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姉の通っている高校では……。


「ねぇ、由美の話、もう聞いた?」
「聞いたわ。でも、滑り止めによく合格できたわね。本命の方は、落ちるとは思ってたけど」
「私も、それ思った。由美の成績じゃ、滑り止めの方も危ういと思ってたんだけど。勉強ほとんどしてないようで、こっそりやってたってことなのかな」
「それが、補欠合格だったみたいよ」
「なんだ。それなら、凄くよくわかる」


こんな風に由美のクラスだけでなくて、学校全体である意味有名人になっていた由美の話題で持ち切りとなってしまい、その間の姉の機嫌はすこぶる悪かったのは言うまでもない。


「由美。補欠合格したんだって?」
「っ、補欠じゃないわ!」
「今更、隠すことないわよ」
「か、隠してなんかないわ! 元々、家には妹がいて経済的に余裕がないだけよ!!」


そんなことを言っているとクラスの男子が……。


「なら、バイトでもしてればよかっただろ。家に余裕ない奴、バイトしてるぜ?」
「余裕あっても、バイトしてる。バイトしながら、受験勉強してるのもいるくらいだし」
「それか。経済的に厳しいのなんて前からわかってたなら、通うの無理なとこなんてわざわざ狙わないだろ? 奨学金を狙ってんのかと思えば、そうでもないみたいだし」
「っ、煩い! 私の家庭の事情にまで踏み込んで来ないでよ!」
「家庭の事情っていうか。由美の事情ってだけじゃん」
「言えてる」
「っ、」


そんな風なやりとりがクラスでも、他でも色々言われて由美が我慢ならずに色々言ったが、結局は由美の爪の甘さが露見したにすぎなかったようだ。

そんなやり取りを美穂が聞いていたり、見ていたらこう思っただろう。むしろ、由美が友達だと思っている面々は由美のことを友達だとは思っていなくて由美の気分次第で友達だったり、知り合いだったりするようなのと友達だと言い切れる人は少ないはずだ。

それこそ都合のいい関係でいるのは、由美と同じく、姉の周りにいる面々も同じようで、そんなのと付き合うのも、美穂としてはどうかしていると思えてならないが、そちらについても深く考えることはしないようにした。

由美のことで、姉の高校の人たちに直接会ったことはなかったからだ。でも、同じ高校にこれから通うとなると大変かも知れない。


(高校では、姉さんのあれこれを聞かずに済めばいいけど。父さんみたいな破天荒な話を聞くのは勘弁してほしいわ。どうせ、ろくでもないことばかりだろうし)


美穂は、推薦で受けられたが、姉があの調子なせいで、一般入試で試験を受けたが見事受かった。

その話を由美にわざわざ知らせることはなかったが、いつの間にやら知っていて、妹は自分の真似をしていると相変わらず他所でも言っているようで、それを耳にするたび美穂の我慢が、いつもより必要で大変だった。


(同じ高校にしただけで、姉さんを真似るのに必死に頑張ったとか思われるのは、全力で否定したいわ。家から程よく近いからってだけなのに)


そう思いながらも、美穂の癒しは野良猫だった。まるで労うかのように受験が終わったのを知っているかのように図書館に入る前に遭遇したのだ。


「なぁ~」
「こんにちは。撫でさせて」


まるで、全てわかっているかのようにゴロンと横になったのに美穂は笑いたくなった。


(やっぱり、人間の言葉がわかってる気がする。それと現れ方がもう既に悟ってる感じだな。人生何周目って聞きたくなるな)


そんなことを思いながら、撫でくりまわす手を止めることはなかった。野良猫にしては毛並みが物凄くよかった。


(家で猫を飼いたいな~。猫吸いしたい。お腹に顔を埋めてみたい)


そんなことを思いながら、猫を、撫でくりまわし続けた。


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