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しおりを挟むそんなことがあって、週末明けになった。
「2人とも、程々にしとけよ」
「「わかってる」」
「?」
兄の言葉と従姉兄たちの言葉もわからなかったイヴォンヌは首を傾げつつ、婚約者のランベールを見上げた。
ただ、自己紹介をしただけなのだが、妙な緊張感を感じたのだ。何か間違えたのだろうか?
イヴォンヌは、自分の言ったことを反芻したが、まずいことは言ってはいないはずだ。
「ランベール様?」
「……イヴォンヌ。君の従兄と話してみたいから、今日は従姉と馬車に乗ってくれないか?」
「え?」
「なら、私はランベールと乗ろう」
兄が、そう言うのを従姉が止めようとしたが……。
「イヴォンヌと2人っきりで学園まで行くのに不満なのか?」
「え? あ、そうね! イヴォンヌがいればいいわ」
従姉は、上機嫌でイヴォンヌの腕に絡みついて来た。
「姉さん! ずるいぞ!」
「なら、やめればいい。だが、学年が違うんだ。授業は、イヴォンヌは婚約者とずっと一緒だぞ?」
「っ、ランベールと言ったな。話をしようじゃないか」
「えぇ。女性陣は、私の家の馬車を使ってください」
「え、でも……」
「我が家の馬車を改良したんだ。乗り心地を試してみてくれ」
「あら、それはいいわね。イヴォンヌ、試してみればいいわ」
「……」
従姉に引っ張られて、ランベールの家の馬車に乗った。
ちらっと見ると何やら盛り上がっている男性陣にイヴォンヌは、朝から元気だなと見ていた。
従姉は、学園に行くまでご機嫌だった。
「この馬車、凄いわね」
「そうですね」
馬車の乗り心地の良さにイヴォンヌたちは、楽しんでいた。
イヴォンヌの従兄とランベールは、イヴォンヌの実の兄より仲良くなって馬車から降りて来た。
「ミイラ取りがミイラになったわね」
「姉さん。ランベールは、凄いぞ!」
「……ふん。私は、弟みたいに騙されないわよ」
だが、数日すると従姉も、従兄と同じようにランベールのことをすっかり気に入っていた。
その間、何があったかをイヴォンヌはよく知らない。
「イヴォンヌ」
「はい」
「お前、とんでもないのと婚約したな」
「?」
兄は、1人疲れた顔をしていた。すっかりランベールの味方になっていた。従姉兄たちにあれやこれやと言われるようになり、兄は頭痛を覚えたようだ。
「たまには、婚約者と2人っきりで出かけなさい」
「いえ、せっかくですから、みんなで行きましょう。その方が、イヴォンヌも喜びます」
そんなことをすかさずランベールは言い、イヴォンヌもそれに頷いていた。
みんなで仲良くしていた。なんだかんだとイヴォンヌの兄も巻き込んで賑やかに移動していた。
兄が婚約するまでは、そんな光景が街や学園で目撃され、実に平和だった。
いや、一部は平和ではなかった。
「あの2人、王弟殿下の娘と息子だろ?」
「なんか、令嬢の方が格好いいわね」
「子息は、可愛らしいけど、これからでしょ」
「何言ってるのよ。あの方、ランベール様より年上よ」
「……あのままは、ないでしょ」
そんなことをあちらこちらで話題にしていたが、2人に話しかける強者もそれなりにいた。
だが、国王の弟が、生まれた時から父親なのだ。生半可な覚悟で話しかけても、撃沈するだけだった。
「お従姉様にですか?」
「えぇ、お茶会をするので、ぜひ、イヴォンヌ様と来てほしいの」
「あら、お茶のお誘い?」
「っ、は、はい! 女性のみのお茶会なんです」
「……女性だけ?」
「えぇ、みんな、お近づきになりたくて」
「ふ~ん。あなたみたいに可愛い子が来てるの?」
「か、可愛いなんて、そんな……」
何やら、顔を真っ赤にしている令嬢にイヴォンヌは、心配そうにした。
「イヴォンヌのお友達?」
「はい。ランベール様と親しくしているご友人の婚約者で、仲良くしてもらっています」
「あら、そうなの! なら、ぜひ、イヴォンヌと一緒に参加するわ」
「ありがとうございます!」
「お従姉様」
「女の子の友達は、多いに越したことないもの」
「?」
そのお茶会で、従姉はモテモテだった。
イヴォンヌは、楽しそうなみんなを見てにこにこしていた。
従姉のおかげで、イヴォンヌはこの日から令嬢の友達が増えることになるとは思いもしなかった。
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