姉に問題があると思ったら、母や私にも駄目なところがあったようです。世話になった野良猫に恩返しがてら貢いだら、さらなる幸せを得られました

珠宮さくら

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突然、由美にお弁当を作るように言われた美穂は、その前から機嫌が悪い姉に怒鳴られていたがら怒鳴られている方がマシだったかも知れない。

気乗りしない顔をしているのを、美穂は母が帰って来ても隠しきれずにいた。その内心では、嫌がらせのレパートリーが、次から次へと思いついていた。美穂も相当疲れていたようだが、本人はそんなに疲れている自覚はなかった。

仕事から疲れて帰って来た母に変な心配をかけたくなかった。いつもなら、姉が色々やったり、してきたりしても、母にわざわざ言わずに隠していた。

この時の美穂は隠しきれずに嫌だと顔全面に書かれていたようだが、それでも嫌がらせレシピばかりを脳内で上げまくっていたことまでは、バレてはいなかった。それを言っても母は咎めたりしないだろう。

でも、美穂としては母が姉にかかりっきりになるのも嫌だった。


「美穂。お弁当のこと、お姉ちゃんに私からきちんと話そうか? お弁当に関してのルールを決めたのは、向こうなんだし」
「……」


母も、姉が色々とルールを決める時に聞いていたのだ。高校では、こうなることがお手本のように美穂に見せたかったのだろうが、それを決めた本人が数週間で破るのも、これが最初ではない。そういう人なのだ。

そんなことを決めて、美穂と母に話したことすら、由美は都合よく忘れているに違いない。いつもそうだ。自分で色々決めて綺麗さっぱり忘れる人だ。


「別にいいよ。今に始まったことじゃないし。それより、母さんにもお弁当作ったら食べる? 姉さんの分だけを作るって、気乗りしないから」
「それは、あるとありがたいけど。いいの?」


美穂がお弁当を作ると聞いて、母の目が輝いていた。それだけで、嬉しそうにしているのがわかって美穂も、笑顔になった。中学生の作るものだ。そんな大したものは作れないのはわかっているはずだが、娘の作ったお弁当だとモチベーションが違うようだ。美穂には、それが嬉しくて仕方がなかった。


(我ながらいいこと思いついたな)


「いいよ。料理の腕をあげられると思えばいいんだし」
「そこは大丈夫よ。今でも、お姉ちゃんよりは上手だもの」


母の言葉に美穂は、こう返した。それに眉を顰めていた。


「姉さんを下回れる人なんて、早々いないと思うけど」
「それも、そうね」


母が納得して、美穂もそれを聞いて笑っていた。するとそこに部屋に戻っていた由美がキッチンにやって来て、美穂たちはすぐに笑うのをやめた。


(それが強制的でも、実になるのは私だし。私がお弁当が必要になるまでにレパートリーを増やしておいて損はないはず。まずは、母さんの好きなものをお弁当箱にいれるのも考えて、他にもバランスを考えないと駄目よね)


いつまでお弁当を作ることになるかを深く考えないようにした。どうせ、美穂が自分であれこれ考えても、由美が好き勝手に言うのだ。決めるのは、いつも由美だ。そうなるように騒ぎ立てるのだから、まいってしまう。それでも好き勝手させている方がまだマシにすら思えてしまうほどだった。

母も、仕事で疲れていることが多くて、由美と話をするのが大変なところもあったが、それでも美穂が頼み込めば必死になって会話をしようとしてくれていたはずだが、それをしてくれと頼むことを美穂はしたことがなかった。


(疲れてない時ですら、こっちの気が変になりそうなのに。疲れてる時には絶対に会話したくないのが、姉さんよね。それこそ、あのお弁当を友達と食べていたなら、色々言われないわけがないわ。見ながら食事なんてしても、相手の人たちの食欲が減るだけだろうし)


それで、今回のことを言い出したのにしろ。美穂が、色々と強く言わずに穏便に済むようにしているせいで、由美がつけあがっているようだ。そんな気がしながら、美穂も、母も、由美と話し合うことほど疲れることはないと思っていて、美穂は自分の作ったお弁当が、どう扱われるかを深く考えないようにした。

ただ、母が喜んでくれることだけが、わかってよかった。


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