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しおりを挟む姉が高校に入ってからも酷かった。それこそ、これ以上はないだろうと思うようなことがあっても、更に上になるようなことをしでかすのだ。そんなことで、上なんて目指してほしくないが、前に自分が何をしてきたかすら覚えていないような姉だ。とやかく言ったところで通じるとは思えないし、直す気もない人に色々言う方が疲れるだけだと思って、美穂はやり過ごしていた。それが一番いい対処法だと思っていた。
そんな由美が、高校に入ってから自分でお弁当を作っていたのだが、それが見た目も味も酷かった。もっとも、それを美穂が食べるのならば、流石に疲れるなんて言っていなくて、自分で作るからと言っていただろうが、本人が作って食べているのだから、何か言うことは決してしなかった。そんな口出しをすれば、美穂に作れと言われるのがオチだ。そんな面倒ごとに関わりたくなかった。
(味覚音痴だから、不味いものでも平気で食べれるところは凄いとは思うけど。本人が食べてる分にはいいのよ。学校で食べてるところを私が毎日見るわけでもないし。でも、私や母さんには食べさせないでほしいわ。大体、どうやったら、あんな味と見た目になるんだか。変な才能が開花してるのよね)
姉の作る料理は最悪なものばかりだった。味もびっくりするほど不味いが、見た目も酷い。
そんなものを作り出して、それを平然と食べる姉に美穂と母は遠い目をよくしていた。同じ人間だとは思いたくないほどだ。それなのに由美はケロッとしていて、平然と美味しいと食べるのだから、どうしている。それを見ているのも嫌だったが、張り切っている時がとにかく危険だった。
(あの見た目に何とも思わず、平然と食べれて、不味いどころか。美味しいと言えるのは、姉さんだけでしょうね。とにかく自分の作ったものは絶品って思えるところが、ある意味、凄いわ。相変わらず、自分は優秀だって思ってるんだもの。あの人たちが褒めすぎたのがいけないのよ。その逆に私のこと貶してばかりいたから、そのまま私のこと貶し続けてるのよね。やめてほしいわ)
美穂は、毎回そんなことを思っていた。母も、同じことを思っていたようだ。由美が自分の作ったものを凄く美味しそうに食べるのを見させられてから、げんなりした顔をしていた。
「よく、あんなもの食べれるわ」
「食べてるの見てるだけで、こっちの気分が悪くなる」
母と美穂の2人は、信じられない顔をして由美を良く見ていた。きっと、そっくりな顔をしていたに違いないが、それに由美が気づくことはなかった。そういうことによく気づくのなら、美穂と母も顔に出さないようにしていたが、それで気づくようならば顔には絶対に出していなかった。そんなことに気づく人だとしても、あの調子の由美がそれで直そうとするわけがないのだ。そのことで変に期待してはいない。直らなくとも、できれば自分たちの前で食べないでほしいと思うくらいだった。
食べているのを見るだけで、美穂たちの食欲が激減するのだ。ダイエットに向いていそうだが、気分も滅入るため、オススメのダイエット法ではないことは確かだ。
(こんなんで痩せたくない)
「こんなことで痩せても全く嬉しくないわ」
「……」
美穂が言葉にしたのかと思っていたら、母がぼやいたようだ。思わず美穂が、母を凝視してしまった。
「っと。声に出してたみたいね」
「ううん。声には出してないけど、同じこと思ってた」
チラッと部屋に戻った由美がいる方を見た。家族の会話なんてものを由美は大事にしてはいない。用もなければ、リビングにいないで部屋にこもっている。
そういう時は、美穂と母はこっそりと家を出てコンビニやスーパーでデザートを買って食べてから戻ったりしていた。
時折、甘いものを食べないとやっていけなくなっていたが、それで美穂が太ることはなかった。それだけ、由美の作るものを食べずに目にするだけで気持ち悪くなったが、それさえ目にしなければ、どうと言うことはなくて食欲も戻っていた。
それが他の料理を目にしても、きちんと食べれていたからよかった。そうでなければ大変だったが、美穂も母もそうのることはなかった。
「やだ。太ったわ」
「……」
太ることになったのは、母だった。太ったことを気にし始めたのを知った美穂は、姉が食事当番になるのをどうにか阻止するようになったのも、この頃からだった。
自分のため以上に母の健康を気にしていたことの方が大きかったかも知れないが、そんなつもりは美穂にはなかった。
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