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しおりを挟む姉は本当に自分が作っている料理が不味いとは欠片も思っていなかった。それどころか、見た目も酷いとは全く思っていないのに変化はなかった。
目が悪いのではないかと思うかも知れないが、由美は両方とも1.5ある。何なら美穂の両方の目より視力はいいくらいだ。
(どこをどう見たら素晴らしい出来栄えに見えるんだか。それで、目が悪いならまだわかるけど、私よりいいのよね。やっぱり自分でやることだけが、変なフィルターに包まれて見えるみたいだわ。どういう風に見えてるのかが気にならないわけではないけど。自分の時と他の時には、どう見えているのかを並べて可視化できたらいいのに。区別ついてない気がするのよね)
由美は、自分がすることは完璧で料理が一番よくできていると思っているようだ。なんなら、得意な方だとすら思っている。それに変わりはないままで、それどころか。変な自信が増しているのは確かだ。
そんな風に思っているのを誤魔化すように美穂と母が色々と分担して家事をこなしていた。
(一食でも、姉さんの作ったものを食べたら、気分が変になる。絶対に口にしたくない)
それは、母も同じだった。母と美穂はかなり必死になって、由美の作った料理を食べないようにしていた。
その辺のことに必死になっていることに由美が気づくことはなかった。それこそ、掃除、洗濯を姉がしていても二度手間になるのだが、その辺のことにも鈍感で助かってはいる。鈍感でなければ、やり直しのようなことをしなくともいいと怒られていたはずだが、そうなったことはなかった。
そんな由美関連で、美穂の悩みは増えた。増える一方で、減ることはなかった。
(今日も、不味そう)
高校に入ってから、お弁当を作るようになった由美のお弁当を見て、美穂はそんなことを思っても口にすることはなかった。
料理の腕だけでなくて、美味しそうに並べるということも由美は上手くできないようだ。でも、自分のお弁当を毎朝きちんと作っているだけでも、姉としては凄いことだった。
それを毎朝目にしなければ、美穂はもっとよかったが、目に付くように由美はやるのだから、まいってしまう。
「何よ?」
「別に」
「どうせ、私のお弁当に見惚れてたんでしょ? あげないわよ」
「……」
(いらないわよ。そんなのをお昼に食べたら、午後の授業を受けられなくなるわ。それより、毎朝見るだけでも朝の食欲が失せてるのに。わざわざ見せつけるようにしないでほしいわ)
そんなことを思っても、美穂が言葉にすることはなかった。言葉にしたら、お弁当を作れと言われかねない。そんなことしたくないから、美穂は言われっぱなしになっていた。
「高校が始まって数週間だけど、お弁当なんて私には大したことないのよ。でも、あんたはこうはできないでしょうね」
「……」
(確かにできないわ。毎回、目にするたび、お弁当の中身が茶色なのに完璧なように言うんだもの。茶色ばっかりって、どうなの? 私なら、そんなお弁当を作って友達と食べるなんて恥ずかしくて見られたくないから、こっそりと食べるわ)
流石に美穂に色々言っても、友達に自慢しながらなんて食べることはないと思っていた。だが、由美は美穂が思っているような考え方をするような人ではなかった。もとから普通な人の考え方などできないのだ。自慢できるほどだと本気で思っているなら、恥ずかしくて友達と一緒になんて食べられないなんてことを思うことはないのは無理なのかも知れない。
美穂が妹で、下に見ているからではなくて、由美は自分以外を見下していたようだ。それは、父と父方の祖父母といい勝負だったようで、自分の作るものは完璧の何ものでもないという妙な自信がなくなることはなかったようだ。
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