7 / 42
7
しおりを挟む姉は本当に自分が作っている料理が不味いとは欠片も思っていなかった。それどころか、見た目も酷いとは全く思っていないのに変化はなかった。
目が悪いのではないかと思うかも知れないが、由美は両方とも1.5ある。何なら美穂の両方の目より視力はいいくらいだ。
(どこをどう見たら素晴らしい出来栄えに見えるんだか。それで、目が悪いならまだわかるけど、私よりいいのよね。やっぱり自分でやることだけが、変なフィルターに包まれて見えるみたいだわ。どういう風に見えてるのかが気にならないわけではないけど。自分の時と他の時には、どう見えているのかを並べて可視化できたらいいのに。区別ついてない気がするのよね)
由美は、自分がすることは完璧で料理が一番よくできていると思っているようだ。なんなら、得意な方だとすら思っている。それに変わりはないままで、それどころか。変な自信が増しているのは確かだ。
そんな風に思っているのを誤魔化すように美穂と母が色々と分担して家事をこなしていた。
(一食でも、姉さんの作ったものを食べたら、気分が変になる。絶対に口にしたくない)
それは、母も同じだった。母と美穂はかなり必死になって、由美の作った料理を食べないようにしていた。
その辺のことに必死になっていることに由美が気づくことはなかった。それこそ、掃除、洗濯を姉がしていても二度手間になるのだが、その辺のことにも鈍感で助かってはいる。鈍感でなければ、やり直しのようなことをしなくともいいと怒られていたはずだが、そうなったことはなかった。
そんな由美関連で、美穂の悩みは増えた。増える一方で、減ることはなかった。
(今日も、不味そう)
高校に入ってから、お弁当を作るようになった由美のお弁当を見て、美穂はそんなことを思っても口にすることはなかった。
料理の腕だけでなくて、美味しそうに並べるということも由美は上手くできないようだ。でも、自分のお弁当を毎朝きちんと作っているだけでも、姉としては凄いことだった。
それを毎朝目にしなければ、美穂はもっとよかったが、目に付くように由美はやるのだから、まいってしまう。
「何よ?」
「別に」
「どうせ、私のお弁当に見惚れてたんでしょ? あげないわよ」
「……」
(いらないわよ。そんなのをお昼に食べたら、午後の授業を受けられなくなるわ。それより、毎朝見るだけでも朝の食欲が失せてるのに。わざわざ見せつけるようにしないでほしいわ)
そんなことを思っても、美穂が言葉にすることはなかった。言葉にしたら、お弁当を作れと言われかねない。そんなことしたくないから、美穂は言われっぱなしになっていた。
「高校が始まって数週間だけど、お弁当なんて私には大したことないのよ。でも、あんたはこうはできないでしょうね」
「……」
(確かにできないわ。毎回、目にするたび、お弁当の中身が茶色なのに完璧なように言うんだもの。茶色ばっかりって、どうなの? 私なら、そんなお弁当を作って友達と食べるなんて恥ずかしくて見られたくないから、こっそりと食べるわ)
流石に美穂に色々言っても、友達に自慢しながらなんて食べることはないと思っていた。だが、由美は美穂が思っているような考え方をするような人ではなかった。もとから普通な人の考え方などできないのだ。自慢できるほどだと本気で思っているなら、恥ずかしくて友達と一緒になんて食べられないなんてことを思うことはないのは無理なのかも知れない。
美穂が妹で、下に見ているからではなくて、由美は自分以外を見下していたようだ。それは、父と父方の祖父母といい勝負だったようで、自分の作るものは完璧の何ものでもないという妙な自信がなくなることはなかったようだ。
22
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ままならないのが恋心
桃井すもも
恋愛
ままならないのが恋心。
自分の意志では変えられない。
こんな機会でもなければ。
ある日ミレーユは高熱に見舞われた。
意識が混濁するミレーユに、記憶の喪失と誤解した周囲。
見舞いに訪れた婚約者の表情にミレーユは決意する。
「偶然なんてそんなもの」
「アダムとイヴ」に連なります。
いつまでこの流れ、繋がるのでしょう。
昭和のネタが入るのはご勘弁。
❇相変わらずの100%妄想の産物です。
❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた、妄想スイマーによる寝物語です。
疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。
❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく激しい微修正が入ります。
「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる