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そんな姉の横暴さは他にも随所にあった。それこそ、何をするにも姉は美穂と自分のことをやたらと比べたがった。

厄介だが、美穂としては他所でやっている分はよかった。いや、よくはないのかも知れないが、由美を良く知っている人なら、真面目に聞く人はあまりいないはずだ。

それにわざわざ由美に聞いたからと美穂のところまで会いに来て見定めるような人などいない。いたら、全力で美穂はすっとぼけていただろうが、そうはならなかった。

そのため、美穂は他所でどんなに貶されまくっても美穂に迷惑が及ばなければ、どうでもよかった。

それより、厄介なのは美穂に直接姉が美穂と同じくらいの時の話を聞かせてくることだった。


「こんなこともできないの? 私が、あんたくらいの時には楽勝でできたわ」
「……」


宿題をしているとそんなことを美穂は由美から言われるのだ。宿題をしているのを見られるたびにしつこく言われるのだ。美穂は家で勉強をするのが、小学生の頃から姉のせいだ嫌になったのは、全て由美がしつこいせいだ。

いや、違った。由美が家にいる時に勉強をするのが、嫌で仕方がなくなった。勉強自体は嫌いではない。そこまで、嫌いになっていたら、大変だったが、勉強は嫌いになることはなくてよかった。


(一々、過去の姉さんと私を比べなくてもいいのに。大体、そんなことしてる時間あるなら、自分の勉強でもしてればいいのに)


美穂は、そんなことを思っていた。それこそ、楽勝のはずなのに由美が、美穂の勉強を教えてくれたことはなかった。ただの一度もだ。教えてほしいと思ったこともないが、多分教えるのには全く向いていないのではなかろうか。

普通はここで自分が本当にできるアピールをして頼んでもないのにやたらと教えたがるとかしそうだが、由美はそういうことをする人ではなかった。言葉だけなのだ。愚痴愚痴と美穂は嫌味を言われ、自分の言ったことすら、すぐに忘れるのだから勘弁してほしい。

姉が言うのは自分の自慢話と美穂を貶すことくらいが殆どで、美穂はそんな姉を好きになることはなかった。そんな姉を好きになれるほど、美穂はできた妹ではなかった。

むしろ、大嫌いだと言ってやればスッキリするのかも知れないが、嫌いだと言う感情もあまりなかった。あるのは、関わりたくないというものばかりだ。


(きっと、同じ学年の人たちと張り合えるレベルじゃないから、私に色々言って来てるのね)


これだけでも、十分酷いのにここから更に酷くなったのは、美穂が交通の便のみを考えて選んだ高校が、由美の通っている高校で、そこを選ぼうとしていることが姉にバレた時だった。


「は? あんたみたいなのが、私と同じ高校に入れるわけがないでしょ」
「……」


同じ高校に行くことにしたことで、由美と比べられるだけでなく、絶対にムリだと言われることが増えたのだ。

それに美穂は、いつもげんなりしていた。だからといって、通うところを変えようとはしないのが、美穂だ。通学に楽な方を選ぶのは、家事全般をこなしたいからに他ならない。移動時間を短く抑えて掃除、洗濯、料理をこなしたいのだ。姉のためではなくて、私たち姉妹のために働いていてくれている母のために美穂ができることは、それくらいしかないと思ってのことだ。

姉に今更、とやかく言われてもどうということはあまりなかった。姉が在校生でいるとなれば話は別だが、美穂が入る前に姉は卒業するのだから問題ない。姉は大学生になっているはずだ。


(姉さんは、卒業してしまうわけだし、学校内で会うこともない。こうして、煩くされるのも今だけ。……まぁ、思い出すたびに騒がれるのは仕方がない。姉さんは、大学に行くのに家を出るはずだし、毎日されるわけでもないんだから、これを乗り切ればいいだけよ。無視しとけばいいだけ。これで集中力と精神力が強化されてると思えばいいだけ)


そう、思っていた。それが、思いの外しつこいことに美穂は、げんなりして大変だった。

由美は大学受験でストレスが溜まっていたのかも知れない。そのはけ口に美穂が愚痴られ、罵られ続けることになるとは思っていなかった美穂は、家にあまりいたくなくなっていくことになった。


「由美のことは気にしなくていいわよ。美穂が、通い安いところにすればいいんだから」
「そうする」


母が、家の手伝いを一生懸命なのを知っているからこそ、美穂に姉のところと同じ学校にしようとしたのを決めたのは、美穂が主体に決めたと思っていた。

でも、どこにするかで母に高校について話すうちにいつの間にやら、家の手伝いをするのに都合のよいところに決めることにしたのは、美穂が決めたことのようで、母が何気に一番いいんじゃないかと言っていたのが大きく影響していたことにも、この時の美穂は気づいていなかった。

自分で、全てを決めたと思っていた。姉に比べられても、姉と同じように姉妹でどっちが成績が上かなんかに美穂は興味なかった。

美穂の中では、母が認めてくれて納得してくれていれば、他はどうでもよかった。


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