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しおりを挟む仕方なく美穂が姉のお弁当の準備をしていると帰宅した母が、不思議そうにして美穂を見た。
「あら、美穂。それ、由美のお弁当箱じゃない。どうしたの?」
「姉さんに明日から作れって言われたの。自分の料理の酷さで、友達にでも笑われたみたい」
「あー、そう。ついに笑われたのね」
詳しい話を聞かずに美穂は、そんなことを推理していた。そんなにハズレてはいないはずだ。
母も、そうなるだろうと思っていたようで笑われることは想定内だったようだ。げんなりした顔をしていた。その顔は仕事帰りで疲れていたはずが、更に疲れた顔になっていた。
「由美の料理の酷さは、隔世遺伝ね。父方のおばあちゃんが、味覚音痴で料理は口だけ番長みたいな人だったから」
「……」
それを聞いて美穂は、目をパチクリとさせた。そして、ふと父方の祖父母のところでのことを思い出していた。
(似なくて良かった。そういえば、あの家で、おばあちゃんの手料理って出てきたことなかったな。まぁ、振る舞うとしても、姉さんにだけだろうけど)
あそこでは、お取り寄せしたものが並んでいた。それにも、由美と美穂たちでは同じものがテーブルに並んだことはなかった。由美が祖父母と同じもので、美穂と母はそれよりもランクの低いものが並ぶのが、あの家の当たり前だった。
(あそこで、料理が振る舞われなくてよかった)
心からそんなことを思った。それに加えて、由美の作り出すものは見た目の良さが皆無なのだ。美味しそうに見えないだけでも、最悪なのに。見た目を更に上回るほど、美味しくないものを作り出すのだ。それを平然と食べれる由美には別の恐ろしさを感じずにはいられない。
その辺は全く似ていない美穂は、そんな姉が料理当番にならないようにしていた。姉の作り出した料理と言えない代物よりも、美穂が拙く作るものの方がまだマシだったが、必死になった美穂の料理の腕はめきめきと上がった。自分自身も美味しいものを食べたかったが、何より母に美味しいものを食べてほしいからだ。娘たちのために必死に働いてくれているのだ。それなのに不味すぎるものを食べさせられない。
ある意味、由美のおかげだ。複雑なものがないわけではないし、由美にその辺を感謝する気は今のところ、美穂にはない。あるのは母への感謝だ。それだけは尽きない泉のように持っている。
それよりも今は姉のお弁当のことだ。どんなに現実逃避をしようとも、目の前の問題からは逃げられない。それでも、美穂は……。
(姉さんのお弁当だけは、作りたくないな。そんなことに労力を使いたくない)
そう思ってしまい、色々と考えようとしても、思いつくのはやはり嫌がらせの方の料理ばかりだった。それを全部口にしていたら、母が物凄く心配してくれて是が非でも、お弁当は自分で作れと由美に言っていたに違いないが、美穂がそれを口にすることはなかった。
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