから、美穂がどこに合格したかを探る余裕がそもそもないはずよ」
「それも、そうだろうけど」
「聞かれても言わないでおきましょ」
「……わかったわ」
(流石に大学受験の時みたいに就活うんねんまで私のせいとか言えないものね。大学のことで散々馬鹿にされてもいたみたいだし、それなりのところに就職しなきゃって思っていそうだから、前みたいな余裕はないはず。でも、通知表のことの共犯みたいになってるのが、嫌だな)
美穂は母の言っていた通りに就活で頭がいっぱいな姉に余計なことを言うことも、聞かれることもなくてホッとしていた。
同時にこれで、やっと実家から出られることを喜んでいた。
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